取材

攻殻機動隊からミリ要素を抜いてエヴァと24を入れ女性向けにすると「東のエデン」に?神山健治、オリジナルの難しさを語る


マチ★アソビ vol.6」の目玉イベントの1つとして、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」や「東のエデン」で知られる神山健治監督と、Production I.Gの石井朋彦プロデューサーが、「攻殻機動隊」を軸にアニメ業界について語るトークショーが催されました。

このトークショーには2人のほかにも、今期のアニメ「TIGER&BUNNY(タイガー&バニー)」や神山監督が手がけたNTTドコモの「Xi AVANT(クロッシィ アバン)」などで3DCGを手がける「サンジゲン」の松浦裕暁代表取締役と、アニメの企画・制作ノウハウを用いたコンサル事業を展開する「STEVE N' STEVEN(スティーブンスティーブン)」のCEOを神山監督と共に務める博報堂の古田彰一クリエイティブ・ディレクターが出席しました。

ここ10年間のアニメ業界における変化や、オリジナル作品を作ることの難しさ、そして業界でどのように資金を回していくかといった問題について、神山監督を中心に真剣トークが繰り広げられました。そんな中、会場のオーディエンスの質問に答える形で、神山監督のお気に入りのアニメが某日常系アニメだったと判明するなど、意外な一幕もありました。

神山健治監督が業界の問題について語り尽くしたトークショーの内容は以下から。トークショー会場となった新町橋東公園には大勢の観客がつめかけました。


左からProduction I.Gの石井朋彦プロデューサー、神山健治監督、「サンジゲン」の松浦裕暁代表取締役、博報堂の古田彰一クリエイティブ・ディレクター。


Production I.G石井朋彦プロデューサー(以下、石井:):
今日は僕と神山監督は企画製作の立場で、松浦さんは3DCG製作をやっていらっしゃる現場の方、古田さんは宣伝のプロで、徳島にゆかりが深い企業である大塚製薬の「カロリーメイト×ジャックバウアー」のクリエイティブ・ディレクターを務めた方です。われわれがアニメをどうやって企画して世に出しているか30分くらい語って、その後ご来場の方の質疑応答にお応えしていきます。

まず監督にお聞きしたいのが、必ず聞かれることだと思いますが、まず最初に何を考えて作品を作り始めますか?


神山健治監督(以下、神山):
突然難しい質問ですね。

例えば攻殻機動隊であれば、今から10年前になりますが、テレビシリーズで作れないだろうかということになったんです。押井守監督が劇場作品を作っていた流れもありまして。


当初、攻殻機動隊という作品をテレビシリーズで作るのはほぼ不可能だと言われていて、原作自体も話数があるわけではないですし、当時は3DCGの技術も発達していないですから、毎週作っていくというのが相当ハードルが高くて、なかなか難しいだろうなということだったんです。

まだ監督になったばかりのころだったので、その頃は難しさに悩むよりは早く作品を作りたいという思いが強くて、どうやってテレビシリーズで実現できるかというのをシミュレーションしました。

石井:
当時、(原作の単行本は)1冊だけ出てたんですよね。

神山:
ちょうど話をいただいた時に原作の2巻が発売されたのですが、2巻というのは1巻とは全く別の話になっているわけなんです。それをアニメ化しても一般の人はわからないだろうと。

それ以外に、幻の1.5巻という、ヤングマガジンで連載されていた各話完結のエピソードが収められたものがあったのですが、国立国会図書館に行ってコピーをしてもらわないと読めないくらい、手に入らなかったんです。その話を持っているのは当時のヤンマガの切り抜きを持っているファンくらいで。でも、それらのエピソードをすべて総動員しても、1クールないくらいです。

石井:
しかし、結果として52話と長編1本が完成しましたよね。

神山:
基本的には1話完結としました。「24 -TWENTY FOUR- 」は連続ものですけど、海外の刑事ドラマは基本的に1話完結ですよね。それで30分で1つの事件を解決していけばシリーズものが作れるのではというのが1つ目の考えとしてありました。

もう1つはどうしたらシリーズを成立させ、少ないスタッフでクオリティを上げていけるかということ。作画監督の絵の個性はそのまま残そうという方向性でいました。絵をすべて統一していく総作画監督制を取っていくと、テレビシリーズであの物量をこなすのは難しいだろうと。各話数の作画監督の個性を出していいだろうと。この2点が勝算、というか最初の方法でした。


石井:
ファーストでは「笑い男」、2nd GIGでは「個別の11人」ですね。

神山:
それらのストーリーや設定については、最初は戦略として掲げていませんでした。

石井:
戦略というのは、出資者に対するものですか?

