なぜ年を取るごとに眠れなくなっていくのか?
By Paul Curto
子どもの頃は1日に12時間寝ても平気だった人もいるかと思いますが、大人になると幼少期よりも睡眠時間は短くなるもので、高齢者になればその時間はさらに短くなっていきます。そんな年を取るごとに減っていく「睡眠時間」のメカニズムを、神経学者が解き明かしています。
This could explain why older adults can't stay sleep - Futurity
http://www.futurity.org/neurons-older-adults-insomnia-750332/
「高齢者の多くが不眠症に悩ませられている理由や、その他の睡眠障害の根本的な原因は不明なままです」と語るのは、トロント大学で神経病学の助教授を務めるAndrew Lim氏。彼は、「我々は脳の特定の位置でニューロンが減ると睡眠のコントロールが難しくなる、という証拠を発見した」と言い、年を取り脳から抑制性のニューロンが減少すると睡眠時間が短くなり、これがアルツハイマー病の一因になっているかもしれないことを、歴史上で初めて発見したそうです。
◆深刻な不眠症
1996年、ミシガン大学のSaper Labが、ネズミの間脳の一部にある抑制性ニューロンの集合体である腹側外側視索前野(VLPO)は、「睡眠と覚醒を切り替えるスイッチ」のように働くことを発見しました。この研究所で働いていたLim氏は、「我々は動物を使った研究で、このVLPOというニューロンが減ると深刻な不眠症に陥ることに気づきました」と言います。
人間の脳細胞の一群は、ネズミのVLPOと同じような位置に存在し、同じ抑制性神経伝達物質のガラニンやVLPOが存在します。そこで研究者たちは、「もしも人間の脳の中枢部が、動物の脳のVLPOと同じように睡眠にとって重要な働きをするならば、VLPOは人間の体でも同じように睡眠・覚醒サイクルにも大きな影響を与えているかもしれない」という仮説を立てたそうです。
By Paolo Margari
◆調査
この仮説を検証するため、Rush Universityで実施されたMemory and Aging Projectの研究データを分析します。Memory and Aging Projectというのは、地域密着型の老化と痴呆症に関する研究プロジェクトで、1997年にスタートしてから65歳以上の高齢者1000人以上を対象に調査し、調査対象の死後は脳を寄付してもらい、この脳を調査したそうです。
そんなMemory and Aging Projectの被験者の多くは、2005年以降Actigraphyと呼ばれる人間の活動サイクル記録を2年ごとに経験しているとのこと。Actigraphyでは、被験者に小さな腕時計型のデバイスを利き腕ではない方の腕につけてもらい、7日から10日間過ごしてもらいます。この腕時計型のデバイスは装着者の大小の動作を15秒間隔で常にモニターし続け、これが研究に活かされるそうです。
By Ed Yourdon
このプロジェクトでは、調査期間中に死んだ45人の被験者の脳も調査しており、脳の持ち主たちの平均死亡年齢は89.2歳であったとのこと。この「死後の脳の調査データ」と「生前の活動データ」を元に、Lim氏は「もしも人間の脳の中枢部が、動物の脳のVLPOと同じように睡眠にとって重要な働きをするならば、VLPOは人間の体でも同じように睡眠・覚醒サイクルにも大きな影響を与えているかもしれない」という仮説を検証していった、というわけです。
◆睡眠の断片化
検証の結果、「年配のアルツハイマー病ではない被験者の間で、VLPOの数と比例して睡眠断片化が起きていることが分かった」と、Lim氏。研究結果によれば、被験者である65歳以上の高齢者の中で、ニューロンの数が少ないほど睡眠の断片化が生じていることが判明します。さらに、大量のニューロン(6000以上)を持つ被験者は、睡眠時間の50%以上を長時間睡眠、つまり細切れでない睡眠が取れるのに対し、ニューロンの少ない被験者(3000未満)は、睡眠時間の中で40%未満の長時間睡眠しか取れていないことが分かったそうです。さらに、アルツハイマー患者の間ではこの症状がより深刻に現れていたそうです。
By epSos .de
「この研究結果は、老人の抱える不眠症や他の睡眠障害に対する新しい治療方法につながるかもしれない。また、最近の研究結果は睡眠障害がアルツハイマーを引き起こしたり症状を強めたりするかもしれないことを示しており、症状を改善したり遅らせたりするための何かしらのきっかけがここからつかめる可能性があります」と、Lim氏は今後の展望を語っています。
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