インタビュー

「ハリー・ポッター」を支えたデイビッド・ヘイマン氏に「ゼロ・グラビティ」の詳細について聞いてみた


「ゼロ・グラビティ」の来日記者会見アルフォンソ・キュアロン監督へのインタビューに続き、最後はプロデューサーのデイビッド・ヘイマン氏へもインタビューを行いました。

ヘイマン氏は「ハリー・ポッター」シリーズのプロデューサーも務めた人物で、質問に対して身振り手振りを交えつつ、細かい部分まで話をしてくれました


GIGAZINE(以下、G):
ヘイマンさんは「ハリー・ポッター」シリーズなどでもプロデューサーを務めていますが、プロデューサーのお仕事というのはどういったものですか?「ゼロ・グラビティ」では具体的にはどのようなことをしましたか?

デイビッド・ヘイマン(以下、ヘイマン):
プロデューサーの役割というのは作品によって様々です。例に挙げられた「ハリー・ポッター」の場合、私は作品の出版前に本を読ませてもらって、その権利を買い取ることにしました。それから脚本家を見つけ、監督を探し、脚本作りの作業を監督と一緒に行いました。続いてデザイナーを探し、キャスティングにも関わり、映画に関するすべてのデザインにも関与しましたし、制作する過程では監督のサポートもしていました。編集も、ビジュアルエフェクトも、マーケティングも、配給も……さらに、映画から波及する様々なもの、たとえばDVDだとかオモチャだとかまで含めて、映画に出てくるもののイメージが一貫したものになるように手配していました。

「ハリー・ポッター」は長いシリーズものになりましたが、監督は作品ごとに代わっていったので、作品には私が最も長く関わりました。ただし、あくまで私の作品ではなく、監督たちがそれぞれの力を出すことこそが大事だと考えていて、実際、監督たちの味は出ていたと思います。それが自慢ですね。加えて、原作者であるJ・K・ローリングさんの尊厳が守られることも重要なポイントの1つです。


一方、「ゼロ・グラビティ」は、キュアロン監督が考えた作品に私が誘ってもらった形です。例えるなら、「ハリー・ポッター」は私の子どもですが、「ゼロ・グラビティ」はキュアロンの子ども、といったところです。でも、誰の子どもであろうと、監督が全力を発揮できるようにするのが一番大事なことです。「ゼロ・グラビティ」は、最初はどういうものになるかがまったくわからなくて、どうすれば作ることができるのか、どういった技術が必要なのかということすらわかっていませんでした。でも、そのわからないものに対して投資家はお金を出してくれています。そのため、作品が無事に形になるように守るのもプロデューサーの仕事でした。

G:
キュアロン監督とは「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」でもコンビを組んでいますが、久々に仕事をしてみてどうでしたか。監督に以前と変わったところはありましたか?

ヘイマン:
うん、白髪が増えたかな(笑) 人間的な部分では変わっていないけれど、今の方が彼はハッピーだと思います。

変化でいうと、ハリー・ポッターをやったときは、キュアロンはそれほどビジュアルエフェクトに詳しくなかったのですが、ゼロ・グラビティに関わったことで大きな経験を積みました。先ほど、変わっていないと言いましたが、「恐れを知らない」というところは昔そのままです。ハリー・ポッターを作った当時はビジュアルエフェクトを知らなかった監督が、今はビジュアルエフェクトのことを把握しているのに、今までにやったことがないようなことをやろうとしたのです。今までにないものをやるためには、技術を一から作り上げるところから始めなければいけないのに……。


G:
「ゼロ・グラビティ」は出演者がわずか2名という作品です。記者会見で、「脚本をもらった時点で目指すところのはっきりした作品だった」という話がありましたが、いざ出演者が2名の脚本をもらって、どう思いましたか?

ヘイマン:
「ワオ!」(笑) この映画を私が作りたいと思った理由はただ1つ、「監督がアルフォンソ・キュアロンだから」です。この監督の作品の中でコレは好きだけれどアレはあまり好みじゃない、という人がいますけれど、私は、彼の作品はすべて大好きなんです。そこには大きな野心があって、これまでにできなかったものの話でも、考え得るところのその上を行こうとしています。

「ゼロ・グラビティ」は登場人物が2人なので、最初は「これは楽だ」と思ったのですが……間違いでした(笑)。これは、人数ではなく、無重力空間を作ることに対する難しさです。


G:
3Dで見たときに、まるで自分も無重力空間にいるかのような感覚に陥りました。今回は撮影に特殊装置を使ったとのことですが、この方法に定まるまでにはどういった試行錯誤があったのでしょうか。この方法があったからこそ撮ることができた作品ですか?

ヘイマン:
最初に1年半ぐらい開発時期がありました。いろいろと試行錯誤していたのですが、壁にぶち当たり、どうにもならないところがあったのです。その問題を乗り越えることができたのは「俳優が動くのではなくカメラを移動させなければいけないことが分かった」からです。宇宙にいることを表現するために俳優を逆さ吊りにするというのは簡単ですが、やってみると重力があるので顔の肉や肌が垂れてしまって、おかしいことがすぐにわかってしまうんです。そのため、宇宙空間では顔以外のすべてのものをデジタルで描くことにしました。本物は宇宙服の顔の部分だけで、そのほかは宇宙船なども含めて全てCGです。一方、宇宙ステーションなどの中に入ると体と顔以外のすべてがデジタルで作ってあります。

G:
なるほど。宇宙を舞台にしたSF映画を製作してみて、他ジャンルの作品と比べて異なる点などはありましたか?

ヘイマン:
はじめに、この作品はSF(サイエンス・フィクション)ではなく、「サイエンス・ファクト」です。エイリアンも怪獣も出てきませんから(笑) 代わりに出てくるのはスペースデブリで、これは架空の話ではありません。数ヶ月前、デブリの飛来によってISSを動かさなければならないということも起きました。一番難しいのは、無重力を作るという点ですね。

G:
本作品では「宇宙空間の圧倒的な怖さ」が伝わってきます。演出で工夫した点はありますか?

ヘイマン:
鍵の1つは「長回し」ですね。1シーンが途中でカットすることなく続くもので、たとえば冒頭のシーンは12分半にわたる長回しが行われています。はじめは地球を客観的に見た視点から始まり、やがては宇宙船のアームに固定されて作業中のライアン博士にカメラは近づいていきます。そのまま、映像はライアン博士の視点になります。カメラが宇宙服の内側に入り、ライアン博士が見ているものを映し出します。この流れの中でカットが入らないことで、おそらく、見ている人は自分がライアン博士の立場になったかのように感じるのだと思います。

また、どのようにクローズアップを使うのかという点も鍵です。クローズアップは人物自身になったかのような状態で、ワイドだと周辺状況が見える状態です。こうなると人間の小ささと宇宙の大きさを感じることができるので、恐怖感を覚えるのではないでしょうか。また、宇宙には上も下もないので方向感覚がなくなってしまうのも、そういう気持ちになる原因なのかもしれません。

冒頭のシーンではありませんが、予告編第2弾にはスペースデブリが飛来するシーンで長回しが使われているのが確認できます。顔のクローズアップも出ないので、映画を見ていると登場人物と一緒に一緒にデブリに襲われているかのような感覚に陥ります。

映画『ゼロ・グラビティ』予告2 衝突編【HD】 2013年12月13日公開 - YouTube


顔のクローズアップで緊迫した雰囲気を伝える演出と同時に、絵をワイドに捉えることで、宇宙の広大さ・来る人間の無力感が強く押し出されているかのよう。


G:
それでは最後の質問です。本作のプロデューサーを担当して良かったこと、大変だったことは何でしょうか。

ヘイマン:
私がこの作品の取りかかったのは、ちょうど「ハリー・ポッター」が最後にさしかかったところだったので、編集作業をしつつこちらの撮影に取りかかるのは大変でした。アルフォンソ・キュアロンのような人、まったく妥協しない人と仕事をするということは、能力のギリギリ限界が求められるので、容易なことではありません。とてもきつく、みんなにとって難しいことです。でも、映画のテーマでもありますが、こういう逆境を乗り越えることで、自分の力がつくと感じています。作品がとても誇りを持てるものになると同時に、自分たちの腕も上がったと思います。実際、私はプロデューサーとして、やる前よりも腕が上がったなと感じています。


映画「ゼロ・グラビティ」は12月13日公開。迫力ある作品だけに、ストーン博士が息苦しくなるシーンでは、何となくこちらも息苦しく感じてしまったりすることもあり、乗り物酔いしやすい人や閉所恐怖症・息苦しいのが苦手な人は注意が必要かもしれませんが、この没入感の高さはIMAXやドルビーアトモスで見るだけの価値がある作品です。無重力下で為す術もなく翻弄され体のバランスも取れないようなシーンは、座席は動いていないはずなのに、何かのアトラクションに乗っているかのような気分を味わえます。3Dをハッタリや派手さのためではなく、重要な演出の1つとして用いているので、機会があればぜひ3D上映している映画館で見てみて下さい。

© 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

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in インタビュー,   動画,   映画, Posted by logc_nt

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