神山:
はい、当時の石川社長やそもそも原作者の士郎正宗さんも含めて、そういった要素は入れないほうがいいだろうというのが当時の意見で。

オリジナルエピソードを何話も積み重ねていく中で、笑い男編のプロットは書いてはいたのですが、提出段階では周りから猛反対を受けました。そのプロットというのは、笑い男事件が年表で書いてあるだけだったんです。どういう事件かが作られていなかったら解決しようがないですから。

でも、アニメのプロの中でもどういう事件か決めずに書き下ろしている人は結構いるんですけどね。少年漫画も、描き下ろしながらつじつまをあわせていくんです。少年漫画は反響を受けて軌道修正していくのが基本なので、プロットは作らずにやっていくことが多いです。

でも、ドラマにはリアルタイムで反響を反映させるのはできないのでプロットを書きます。ご覧になった人は分かりますが、「笑い男事件」は6年前のことなので、素子とか出てこないんですよ。いくら説明してもそれは理解されませんでした。こいつは押井守よりもややこしいやつだ、素子のもの字もないぞと誤解を受けました。

それで、本編作らないと理解されないと思ったのでとりあえず笑い男事件は取り下げて、1話ずつ作っていったという感じです。

作り手のオリジナリティについては最初から出す物ではない、そういうのが作法だと学びました。

石井:
最終的に(攻殻機動隊が)お客様から喜んでいただけたのは、神山監督ならではの現代性や社会性があったためだったりするのでしょうけど、まず企画段階ではキャラのかわいさなどが求められていく傾向があるんです。


神山:
オリジナルアニメを製作するのが難しいのは、そこの辺りかなと思います。

お金を出す側からしてみれば、できあがってみないと作品の全容を理解できないんです。だから、企画段階ではかわいいキャラクターデザインやキャッチーなテーマなどが好まれる。最初からオリジナリティを出していくと嫌悪感を持たれてしまうんですね。

石井:
一方で、2009年に神山監督が手がけた「東のエデン」は完全オリジナルですが、お客様の支持と出資側の意見とのバランスはどうやって取ったんですか?

神山:
東のエデンは攻殻機動隊とまったく逆で、オリジナル作品を作ってほしいというリクエストだったんです。攻殻機動隊のころのような圧力はなくて、むしろ好きにやって欲しいというオーダーなんですが、ここにも落とし穴があって、だからといって好きにやると怒られるんです(笑)好きにやると「そういうのはテレビ向きじゃない」とかいうことになって、かえって攻殻機動隊より制限が多かったですね。

どういうオーダーが来たかというと、「攻殻機動隊からミリタリー要素をのぞいて、女性にウケるような味つけをした上でエヴァ要素を注入し、『24』を入れたエンターテインメント作品」というもので(笑)正直ムチャクチャだなあと(笑)


しかも、先方は「攻殻機動隊を作ったあなただから頼んでいるんです」と力説するわけなんですが、いや、それってオレのこと嫌いってことだろうと(笑)

テレビのプロデューサーと話していくなかで見えてきたんですが、「ミリタリー要素の排除」という要求は攻殻機動隊を全否定しているように聞こえるのですが、実はOLさんがテレビを見ている時に一番チャンネルを変えやすい要素がミリタリーなんです。普通の刑事ドラマでも、ピストルを出した瞬間にチャンネルを変えてしまうという、統計上の数字が出ているというんですね。なので、可能ならミリタリー要素を抜いて欲しいと。

