サイエンス

サッカーの無回転キックやフリーキックがなぜあのような軌道をとるのか?


デイビット・ベッカムロベルト・カルロスの「ボールの軌道をねじ曲げる」フリーキックは、一様流の中に置かれた回転する球に、一様流に対して垂直な力(揚力)がはたらく現象「マグヌス効果」によるものだ、と物理シミュレーションソフトウェア開発のCOMSOLで働くEd Fontesさんは言います。そして、このマグヌス効果とワールドカップ2014ブラジル大会の公式球であるBrazuca(ブラズーカ)の関係を、数値流体力学(CFD)を用いて分析した結果も公開しています。

The Magnus Effect and the World Cup™ Match Ball | COMSOL Blog
http://www.comsol.com/blogs/magnus-effect-world-cup-match-ball/

2014年のブラジルワールドカップにて使われている公式球「ブラズーカ」は、アディダスによって制作されているボールで、通常のサッカーボールのように六角形と五角形のパネルを貼り合わせたものではなく、6枚のポリウレタン製パネルを貼り合わせてできたものです。

By Gabriel Cabral

Fontesさんは、幼いころにサッカー選手になりたいと夢見ながらも、1980年代に自動車空気力学に関心を持ち、結局はCOMSOLのエンジニアになった、という人物。そんなFontesさんが、自身が学んできた空気力学やボールの回転がボールの軌道に及ぼす影響をまとめています。

◆ボールと回転
ボールの回転は、周りの流れを安定させ、その結果ボールの軌道も安定させる効果があります。

ボールの回転が少ない、もしくは無回転で飛んでいく場合、流体中で固体を動かしたときにその後方に交互にできる渦の列である「カルマン渦」がボールの後ろに発生します。

左端にある白色の丸の右側にできているのがカルマン渦。


ボールの後ろのカルマン渦は抗力を生み出すだけでなく、ビーチボールを蹴った際の予測不能な軌道や、野球のピッチャーが投げるナックルボールのように、ボールを予期せぬ方向に動かします。実際にサッカー選手が無回転のボールを蹴ると、ボールの軌道はボールを蹴った本人にも分からない、いわゆる「ブレ球」になるわけ。

本田圭佑 ブレ球FK AMAZING!!! Keisuke Honda Freekick (Watch in HQ) - YouTube


無回転ボールの半無秩序なボールの軌道は、部分的にCFDモジュールのシミュレーションを使って説明することが可能とのこと。

以下の図は、赤道上でボールの速度と同じ速さで反時計回りに回転するボール(つまり、比較的ゆるい回転のボール)の後ろにできるカルマン渦をCFDモジュールを使ってシミュレーションしたもの。


真上からみるとこんな風にボールの後ろにカルマン渦が発生し、この渦によりボールは予測不能な方向に曲がる、ということがなんとなく分かります。


◆回転とマグヌス効果
ボールの回転速度がある程度増すと、ボールの後ろにできるカルマン渦の効果は小さくなり、ボールの進行方向と完全に均衡がとれるようになります。なので、一定スピード以上の回転をするボールの弾道を予測することは非常に簡単のようです。

ボールの回転速度と気流はお互いに反発し、ボールのスピードと大気圧もボールの軌道に大きく関連してきます。そして特にボールのスピードが落ちて、ボールの回転速度が相対的に速くなった際、ボールを横方向に引っ張るマグヌス効果は強くはたらき、ボールの軌道が大きく曲がる、とのこと。

これはボールを進行方向側から見た際のシミュレーション画像。これだけだと、気流(黄緑の縦線)を大きく乱していることくらいしか分かりませんが……


真上から見ると、ボールの進行方向とは垂直にマグヌス効果がはたらき、ボールが時計回りに回転しているならばボールの進行方向に向かって右に90度、反時計回りに回転しているならば左に90度の方向に力が加わることが分かります。


強い回転とマグヌス効果のはたらくボールがどのような軌道をとるかは、以下のムービーを見れば分かります。

David Beckham's free kick against Greece - YouTube


◆ボールのデザインと乱気流
上記のボールの軌道とボールの回転についての考察はある程度役立ちますが、サッカーボールの軌道をシミュレーションする際は「ボールがどのような構造をしているか」と「ボールの後方にできる乱気流」も非常に重要な要素となります。

通常、層流で構成された境界層では、ボールから気流が離れるSeparation Pointが下図のようになり、ボールの後ろに大きな乱気流(抗力)ができ、ボールのスピードは一気に落ちることとなります。


反対に、乱流で構成された境界層では、ボールから気流が離れるSeparation Pointが層流の場合よりも後ろ側になり、ボールの後ろにできる乱気流は小さくなるので、スピードを維持しやすくなります。


そして、ボールの速度が速くなればなるほど、ボールの周りの気流は層流から乱流に変化し、反対にボールの速度が落ちればボール周りの気流は乱流から層流になります。

しかし、ワールドカップ2010南アフリカ大会の公式球であるジャブラニがリリースされて以来、ボールのデザインとボールの軌道に関する研究はより激しいものになっていきました。なぜなら、従来の黒塗り五角形のパネル12枚と、白塗り六角形のパネル20枚の合計32枚で構成されたサッカーボールとは異なり、ジャブラニは特殊な形をしたパネル8枚を貼り合わせることでできあがるボールであったからです。


上図の黒色部分がパネルとパネルの縫い目なわけですが、これはこれまでのサッカーボールよりも縫い目が少なくなっています。その結果、これまでのボールとは異なる抗力係数、つまり空気力学上の特性を持つこととなり、ジャブラニは他のボールとはまったく異なる軌道を描くことになります。具体的にその特徴を言うと、通常よりもロングキックやミドルシュートに伸びがあり、ボールの変化も大きくなった、とのこと。

2014年大会の公式球であるブラズーカは、ジャブラニよりも少ない枚数のパネルで構成されていますが、縫い目の長さは従来のパネル32枚ボールと同じ程度の長さがあります。なので、下図を見ても分かる通り、ブラズーカ(赤)の抗力係数(Drag Coefficient)は、従来のボール(青)と似た値を示し、ジャブラニ(緑)とは全く別の軌道を描くであろうことが分かります。


ボールをスパイクのアウトサイド(外側)で思い切り蹴った場合、ボールは加速してすぐにトップスピードとなり、ボールの周りには乱気流が発生してボールが高速で飛んでいきます。そして、ボールの速度が落ちてくると、相対的にボールの回転速度は高くなるので、マグヌス効果がより力を発揮することになるわけです。つまり、思い切り蹴ったボールは、最初はまっすぐ飛んで来ますが、速度が落ちた所で急にグッと曲がってくる、というわけ。

この、乱気流とマグヌス効果の絶妙なコンビネーションが見られるのが、1997年に行われたブラジル対フランス戦でロベルト・カルロスの見せたフリーキック。

Roberto Carlos Best Goal - Free Kick Goal vs France (Tournoi de France 1997) - YouTube


これらの要素を頭の隅に置いてサッカーの試合を見れば、「今のフリーキックはマグヌス効果すごかったな~」と、通ぶることも可能です。

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in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii