コラム

これまでのFlashを巡る苦難の歴史「Adobe」vs「Apple」


Adobeがついにモバイル向け(というかスマートフォン向け)Flash Player開発中止を発表しましたが、ここに至るまでのAppleとの確執の歴史を振り返ってみましょう。

まずは2008年3月6日。Appleの株主総会でスティーブ・ジョブズはこう語りました。

Jobs: Flash Is Too Much for iPhone - Mobile and Wireless - News & Reviews - eWeek.com

米Adobe SystemsのFlashフォーマットはAppleのiPhoneには適しておらず、今のところ、iPhoneでFlashをサポートするつもりはない――。米Appleのスティーブ・ジョブズCEOは3月4日、同社の年次株主総会でそう語った。


このときはFlashをサポートしない具体的な理由についてジョブズは触れていませんが、2008年3月21日の時点で、その理由の一端が垣間見えます。

Adobe`s iPhone Plans Hang on Jobs` Opinion of Flash - Mobile and Wireless - News & Reviews - eWeek.com

 Mac OS X向けと、恐らくiPhone向けアプリケーションの開発を手掛けるMarketcircleのマーク・オニシュク氏は次のように解説する。「AdobeがFlashをiPhoneに搭載させるためには、Appleとの間で何らかの特別契約が必要になるだろう」

 「iPhoneのアプリケーションインストールの仕組みとして、各アプリケーションがそれぞれの『サンドボックス』を持っている。このファイルシステムはすべて独自のもので、ほかのアプリケーションにはアクセスできないようにしてある」

 「従って、例えばSafariのようなアプリケーションにプラグインをインストールする通常の手順は、iPhoneには通用しない。サードパーティーのアプリケーションがアクセスできる共通ライブラリ/プラグインフォルダは存在しない」

 「Appleの意図は、システムの安定性とセキュリティを脅かす大きな根源、つまり複数のアプリケーションやその設定が相互にアクセスできるという点を、iPhoneから取り除くことにあると思う。つまりどんなプラグインであろうと、それがFlashやJavaであっても、Appleがソフトウェアアップデートの一部として特別に許可しない限り、iPhoneに現れることはあり得ない」

つまり、この時点では主に「セキュリティ上の理由」によるものであったわけです。また、この時点ではAppleもAdobeも水面下で交渉は続けていたらしく、次にこのFlashとAppleを巡る話が噴出するのは1年後の2009年2月3日です。

 昨年9月末から10月初めにかけて、「AdobeがFlashをiPhoneに対応させた」との誤報が多数のブログやニュースサイトに掲載されたが、これは9月末に開催されたFlash on the Beach(FOTB)カンファレンスでの、Adobeのエンジニアリング担当ディレクター、ポール・ベツレム氏の発言を受けてのものだった。Adobeのエバンジェリスト、セルジュ・イエスパー氏の引用によると、その際のベツレム氏の発言は以下のとおり。

 AdobeはFlash PlayerをiPhoneに対応させる。既に開発作業もスタートしている。ただし、今はまだそれ以上の詳細は発表できない。いずれにせよ、Flashのフル機能をiPhoneに対応させるためには、SDKやエミュレーション環境や現行のライセンスでできる範囲を超えてAppleと協力する必要がある。iPhoneでFlashを利用できるようになれば、AppleとAdobe合わせて数百万人の顧客に大きなメリットがもたらされるだろう。われわれはそのためにAppleと協力することを望んでいる。


なんと2009年の時点ではiPhone向けのFlash Playerの開発は進められていたのです。ただし、Flashのフル機能搭載バージョンを動かせるようにするか否かで、AppleとAdobeが交渉を行っていた、というわけ。

さらにこの話から1年後の2010年1月28日、ついにしびれを切らせたのか、あるいは途中で交渉が頓挫したのか、ついにAdobeは切り札として「Adobe Flash Professional CS5」を放ち、FlashやAIR用に書かれたソースコードをiPadやiPhone用にエクスポートできる「Packager for iPhone」を発表することにしました。


翌日にはAdobeがAppleに対し、iPadがFlashに対応していない件について以下のように非難しました。

同氏は、Flashサポートがないため、iPadユーザーは多くのWebコンテンツにアクセスできないと指摘。Webゲームの70%、オンラインビデオの75%がiPadでは利用できないとしている。「iPadでDisneyやHulu、その他多数のWebサイトにアクセスしたいと思っても、うまくいかないだろう」


そして翌月、2010年2月22日、AppleのCEOであるスティーブ・ジョブズ氏がFlashを名指しで「死にかけの技術」と批判する爆弾発言を繰り出します。

Steve Jobs Blasts Flash As “Dying Technology” - The Next Web

以前からFlashに批判的なAppleのスティーブ・ジョブズCEOが、Wall Street Journalを訪れた際、Flashを痛烈に批判したと伝えられている。同氏はFlashを「バッテリーを大きく消費する」「CPUリソースを大食いする」「セキュリティーホールのもと」「死にかけの技術」とこき下ろし、「われわれは古い技術に多くのエネルギーを注がない」と語ったという。ジョブズ氏は以前からFlashはバグが多いと批判しており、「Flashは使われなくなりHTML5に移行する」と語ったとも伝えられている。


さらに2ヶ月後の2010年4月12日、iPhone SDKの規約が変更され、Flashは完全にAppleのiOSの世界から除外されることになります。

 AppleがiPhone OS 4.0 SDKのβ版公開に合わせて、SDKの利用規約を変更したことが物議を醸している。新たな規約では「アプリケーションはObjective-C、C、C++、またはiPhone OS WebKitエンジンによって実行されるJavaScriptで書かなければならない。C、C++、Objective-Cで書かれたコードのみコンパイルして公開APIに直接リンクできる(変換・互換のためのレイヤーやツールを使って公開APIにリンクするアプリは禁止する)」となっている。これにより、Adobeの「Packager for iPhone」ツールでFlashアプリをiPhoneアプリに変換したり、C#で書いたアプリを.NETフレームワークでiPhoneアプリに変換するといったことができなくなる。

 開発者からはこの変更を批判する声が上がっており、「Flashつぶしのための変更ではないか」との見方もある。Adobeは「新しい規約を調査しており、Packager for iPhone技術の開発を続ける」とコメントしている。この技術はAdobeのCreative Suite 5に搭載される予定だ。

 ジョブズ氏はこの件についての問い合わせについて、品質維持のための措置と答えている。同氏はクロスプラットフォームアプリを開発するための中間レイヤーが「水準以下のアプリを生み出し、iPhoneプラットフォームの進歩を妨げる」ためと説明している。


さすがにこの露骨なFlashへの攻撃に対し、Adobeも頭に来たらしく、同じ日の間に猛反論をし、「くたばれApple」と述べています。

leebrimelow.com >> Apple Slaps Developers In The Face

 Appleは専制的だ――AppleがiPhone SDKの利用規約を変更し、iPhoneアプリに使えるプログラミング言語を限定したことについて、Adobeのプラットフォームエバンジェリスト、リー・ブリムロー氏が批判の声を上げている。

 同氏は自身のブログに「Appleは開発者の顔をひっぱたいた」というタイトルのエントリを投稿。「Adobeの公式見解ではなく、わたし個人の意見」と前置きした上で、Appleを痛烈に批判している。

 同氏は、アプリ開発の言語を制限する今回の規約変更を、「合理的に弁護できない恐ろしい措置」としている。「開発者を専制的に支配し、Adobeに対する聖戦で開発者を手先として利用しようとしている」とも。

 「AdobeとAppleは長年助け合ってここまでやってきたが、Appleがこんな敵対的で卑劣な手段に出たことが、両社の違いを明確に示している」とブリムロー氏。「われわれは誰もつぶそうとはしていない。AdobeのSDKを変更して、サードパーティーのエディタと当社のプラットフォームを連係できないようにすることなど考えもしない」

 同氏は「Appleのリーダーが変わるまで、たぶんもう1セントたりともAppleに払わないだろう。既に本、音楽、ビデオの購入はAmazonに移しているし、ほかのサービスを探し続ける」とApple製品の不買を宣言。ブログの最後を「くたばれApple」という言葉で締めくくっている。


そして3日後の2010年4月22日、AdobeはiPhone向けFlashを断念し、Android向けに力を入れることを宣言します。

On Adobe, Flash CS5 and iPhone Applications at Mike Chambers

 チェンバース氏は、Packager for iPhoneはiPhoneとiPad向けにリリースするが、Adobeは「この機能にそれ以上の投資はしない計画だ」と、開発終了を示唆している。同氏は、Appleが新たな規約をFlash CS5で開発されたコンテンツに適用するだろうと確信しており、「開発者はFlash CS5で作成されたアプリとコンテンツがiTunes Storeから削除されることを覚悟しておくべき」と注意を促している。

 「幸い、iPhoneしか選択肢がないわけではない」。同氏はこう語り、Androidが勢力を伸ばしていることを指摘している。「わたし個人は、モバイルへの取り組みをすべてiPhoneからAndroid端末に移し(特に年内に登場するAndroidタブレットに関心がある)、iPhoneにはもうあまり力を入れないつもりだ」。AdobeはAndroid向けのFlash Player 10.1とAdobe AIR 2.0の開発でGoogleと協力しており、これらプログラムを非公開βテスト中という。


この件については日本にAdobeのCEOなど、同社のトップが来日した日と重なり、以下のようなコメントも出ています。

Adobe CEO「Appleはクローズドを選択した」 iPhone向けFlashアプリ変換ツールへの投資中止 - ITmedia ニュース

AdobeのナラヤンCEOら同社トップがそろって来日し、iPhoneのFlash対応をめぐるAppleの対応を「クローズドだ」と批判。iPhone用SDKの規約変更に絡み、Flashアプリ変換ツールへの投資を中止することも明らかにした。