そこでこちらも「タチコマは人気がありましたよ」と言うと、「タチコマは戦車じゃないんで。むしろペットロボットはどんどん出して下さい」と言われてしまったんです。

その後、「OLさんも大好きな携帯だったらどうですか?」と提案すると、「携帯はみんな大好きです、24時間いじっていますからね。では、携帯を主人公にしてください」ということになったわけです。

あと、ちょっと言い方は悪いですが、原作つきの「萌えアニメ」であれば数万人のファンがついてくるはずだという保証がある上でアニメ化されるわけですが、オリジナルはそういう相手と勝負して行かなくてはならないんです。攻殻機動隊的な物をオリジナルで作っていくという企画が通らない理由はそこにあります。

「東のエデン」は攻殻機動隊の面白さの50%くらいを放棄せざるを得ない中で企画を作っていきました。携帯電話を使ったゲームのような物で、かつ攻殻機動隊的な要素を、というオーダーに応えていく。原作がない分、そこにあたる部分を作るのに半年くらいかかりました。

石井:
「マチ★アソビ」に出展されているほぼ全ての作品には作り手がいて、さらに出資者がいるわけです。展示されている作品を見ていく中で、『この作品がお金を出してもらえた要素はどこだったのだろう?キャラクターなのか、グッズなのか、それとも原作なのか?』という切り口で作品群をご覧になるとおもしろいかと思います。


神山:
あと、「東のエデン」は羽海野チカ先生にデザインしていただいたキャラクターの存在が大きかったですね。

石井:
アニメを見るにあたって、監督の存在というのも大きいですよ。

神山:
みなさん監督で選んでアニメ見ます?(会場の3~4割が挙手)

石井:
じゃあ、キャラで選んで見る人は?(会場の5~6割が挙手)

神山:
声優さんで選んで見る人は?(会場の6割以上が挙手)やはりこれは大きな要素ですね。

石井:
作品を実際に作らせていただく中で、プロデューサーやスタッフを中心に、自分たちが今言いたいことと、お客さんに喜んでもらう切り口の一致のために半年~1年かけて練っていきます。

神山:
それでも実際時間が足りないんですよね。「オリジナル物の方がおもしろくない」という意見が出るのは、アニメになるような原作は3年以上連載していたりするわけで、ファンの目にさらされながら強度をあげていく作業をやっているものです。そこに半年で作った、試し打ちもしていない作品を出していくのがそもそも無謀だという側面もあります。

半年しか時間がない中で原作ものを超えないと、オリジナルは成功しない。そうなると、売れた前例のある作品に似た内容にしていくこともありますね。

石井:
1話で提示された謎や設定などが、2話でどれくらい説明されているかで、そのオリジナルアニメの作り込み度合いが分かるかと思います。作りたいこととお客さんの嗜好(しこう)とビジネスをすべて成立させるために、それこそ1年くらい考えなくてはならないんです。

神山:
そうですね。

石井:
では、続いて松浦さんも交えて現場の話をしていきたいなと。神山さんの周りには神山組と呼ばれている、入れ替わりはありつつも固定しているメンバーがいるんですが、神山監督、現場の移り変わりをお話いただけますか。

神山:
まず、アニメ製作の主役であるはずのアニメーターがここ10年でだんだん平均年齢が上がってきています。神山組では平均10歳くらい上がっていて、それだけ新しい人が入ってきていないんです。

もちろん、うまい絵がかける人がアニメーターになるわけですが、うまく描けるようになるまでに時間がかかるわけです。若い人からすれば、(アニメーターとして活躍するには)10年修行が必要ですと言うと、そこで10年我慢しようと決意して入ってくる人が極端に少なくなってきた。

アニメ界で描きたい絵のトレンドは日々変質していくのですが、10年前はメカを描きたい人と美少女を描きたい人の比率が6:4だったんですが、この10年でメカを書きたい人はほぼいなくなって、比率が1:9になってしまった。もう極端に減りました。すでに僕の作品(攻殻機動隊)をスタートした段階で、自動車とか航空機、ヘリコプター、タチコマなんかを描きたい人は少なかったです。タチコマについては、当時まだ描きたいと言う人は多少いたんですが、もう滅びちゃって、3DCGに頼らざるを得ないと。


