ユーザー獲得のためにSNS「Pinterest」が取り組んだ作戦とは
ユーザーがそれぞれ自分の興味のあるものや趣味の写真や画像をアップロードし、「ピン」と呼ばれる機能を使うことで人とのつながりを広げられるSNSが「Pinterest」です。2010年にサービスが始まった、SNSでは新しい部類に入るサービスですが、どのような取り組みを行うことで着実にユーザー数を増やすことに成功しているのか、実際にこの戦略に携わった担当者がブログでその内容の一端を明らかにしています。
Making Pinterest — Lessons in growth and increasing signups
http://engineering.pinterest.com/post/100594540604/lessons-in-growth-and-increasing-signups
「Pinterestでは、常に新規ユーザーの獲得に向けた方策のアイデアをブレインストーミングしてきました」と成長戦略担当チームのJean Yangさんは語ります。過去数年にわたり、PinterestはさまざまなA/Bテストを繰り返すことでサインアップ(登録)するユーザー数を飛躍的に増やすことに成功してきました。
YangさんはPinterestのミッションについて、「人々が趣味や好きなことについて発見し、実際にそれらのことを実践するサポートをする」と語ります。Pinterestで使える「ピン」機能やメッセージ機能、おすすめ機能は登録したユーザーしか利用できないため、チームではまだ利用したことのない人々に対して新規にサービスに加入してもらうことに力を注いできました。
◆ある出来事から始まった取り組み
2014年5月、Pinterestはユーザー登録していないと利用できないサービスを開始しました。開始にあたっては以下のような、「登録すれば何ができる」という情報の一切ないシンプルな登録画面を用意したのですが、新たに登録するユーザーが多く現れました。
サービス内容がわからないのに新規登録したユーザーの存在を興味深く思ったチームは、このユーザーたちがPinterestを使い続けるかどうか、定着率を観察することにしました。すると、通常の流れで登録したユーザーと同程度の定着率であることがわかりました。
それほど重要視していなかった部分にもかかわらず、思いがけない訴求効果が発揮された出来事だったわけですが、これをきっかけにチームではサイトのいろんな場所に同じような登録を促す流れを作って実験を行ってみることにしました。
◆まだ登録していないユーザーを理解する
新規ユーザーに注力することはもちろん、まだ登録には至らない「訪問者」をないがしろにすることは避けたいと考えていたチームでは、独自の評価軸を設定することでユーザーエクスペリエンスの質を確保し、将来的な成長戦略に影を落とす事態を避けるための対策をとりました。
その評価軸がこの3つ。通常の「ログイン率」「登録率」に加えて、潜在的なユーザーの動向を把握するための指標となっています。
・登録前ユーザーのエンゲージ量(Unauth engagement)
→登録していないユーザーがサイト訪問時に行ったアクションの数
・登録前ユーザーの定着率(Unauth retention)
→登録していないユーザーが前回のサイト訪問時から1週間以内に再訪した割合
・登録済ユーザーの定着率(Signup retention)
→サービス登録後に実際に主なサービスを利用したユーザーの割合
◆パターン変化による検証その1・UI表示のバリエーション変化
チームでは、ユーザーが登録に至るまでの道のりにさまざまな変化を加える実験を行いました。たとえば、登録を促すウィンドウでは以下の3つのバリエーションを実験。ある程度ユーザーにPinterestの魅力を伝えた段階で、登録を促す際の画面にいくつかの変化を加えてみたのが以下の実験。3つのバリエーションが用意されました。
ログインか登録かを選択させるスルー不可なもの
ログインか登録かの選択肢があり、ダイアログ右上の「×」をクリックすれば登録せずに進むことが可能なもの。
右上の「×」に加えてログインの代わりに「Skip for now(今回はスキップする)」ボタンを表示し、容易にスルーできるもの。
3つのパターンを試したところ、1つめの「スルー不可」が他よりも2~3倍の登録率を示し、しかもその後の定着率も良好であることがわかりました。このように、たとえ少々強引とも取れる手法であっても、きちんとユーザーの誘導が済んだ段階であれば良好な結果につながることがわかっています。
◆パターン変化による検証その2・カラーを変えてみる
また、登録誘導のダイアログの表示色を変えて比較。2種類のパターンが試されました。
1.黒地に白い文字
2.白地に黒い文字
結果は「1.黒地に白い文字」の勝利。見比べてもわかるように、明らかに訴求効果が高そうな様子になっており、登録率が10%高い結果を表しました。
◆パターン変化による検証その3・表示されるテキストの内容も変えてみる
上記のカラー変化に加えて、今度は同じダイアログに表示される文章を変えて比較テスト。以下の(A)がもとになるテキストとなっており、これとは別の5つのパターンを用意してどれが最も高い登録率を示すか調査が行われました。
結果は、最初から使われていた(A)が他よりも5%程度高い数値を示すことがわかりました。(A)で使われている「there's more content available(登録するともっと多くのコンテンツを利用できます)」という内容が、他の「~を見つけよう」や「アイデアに触れよう」などの内容よりも高い訴求効果を示していたことが明らかになっています。
◆一時的な現象だけでなく時系列で判断する
チームでは常に「ノベルティ効果(新しいものに対して高い反応を示す傾向)」の存在を考慮に入れて検証を行っていたとのこと。サイト上で変化を加えるたびに一定の反応が現れるものの、それは一過性の現象にとどまることがあるので、例え初期には効果がなかったとしても一定期間の経過を観察することを心がけていたそうです。
また、数値を見る際には特定の瞬間だけではなく一定期間内の傾向を確認するようにしていたとのこと。以下のグラフでは具体的な数値は伏せられたままですが、ある2つのユーザー層でみられた定着率の推移が表されています。赤い折れ線が示す「enabled 2」グループは、ある瞬間では一方の「controled 2」グループを上回ってはいたものの、長期の視点で見れば常に他方よりも低い値を示しており、短期よりも長期の傾向を見ることの重要性をよく実感することができます。さらに、当初はごくわずかだった両者の値の差異も、多くの場合で開きを見せていたという傾向を見てとることもできます。
また、ごく初期にサービスに申し込んだ「アーリーアダプター」と呼ばれるユーザー層は、総じて高い定着性を持つことも浮き彫りになっています。一方で時間が経ってから登録したユーザーは、比較して低い定着性を示します。この種の検証実験を実施する際には、このような現象が存在していることを理解しておくことも重要です。
◆Pinterestの次のステップは?
今回の検証をもとに、Pinterestではさらなる検証を行っていく予定とのこと。登録率と定着率の向上には一定の効果が現れましたが、今後は各機能の翻訳・ローカライゼーションを進めることで現れる効果の検証などが行われる予定となっているそうです。
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