「16歳未満のSNS禁止法」の黒幕はオンラインギャンブル広告の規制を阻止したい広告代理店だった可能性

2025年12月、オーストラリアで世界初となる「16歳未満のSNS利用を禁止する法律」が施行されました。これにより、政府が指定したプラットフォームは16歳未満のアカウントを無効化していますが、実はこの法律を推進していたのは「オンラインギャンブルの広告を手がける広告代理店」だったことが判明しました。
Teen social media ban group funded by firm making gambling ads
https://www.crikey.com.au/2025/12/12/pro-teen-social-media-ban-group-funded-firm-making-gambling-ads/

Australia’s Social Media Ban Was Pushed By Ad Agency Focused On Gambling Ads It Didn’t Want Banned | Techdirt
https://www.techdirt.com/2025/12/15/australias-social-media-ban-was-pushed-by-ad-agency-focused-on-gambling-ads-it-didnt-want-banned/
オーストラリアで施行された16歳未満のSNS利用を禁止する法律は、政府が指定したXやInstagram、TikTok、YouTube、Twitch、Threads、Facebook、Snapchatなどのプラットフォームに対し、16歳未満のユーザーのアカウントをすべて無効化し、16歳になるまで利用できないようにすることを義務づけるものです。
この法律はさまざまな議論を巻き起こしており、Redditは「憲法で定められた政治的言論の自由を侵害する」として高等裁判所に提訴しています。そんな中、オーストラリアのウェブメディアであるCrikeyが、「16歳未満のSNS利用を禁止する法律を推進するキャンペーンを運営していたのは、オンラインギャンブル広告を手がける広告代理店だった」と報じました。
16歳未満のSNS利用を禁止する法律を推進したロビー団体は、SNS禁止の対象年齢を13歳から16歳に3年間(36カ月間)引き上げることにちなみ「36 Months」と呼ばれています。36 Monthsのキャンペーンを企画・制作していたのは「FINCH」という広告代理店で、FINCHはオーストラリアの大手オンラインギャンブル企業・TABの大規模なギャンブル広告キャンペーンも手がけています。
FINCHのウェブサイトをチェックすると、TABのスポーツ賭博広告が実績として表示されていました。Crikeyによると、FINCHは2017年以降だけで少なくとも5件のギャンブル広告を手がけており、FINCHの広報責任者が36 Monthsのマネージングディレクターを兼任していた期間もあったとのこと。

オーストラリアは以前からオンラインギャンブル広告の禁止を検討していましたが、法律が施行される直前の2025年11月に、「オンラインギャンブル広告に対して脆弱(ぜいじゃく)な16歳未満のSNS利用が禁止されること」を理由として、追加の調査を行わないことが決定されました。
テクノロジー系メディアのTechdirtは、16歳未満のSNS利用が禁止されたとしても、子どもたちはさまざまな手段で依然としてインターネットにアクセスし続けると指摘。そのため、「子どもが保護されたからオンラインギャンブル広告はそのままにしていいだろう」という考えは間違っていると主張しています。
FINCHが16歳未満のSNS利用禁止を推進した理由が、オンラインギャンブル広告の規制を回避するためだったという明確な証拠はありません。しかし、FINCHは独自で36 Monthsのキャンペーンに資金提供したと主張しており、オンラインギャンブル広告の保護以外にキャンペーンを推進する目的は見当たりません。
なお、FINCHが展開した36 Monthsキャンペーンの一部には、ソーシャルメディアの禁止に疑問を呈する人に対し、何の証拠もないのに「大手テクノロジー企業のサクラだ」と非難する行為も含まれていたとのこと。36 Monthsの広報責任者はCrikeyに対し、非難した人々が大手テクノロジー企業に買収されていた証拠について「調べていない」と認めたそうです。

Techdirtは、オンラインギャンブル広告を守るために16歳未満のSNS利用禁止を推進したFINCHの動きについて、「密造酒業者とバプテスト派」の比喩のようだと指摘しています。
密造酒業者は、禁酒法が制定されて合法的な酒が駆逐されることで、結果として自分たちの利益を増やすことができます。そこで20世紀前半、密造酒業者はアルコールの害を訴えるキリスト教バプテスト派を後押しして、合法的な酒の販売を禁じる取り組みを推進しました。このように、「表向きの規制を望むグループ」と「規制の目的を損なうことで利益を得るグループ」が結託して規制を支持する構造は、「密造酒業者とバプテスト派」と呼ばれます。
Techdirtは、FINCHを含むギャンブル業界はSNS広告を禁止される危機に直面する中で、「子どものことを考えろ」と主張するモラルパニックに便乗してキャンペーンを展開し、結果として自分たちを守ることに成功したようだと主張。「今やギャンブル広告は、政府が『保護対象』と宣言した層へ自由に流れ込んでいます。その一方で、実際の子どもたちは新たな安全策が一切講じられないまま、禁止措置をすり抜けています」と述べました。
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