サンジゲン松浦裕暁代表取締役(以下、松浦:)
僕は最初「機動戦士ガンダム00 」の3DCGをやっていたのですが、やっぱりモビルスーツをやりたいじゃないですか。しかしサンライズのスタッフさんにはガンダムを描きたい人がいるのでこっちにはやらせてくれない(笑)それで結局できませんでした。こんな感じで人材には偏りがありますよね。

神山:
まさにその通りで、メカの中でもガンダムなら描きたいという人はいるんですが、ガンダムというのはキャラクターなんです。

でも、自動車なんかがカーブしていく時に崩れずに描くのは(ガンダムを描いているのと違って)ただ大変なだけなので、線がぐにゃぐにゃしちゃうんですよ。中割は今ほとんど海外に発注するのですが、彼らはフリーハンドで描いてしまって、絵を動かすと線がぐにゃぐにゃしてしまう。そういう場合、演出を省くか3DCGでやるかということになるんです。正確に作画をすることにおもしろみを感じる人が減っているのかもしれません。

もちろん、時間が許されればやりたいという人はいるのですが、いかんせん時間がないんです。1カットに1~2週間かけてしまうと、1ヶ月におよそ1万円しかかせげなくなるので金銭的にも厳しくて。

石井:
車とヘリコプターなど、動いても形が変わらないことが大切なものは3DCGで描きます。

タチコマについては最初はセルで作画もしていたのですが、ほぼ3DCGになりました。ガンダムは2本足なので人間と同じ感覚で描けるんですが、4本足なのでどっちの足を出すのか、どっちにウエイトがかかってかたむくのかとかやっていくと、タチコマの線はガンダムより少ないが、作画はガンダムの5倍大変です。

松浦:
攻殻機動隊にはサンジゲンで関わっていないのですが、タチコマを見た時はすごく悔しかったです。ああいうのがやりたいとずっと思ってました。

神山:
メカを描きたい人はサンジゲンさんにいますか?

松浦:
います。立ち上げのコンセプトも含めて、心がない機械ではなく感情移入できる方向にいきたいという方向に行っているので、そういう人が集まってます。

神山:
「東のエデン」のころにはしっかり描けるアニメーターが減っていたので、携帯まで途中から3DCGで描き始めました。そんなもの描く暇があったら3DCGでやったらいいだろうと。

すべて作画でやると、携帯を主人公が耳に当てる芝居の中で、携帯の線がぐにゃぐにゃになってしまう。そうなると台無しなので。

石井:
モブキャラも3DCGで表現していますよね?

神山:
モブキャラも3DCGですね。攻殻機動隊でやりはじめたころよりも、今は多くのところで使われています。

松浦:
弊社にはモブキャラのライブラリは400~500あって、動きもライブラリに保存してあります。サッカーしている動きとか。

神山:
そんな動きまであるんだ。

石井:
これまでは1作品終わって立ち上げるまで、50体くらいイチから作ってましたが。

松浦:
「放浪息子」なんかも3DCGでやりましたが、水彩画みたいなタッチで他のアニメとテイストが違うので、バージョン変えながらやったりしています。

石井:
これからはちゃんと萌えられる3DCGキャラでアニメをつくろうということで、サンジゲンさんと神山監督と協力してそういった作品制作をやろうとしています。

神山:
たまたま僕や松浦さんは3DCGでやってみたいと思っていたので次回作でご一緒することになりましたが、業界内でも意見は別れますね。

松浦:
ゲームやハリウッド映画が3DCGのメインと言えるのですが、ああいった流れが僕はいいと思ってなくて、3DCGのアニメには成功例がないかなと思っています。質感や動きのせいもあると思うんですが、ぱっと見て、3DCGで作られたものに感情移入ができなかったりとか。