 HTML5について、ナラヤンCEOは「Adobeはオーサリング環境をあらゆるフォーマットに対して提供する。Creative SuiteはHTMLをサポートしており、Flashとも共存する」と話す。「HTMLの進化は歓迎する」と述べるとともに、「動画、3Dゲームなど、Flashのイノベーションも進めていく」という。


Adobeの戦略発表会、iPhone向けFlash開発の打ち切り決断 -INTERNET Watch

 22日の戦略説明会には、米本社の取締役が顔をそろえるものとなった。各人がアップルへの見解を語り、「プラットフォームをクローズさせるアップルの選択は、エンドユーザーの選択肢の幅が狭まる。一度コンテンツを作ると、それを幅広く展開できることをユーザーや業界が求めている。ビジネスが難しくなるのではないか」(同社コープレート デベロップメント担当上級副社長のポール ワイスコフ氏)、「アップルの選択は、ユーザーにとってもクリエイターにとっても良いことではない。逆に排除された我々には追い風になるだろう。パブリッシャーも含めて皆同じ船に乗れる」(同社オムニチュア ビジネスユニット担当上級副社長兼ゼネラルマネージャー ジャシュ・ジェイムズ氏)などと話した。


そして約1週間後の2010年4月30日、突如としてAppleのスティーブ・ジョブズCEOが公式サイト上に書簡を公開、なぜFlashをiPhoneやiPadなどのiOS上で動作するようにしないのかという理由を説明しました。

Thoughts on Flash


"Thoughts on Flash" (日本語訳) - Kenichi Maehashi's Blog

この中でジョブズ氏は「Flashはオープンではない」「ゲームもムービーもFlashなしでも完全なウェブ体験が可能」「Flashは信頼性、セキュリティ、パフォーマンスに問題がある」「Flashはバッテリーの寿命を食う」「Flashはタッチ操作を前提にしていない」「開発者が革新的な機能をすぐに利用できるようにする、Flashに頼って開発していると革新的機能が搭載されてもFlashがそれをサポートするまでは開発できない」と述べています。

そして翌月の2010年5月14日、「Flashはオープンだ」ということで、AdobeがAppleに反論を開始、Apple創業者であるジョブズに対抗するため、Adobe創業者であるChuck Geschke氏とJohn Warnock氏の2人による書簡を公式サイトで公開し始めました。

Our thoughts on open markets | Adobe

 ジョブズ氏は4月29日の公開書簡の中で、「FlashがMacのクラッシュの第1原因である」と述べたり、モバイル端末におけるFlashの性能が低いこと、タッチスクリーンにそぐわないことなど、Flash Playerの性能面でも激しい批判を加えていた。

 Adobeは公開書簡の中で、暗にこのことを批判。例えば、かつてPostScriptは仕様を公開したために、初期には72のクローンメーカーが誕生したが、Adobeは自らイノベーションを続けることによって、市場におけるリーダーシップをとり続けたと説明。そして現在でも、Flashの仕様は公開されているため、誰でも自分のFlash Playerを開発できると反論した。また、「Adobe Flashテクノロジーがマーケットリーダーであり続けるのは、我々従業員の絶え間ない創造性と技術的革新のためである」と述べ、「我々は、Appleが正反対のアプローチを取っていると考えている」と激しく批判した。

 Adobeは公開書簡の最後で、「誰がワールドワイドウェブを支配しているのでしょうか? その答えは、誰でもなく、すべての人だと我々は信じています。しかし明らかに、1つの企業ではありません」と締めくくっている。


この際に公開されたのが、「Flash and creative freedom(Flashと創造性の自由)」というサイトで、今も残っています。

Flash and creative freedom | Adobe
http://www.adobe.com/choice/


こうしてAppleとAdobeは完全に袂を分かち、AdobeのFlashはAndroid陣営にすり寄り、結果的にGoogleに接近、Google ChromeにはFlashがなんと直接統合されています。

Adobe Flash Player - Google Chrome ヘルプ

Adobe Flash は Google Chrome に直接統合されて、デフォルトで有効になっています。Adobe Flash のアップデートが利用可能になると、Google Chrome のシステム アップデートに自動的に組み込まれます。


しかし、GoogleもFlashではなくHTML5を選択、2011年6月29日にはFlashをHTML5に変換するものまで公開し始める始末。

FLASHをHTML5に変換できるGoogle swiffy公開、iPhoneやiPadにも対応 - GIGAZINE


さらに2011年9月2日には密かにGoogle Maps API for Flashも廃止。

ANN:Google Maps API for Flashの廃止が発表されました - Google-Maps-API-Japan | Google グループ

そして、今回の発表、Androidなどスマートフォン向けにはもうFlash Playerの開発は続行しない、という決定に至る、というわけです。

Androidなどスマートフォン向けFlash Player開発中止、今後はHTML5とAIRに注力 - GIGAZINE


Flashは今後、HTML5とAIRのための開発環境になっていくのか、それともさらなる切り札が実はあるのか、あるいはShockwaveのようになってしまうのか……。

Shockwaveからのお知らせ
http://www.shockwave.com/japan/index.html

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