幻覚剤「LSD」を40年ぶりに人間に投与できる科学者
By Luc De Leeuw
LSDは1943年から1963年にかけて市販薬として販売されていた幻覚剤で、サイコセラピーなどの精神療法の中で使用されていました。若者やヒッピーの間で乱用が広まったために世界各国の法律で規制され、日本では1970年から麻薬及び向精神薬取締法で輸出・輸入・所持・使用などが厳しく取り締まられています。そんなLSDの幻覚剤治療として効果を実証するため、40年ぶりに人間にLSDを投与する認可を受けた科学者とは、一体どのような人物なのでしょうか。
Dr Robin Carhart-Harris is the first scientist in over 40 years to test LSD on humans - and you're next - People - News - The Independent
http://www.independent.co.uk/news/people/dr-robin-carhartharris-is-the-first-scientist-in-over-40-years-to-test-lsd-on-humans--and-youre-next-9667532.html
ロビン・カーハート=ハリス博士はインペリアル・カレッジ・ロンドンの神経精神薬理学センターで、LSDなどの幻覚剤に関する研究を行う科学者。博士はイギリスで1971年から薬事法で使用が禁じられているLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)を、合法的に実験協力者に投与できる資格を受けた唯一の人物で、薬物を投与された脳の影響を調査することで、幻覚剤を使ったうつ病などのサイコセラピー治療の発展に貢献しています。
植物由来の幻覚剤としてはペヨーテなどのメスカリン、アヤワスカなどから作られるDMT(ジメチルトリプタミン)、マジックマッシュルームで知られるサイロシビンなどが挙げられ、1000年以上にわたって世界各地で治療薬や医療薬として使われています。
By Zhi virgo
LSDは1943年に製薬会社サンドで麦角の研究していたアルバート・ホフマン博士が、指先についた少量の溶液によって思いがけないサイケデリックな体験を得たことから開発されたもの。ホフマン博士は100歳になる直前にインタビューを受けており、LSDのことを「魂の薬物」と呼んでいます。
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LSDの誕生をきっかけに、幻覚剤の系統的な科学的研究が幕を開けます。1947年までLSDは精神療法の補助薬「Delysid(デリシッド)」としてサンド社から販売されており、俳優のケーリー・グラント氏や、アルコール中毒者更生会(AA)の共同創立者ビル・ウィルソン氏がセラピーのために使っていたことで有名になりました。
サンド社がLSDの発売を中止した時点で、1950年代~1965年にかけて作成された4万人もの患者の臨床結果を記載した書類が残りました。2012年、その書類をもとにメタ分析による6種類の比較対照試験を実施した結果、アルコール中毒治療が発展した近年においても臨床の効果が有効であることが確認されています。ハリス博士は健康に害を与えずにLSDの効果を得られる「微量な服用量」について熟知している一方で、博士は「個人的には、LSDには中毒を引き起こす多くの危険性があると考えています」と話しています。これはあくまでLSDの摂取による精神病理的な脳活動の変化を知っている人が、積極的に摂取を求める場合に起こりえるとのこと。別の医者も幻覚剤の潜在的危険について、「専門家による治療上の適切な説明と警告が必要である」と考えています。
ハリス博士は「幻覚剤はある種の可逆性を持つといういくつかの証拠があります」と説明します。幻覚剤は脳内の神経接続に関して、神経接続の破壊と強化を選択できる可能性を持っており、「新しいことの学習」と「古いことの忘却」を同時に行うことができるということ。その結果、「心に一種の柔軟性を引き起こすことができます」とハリス博士は説明します。
快感を得たいがために幻覚剤を摂取する場合、知覚の変化や新奇さに夢中になり、混乱や心配をよそに笑いが止まらなくなるかもしれませんが、ハリス博士がテストで投与する服用量は、違法に薬物を入手して服用する常習者が摂取する分量よりもはるかに微量なもの。それでも実験に参加するボランティアは、ソファーの上で寝転んで目を閉じることで、感情と記憶が押し寄せる感覚を経験します。ハリス博士は「彼らがその時の心理状況を説明する時が、最も興味深い瞬間です」と話しており、遠い過去の記憶をまるでたった今起きたことのように鮮明に語ることがあるとのこと。このような効果は心理セラピーに非常に有効です。
2014年7月、Daily Mailはハリス博士の「マジックマッシュルームによるうつ病治療」に関する記事を掲載していますが、その中には「サイシロビンの摂取はあなたの脳を油で揚げて低下させる」「もし死んでしまったり、精神病院送りになったら憂鬱になることもできません」と、実験の効果を批判する内容の記述が含まれています。
Are magic mushrooms the key to treating depression? | Mail Online
これに対してハリス博士は「幻覚剤への恐怖に対する標準的な反応」と捉えています。実際に過去に数例だけ幻覚剤の乱用による精神異常の発症報告があり、1960年代に少数の死亡例も報告されていますが、錯乱した結果であったり、粗悪品に含まれる不純物によるもので、現代では幻覚剤の乱用に関する死亡報告は確認されていないとのこと。また、ボランティアの募集は以前に幻覚剤の服用経験を持つ人のみに限定して実験を行うなど、慎重な選別を心掛けています。
LSDは1971年の国連会議で向精神薬に指定されており、同年に制定されたイギリスの薬物乱用法では、ヘロイン・コカイン・クラック・MDMA (エクスタシー)・メタンフェタミン・マジックマッシュルームを含む、薬物クラスでは最も危険とされるクラスAに指定されています。The IndependentはLSDの区分けについて、悪評を与えて研究を妨害する「歴史上の事故」と表現しています。
By Karthik BK
2010年に医学雑誌ランセットで公表された研究結果によると、違法薬物が使用者および社会に与える危害を証拠ともに採点およびランク分けしており、サイロシビンが最下位の6ポイント、LSDが18番目の7ポイントとなっています。なお、アルコールは72ポイント、ヘロインは55ポイントとなっています。
それではなぜLSDが今もなお危険薬物として制定されたのか?ということについて、ハリス博士は「幻覚剤は心を裸にしてしまうため」と説明します。ジークムント・フロイトが説いた「無意識」は調査が難しい領域ですが、幻覚剤は「自己意識を分解」する特徴を持っているため、無意識下の心の動きの観察に適しているとのこと。
なお、世界中で向精神薬として指定されているために、LSDに関する研究はなかなか進められないわけですが、1998年3月にベックリー財団のアマンダ・フィールディング氏がハリス博士に対してLSD研究の資金の大部分を提供したように、幻覚剤治療を支援する人も存在します。ハリス博士はさらなる科学的な効果を立証するため研究を続ける予定で、今後はクラウドファンディングによる資金調達も考えているとのことです。
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