アニメの歴史は50年かもっとあるので、すでにある先輩方のものを取り入れてうまく使った映像表現や物語を僕らはやっていきたいです。動きも含めてセル調を目指していきます。


神山:
僕も、日本の2Dのキャラの魅力を放棄してまで、ハリウッドに近づく必要は僕はないと思います。あの映像で表現できるものは、物語も含めて違うんです。

意外かもしれませんが、記号化されたセルアニメの方が、逆に複雑なストーリーを表現できるんです。pixarの絵みたいなものをもっとリアルにすればリアルな話ができると思いますが、ちょっとでもウソがあると一気にしらけてしまう。フォトリアルを目指していくと表現の幅がせばまって行っていってしまいます。

1つの例として、「ちびまる子ちゃん」でね、洪水がおきてまるちゃんの町が流される回があったんです。まるちゃんにしてはシリアスな話で大変なことが起きたという話なんです。

同じことを攻殻機動隊や、フォトリアルをセルアニメで極めようとした「人狼 JIN-ROH」で洪水を作ろうと思ったら16年くらいかかります。実は記号化した方が物語の幅を持たせることが可能なんです。アニメーションで複雑な表現ができる理由はそこにあります。

石井:
確かに、ラブプラスや初音ミクの3DCGには男性なら誰しもムズムズするものがありますよね。

神山:
あれもリアルじゃないからいいんですよね。リアルだと特定の女性を連想してしまうので……。だからこそ、クリスマスに日本中の男性がDS片手にムヒムヒしているわけで(笑)

石井:
サンジゲンさんと見た目はセルアニメな3DCGを作っていますが、これからハリウッドや中国が国を挙げて力を入れている3DCGと勝負していくにはどう攻めていったらいいでしょうか?

神山:
やはり、日本の持つキャラクターの魅力は放棄しない方がいいですね。

松浦:
日本のアニメーションは不可欠だし、それこそ世界で勝負できるものだと思います。

神山:
日本が持っている、数少ないオリジナリティだと思います。

石井:
物語、企画の立て方も日々刻々と変わっているのですが、お金の流れ方もだんだん変わってきています。固い話になりますが、リーマンショックもあって、単純にいろんなところからお金を集めて、放映権料とビデオグラムでお金の流れを作るといったこれまでの手法が変わっていっています。

そこで、これからどうやってお金を循環させたらいいかということで、古田さんはそのあたりのプロなので、業界のお金の流れがどう変化していくべきか語っていただければ。

博報堂古田クリエイティブ・ディレクター:
普通4人目にもなると女子がそろそろ話さないといけないと思うんですが、男ばかりで申し訳ない(笑)

映像作品とテレビ、アニメがどういうお金のかかり方をしているか疑問があると思うんですけれど、テレビシリーズ1本と、テレビCM1本の差はどれくらいだと思いますか?

実は、テレビシリーズ1本とCMはかかるお金が3倍も違って、もちろんCMの方が高いんです。「なぜこんなにもアニメ業界にはお金が回ってこないのか」という見方もできますね。

アニメ業界の方も霞を食べて生きているわけではないので、別の種類のお金が流れたらもっといい作品がたくさん見られるはずなんです。僕はアニメが好きなので、それで神山監督とお近づきになって「STEVE N' STEVEN(スティーブンスティーブン)」という会社を作ったんです。


時間とお金が戦略的に回せるようにしていけば全体的に質が上がって、みなさんにもっといい作品を楽しんでもらえるのではと考えています。僕自身は博報堂のクリエイティブ・ディレクターもやっていまして、テレビCMも作っているのですが、広告になると予算がボンと跳ね上がるんです。

イラストなんかでも同じで、ただ描くだけだとグラムいくらにしかならないものが、新聞広告になると数百万の原稿料が入る。そういう原理をアニメの現場に持ってこられればという発想だったんです。

広告とアニメにも昔から繋がりはあって。アニメやドラマなんかで、あるシーンでやけに商品が目立っていて、「白々しいな」と思われる場面があった覚えがある方も多いかと思います。

