睡眠不足だと状況を楽観しすぎてリスキーな決断をすることがある
ラスベガスのカジノなどでは、光や騒音、極彩色のカーペットの模様にまで、ギャンブラーたちを一晩中眠らせないための仕掛けが隠されていることは知られていますが、客を眠らせないことによりカジノがもうかる仕組みには「起きている間はみんなお金を使い続ける」というだけでなく、「長時間起き続けている客ほど大金を失うようなリスキーな決断をしやすい」という側面もあることが神経科学者たちにより裏付けられました。
デューク大学系列のメディカルスクールで行われた実験により、睡眠不足の人の脳では、ある決断の結果得られるかもしれない「利益」を見積もる部分が活発になり、その決断により失うかもしれない「損失」を見積もる部分の活動が低下することが明らかになっています。つまり、睡眠不足の人は「賭け」に負けたときに失うものについて深く考えず、より大きな利益を求めて「大ばくち」を打ちやすい状態になっているのです。
詳細は以下から。Sleep-Deprived People Make Risky Decisions Based on Too Much Optimism - DukeHealth.org
睡眠不足が意志決定能力に影響することはすでに示されていますが、これまで多くの研究では、睡眠不足による意志決定能力の低下は注意力や記憶力の低下、ある行為の「費用」と「効果」などさまざまな要素を統合して分析する能力の低下に結びつけられてきました。
デューク大学とシンガポール国立大学共同の医学校Duke-NUS Graduate Medical Schoolで神経行動学を専門とするMichael Chee教授らの研究によると、睡眠不足の人にとってはこの「費用」がそもそも小さく見え、「効果」を重視するようになっている可能性が高いようです。論文はJournal of Neuroscience誌2011年3月8日号に掲載されています。
Chee教授らの実験では、平均年齢22歳の29名の健康な成人の被験者に経済的意志決定タスク(その結果により金銭的な「報酬」または「損失」が伴う意志決定ゲーム、いわゆるギャンブル)を行ってもらい、タスク中やギャンブルの結果を教えられる際の脳の活動をfMRIにより観察しました。
その結果、被験者たちは徹夜した後の午前6時にタスクを行った際には、普段通り一晩眠ったあとの午前8時にタスクを行った際と比べ、「損失を抑える」決断よりも「利益を増やす」決断をしやすい傾向があり、睡眠不足の人の脳では「ポジティブな結果」を見積もる部分で活動が高まり「ネガティブな結果」を見積もる部分で活動が低下しているほか、ギャンブルの結果を教えられる際にも「報酬」に対し敏感に、「損失」に対し鈍感になっていることが示されたそうです。
つまり、睡眠不足のギャンブラーは1万円を失う痛みに鈍感になり、10万円を得る喜びをより強く感じているということ。もともと心配性で悲観的な人が「賭けに負けた場合」のことばかりを考えて「損失を抑える」ために手堅い決断をする、つまり小さな賭けにしか出ないとすれば、睡眠不足の人はそれとは逆に楽観的で気が大きくなった状態で、「賭けに勝った場合」のことばかりを考え「利益を大きくする」ような大きな賭けに出やすいのです。
カジノは大音響やチカチカと光るまぶしい照明、無料で提供されるアルコールや、「チップ」や「クレジット」に変換され「お金っぽさ」を失った金銭など、ありとあらゆる手法で客に「大ばくち」を打たせようとすることで知られています。ギャンブラーたちは外からの誘惑だけでなく、睡眠不足による楽観という内なる敵とも闘わねばならないようです。
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