例えば最近話題になったある映画で、作品の舞台は10年前なのに、主役がピカピカのVAIOを使ってたり(笑)これは「プロダクトプレイスメント」という手法で、「映画はテレビと違って何度も見るものなので、そこに商品が映っていたらすごい効果ですよね」という売り込みをするんです。そうやって売り込むと、そんなに効果があるならということで、企業の方からは「うちのピカピカのVAIOを出してくれ」という注文が来るんです。

神山:
ソーシャルなアレの話ですね(笑)

古田:
そうです(笑)そういった広告手法が撮られることによって、資本の問題によって物語に食い違いが出てしまったりするわけです。でも、脚本の段階から商品を主人公が使いこなすという風に設定していけば、白々しく見えないのではないかと思うんですね。

作品を作るためにはお金を回さないといけないのですが、変なお金の入り方をさせて興ざめさせるのではなく、作品のクオリティをあげつつ収入も得るというのが、会社立ち上げの大きな理由ですね。

石井:
IGの新作を見ていただくと、サンジゲンさんの手書きみたいな3Dというのも実感していただけると思います。ネットではもう流していますが、NTTドコモの「Xi(クロッシィ)」が普及した世界を神山監督が空想した「Xi AVANT(クロッシィ アバン)」という作品です。

神山:
企業とのタイアップとは違った形でアニメを作っていくという手法の第1弾です。

古田:
次の作品は徳島のある大きな会社ですかね……まだ言えませんが。

「Xi AVANT」はすごく短くて、これで終わり?という終わり方ですが、もちろんこれだけで終わらせません。アニメ業界と広告業界がタッグを組んだ第1弾といったもので、第2弾、第3弾もご期待下さい。

神山:
まずは「マチ★アソビ」の会場でご覧ください(注:トークイベントのあと3日17時から阿波おどり会館で上映が行われた)。あるシーンで、セル作画と見分けがつかないフル3DCGでつくった部分があるので、そこをご覧いただければと思います。

映画なんかでよくやるマルチカムという撮影手法があるのですが、アニメの作画でこれをやるとアニメーターが作業量的に死んじゃうのでできないのですが、3DCGならではのカットで作ってもらっっていますので、そこを見ていただけたら。

石井:
「マチ★アソビ」会場で作品を見ていただくと、今日お話したことの片鱗がわかるかと。

神山:
ちょっと東のエデンっぽい絵なんですけど、単純に見ることもできます。今言ったようなコンセプトで作ったものなので楽しんでいただければと思います。

石井:
ではせっかくなので質疑応答に移ります。一人目に名乗り出る勇気ある英雄はいらっしゃいますか?

Q:
監督にではなく松浦さんにうかがいたいのですが、今期のアニメの「TIGER&BUNNY(タイガー&バニー)」でスポンサーのロゴが露骨に入っているシーンがあるんですが、どんな感じで入れているのでしょうか?

松浦:
あれはヒーローを全部3DCGで作ってあるんです。それにテクスチャをはるので、シールをはる要領で3DCGのモデルにロゴをはっています。

いくつか気をつけないといけないところがあって、3次曲面にはるとロゴがゆがんでしまうので、止めで見せるところはちゃんとゆがまないようにはっています。

古田:
企業のロゴはレギュレーションが細かく決まっていて、例えばAppleさんのロゴなんかはまわりの余白もミリ単位で細かく決まっていて大変ですよね。

広告関連の話ではありますが、そのアニメは電通さんの扱いなんで僕はちょっと分かりません(笑)

Q:
貴重な講演ありがとうございます。実は鳥取大学のサブカル研究会に入っていまして、神山監督のファンから質問を2つ預かってきました。まず1つ目は、攻殻機動隊の公安9課や東のエデンの滝沢朗の「セレソンNo.9」など、9番という数が作中によく出てきますが、神山監督の思い入れがある数字なのでしょうか?あと、攻殻のタチコマの声優さんと東のエデンのJUIZ(ジュイス)の声優さんが同じ(玉川砂記子さん)ですが、監督が個人的にファンなんですか?

神山:
そもそも公安9課は原作から9だったんですが、僕は野球が好きなので、野球のレギュラーのことをナインというので、公安9課とナインをひっかけて、オリジナルメンバーの8人にもう1人入ると9人になるなと思って、笑い男を入れて9人になると面白いなと思ったんです。でもそれは反対されてしまうと思ったので、笑い男が入団拒否したことになりました。

それ以降9という数字に縁がありまして、でも2nd GIGの「個別の11人」はあえて数字を11に変えてみたんです。ファーストシーズンがドメスティックな事件を扱っていたのに関して、2nd GIGに関してはインターナショナルな事件を扱うので、インターナショナルなスポーツであるサッカーをテーマにして11にしてみたんですが、やはり9という数字にぶちあたりまして。

それ以降、意図的に9という数字を意識的に入れるようになったという感じです。アニメーション神戸という商業アニメに対していろんな賞をいただくイベントを9回目で受賞し、東京アニメーションフェスティバルでも9回目で賞をいただいたので、やはり縁があるようです。

それもあって、東のエデンでも9をつかいました。また、1ケタの数字で行っても最強の数字ですし、また復活の数字と言われていて、9に2かけると18、1と8を足すと9、9の倍数はケタ同士足すと9になるので、西洋でも神秘的な数字と言われていて、それにかけているところもあります。滝沢も、これは折角だから9番を入れたら意識して見てもらえるかなと思ってやったので、一番意図的にしかけました。

あと、そうですね。玉川さんについては個人的に好きという理由もありますが、かわいらしい声からボーイッシュな声、セクシーな声も含めて演じ分けができる方で芸の幅も広く、テクニックもトップクラスの声優さんです。ジュイスは関わりを持っていくごとにAIが育っていって個性を獲得していくというものなので、キャスティングの際に満場一致で玉川さんになりました。

石井:
(質問者は)あと2人にしぼりましょう。

Q:
ゆるい質問なんですけど、すごい攻殻機動隊のサイトーさんが大好きで、彼に関するエピソードがあれば教えてください。

神山:
サイトーは女性スタッフの中でも人気が高いんですけど、……うーーーーん(笑)あの、ゆるーい返答で行くとですね。サイトー役の大川透さんは今や押しも押されぬ声優さんになっておられるのですが、攻殻機動隊のころは、「鋼の錬金術師」に出演される前だったので、下世話な話ですがギャランティもまだそんなに高くなかった(笑)

ところが2nd GIGの総集編を作った時にですね、そういう場合はアフレコはやり直さず元の音声を使うんですが、どうしてもサイトーのセリフを取り直さなくちゃいけなかったんです。それで取り直したんですが、そのセリフが「了解」の一言だけで(笑)

それだったら今までにサイトーは「了解」の1つくらい言ってるだろうと思ったんですが、声優さんの契約でそういうことしちゃだめということになってて、収録現場に来ていただいて、あの渋い声で「了解」とだけ言っていただいたんです。

ご本人も本当に申し訳なさそうで。というのも、ギャラは一言でも出ずっぱりでも一緒なんです。大川さんが「申し訳ないからもっとしゃべっても大丈夫ですよ」とおっしゃってくださったんですが、本当に他には何も無くて。史上最短の2分でアフレコが終わってしまいました。

仕上げのスタッフは女性が多いんですが、大体女性スタッフに聞くとサイトーが好きという人が多いですね。寡黙で、厳しい仕事も黙ってこなして、結婚したいという人が多かったです。

Q:
今やっているのでもこないだ終わったものでもいいので、4名の方に注目しているアニメや監督、スタッフなどを挙げていただければ。

神山:
僕からでいいですかね。まあ、自分の携わった作品についてしゃべってもしょうがないですよね。でも、アニメを作っていると忙しくてアニメを見なくなっちゃうんですね。嫌いになってるんじゃなくて。

まだ全話見れていないのですが、この作品はたまらなくいいなと思ったのは……「けいおん!」ですね。なんだか説明できないんだけど、「東のエデン」とほぼ同じ時期で裏番組と言っていいくらいだったんですが、この番組には勝てないなと。

監督も女性で、女性が作っているこういう作品には男が作っても太刀打ちできないなと感じました。女性スタッフが中心で作っている魅力があふれている。スタッフがどう思っているかは聞いたことないんですが、技術的なことを言うと、作画の方向が理にかなっていて絵が崩れない。そういう作形に最初からなっている。そういう技術的なことも含めてですが、ぱっと見てもかわいいし。

僕が作ったら、絶対気になって彼女たちのお父さんお母さんとか出しちゃうんです。そういうのを一切出さずに書ききるのもすごい。「けいおん!」はもうちょっと忙しくなくなったらちゃんと見ようと。


松浦:
僕は「東のエデン」が大好きなんです。以上!

で(笑)弊社で関わっているものとしては「TIGER&BUNNY」。コンテを見た段階では「売れるのかな?」と思ったんですが、1話を見た段階で「これは面白いぞ」と。女性の方がいろいろ妄想してくださっているようですし(笑)

技術的には「花咲くいろは」の作画がすばらしいです。あと、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」。うちのスタッフでも、見ていると毛穴が開くヤツが何人かいるようです。

作り手の見方というか、クオリティがどうこうという方向に行きがちなんですが、ピーエーワークスさんのいろはなんかを見ていると、地方でスタッフが限られていてもハイクオリティなものを出しているのを見ると勇気をもらえます。

古田:
では簡単に。神山さんと始めて食事をしたのが去年の今頃。そのころにある1本のアニメの話で盛り上がったんです。それが劇場版アニメの「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」という伝説的な作品で。僕らの世代はあれでみんな道を踏み誤ったんですよ。神山監督はいい感じに道を踏み外して一線でアニメを作っていますが、僕は好きなアニメを作りたいけど作れないところにいってしまってたんです。

その「ビューティフルドリーマー」は神山さんの師匠である押井さんの作品なんですね。その後、実は押井さんと神山さんと一緒に食事をする機会がありまして、「ビューティフルドリーマーをリメイクするとしたら」と無謀な質問をしたら、押井さんは「ラムが出ないものにする」と答えてくださって……、僕の20年返してほしいなと思いました(笑)

石井:
僕は「シティーハンター」です。ちゃんと弾丸が書いてあるというのをビデオのコマ送りで見つけて、アニメってすごいなと思ってアニメ業界を目指し、ああいうリアルな絵を作る人を探していたら神山監督に出会ったんです。

神山:
あっという間の1時間でした。「マチ★アソビ」というイベントに呼んでいただいて、正直こんなお客さん集まってくれるのかとか、僕の話聞きに来てくださるかしらと心配したのですが、たくさんの人が集まってくださって、たくさんの人が(作品を)見てくださっていると感じました。

それと同時に、まだまだアニメーションのポテンシャルは高いと思っていまして、それでもようやく「3D攻殻機動隊」なんかは、当時は宣伝も行き届かず、見ていた人でもDVDになっていたのを知られていない作品である中で、3D作品という形で多くの人に見ていただけた。全国9館からスタートして、おかげさまで大ヒットして大勢のお客様に見ていただけました。でも、もっとたくさんの人に見ていただけたらとも思っています。

スタッフにもお客さんに喜んでもらえないと、作品を作り続けることはできません。今まではテレビで一方的に放映したり、OVAとして発売したりという手法が多かったですが、ネットの時代が到来して、ニコニコ動画やYouTubeでの配信など、これからのニーズにあった形式で、作り手の個性を生かした作品を届けられたらいいなと改めて感じました。できる限り多くの作品を届けられるよう努力します。

アニメ業界自体が1つの会社なのかなとも思っていて、ハリウッドみたいに発展していければと。海外の人も応援してくれているというのも分かったので、徳島などの地方からもっとイベントが広がっていくと面白いですね。ufotableさんも地元を生かしたやり方を展開しているので、地元特有のアニメも出てくるかもしれないですね。今後も応援していただけるとありがたいです。

本当にうれしいですし、感謝しております。1時間と短い間でしたが、ありがとうございました。

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