サイエンス

「恐怖」にかかわるマウスの記憶を消すことに成功、PTSD治療に新たな可能性


SF映画のような話に聞こえるかもしれませんが、戦争やレイプなどPTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因となるようなつらい出来事の記憶をピンポイントで消し去ることができる時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。

ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らが、マウスを使った実験で、扁桃体恐怖を含む情動反応の処理と記憶にかかわる部位)から特定のタンパク質を取り除くことで、恐怖を呼び覚ます記憶を完全に消去することに成功しました。将来的にはPTSD患者の治療のための「記憶を消す薬」の開発につながるかもしれないとのことです。

詳細は以下から。Johns Hopkins Researchers Discover How to Erase Memory - 10/28/2010

行動療法は、衝撃的なできごとの記憶に対する情動反応を弱めることはできても、恐怖の記憶を完全に消し去ることはできず、しばしば症状の再発を起こすことが、Extinction training(消去訓練)ベースの動物モデルで示されています。

「衝撃的なできごとが起きると恐怖の記憶が形成され、その記憶は一生残ることもあり、人生を変えてしまうこともあります。その恐怖の記憶が形成されるプロセスで分子レベル・細胞レベルではどのようなメカニズムが働いているかに関する我々の発見は、それらのメカニズムを薬でコントロールすることにより、PTSDなどの行動療法の効果を高めることができる可能性を高めます」とジョンズ・ホプキンス大学医学部の神経科学科長Richard Huganir教授は語っています。Huganir教授とポスドク研究員のRoger Clem博士による今回のScience誌に掲載されます。

Huganir教授らは動物と人間の脳で「Fear conditioning(恐怖条件付け)」にかかわる扁桃体に注目し、マウスを使った実験で突然鳴り響く大きな音を恐怖に条件付け、音を浴びた後のマウスの扁桃体では特定の細胞で神経伝達が盛んになることを観察しました。

恐怖の記憶が形成されるとき分子レベルでは何が起きているかを探るため、Huganir教授らは大きな音を聞かされる前後の扁桃体の神経細胞のタンパク質をさらに詳しく観察したところ、恐怖条件付けが起きた数時間後から、カルシウム透過性のAMPA型グルタミン酸受容体が増え始め、24時間後にピークに達し、48時間後にまたもとのレベルに戻るということを発見しました。

これらのタンパク質を神経細胞から除去することと、行動療法の組合せにより、新たなPTSD治療の道が開けるのではないかと研究者たちは期待しています。「これらのタンパク質を取り除くことにより、トラウマによってできた脳内の神経結合を弱くし、それにより記憶そのものを消去しようという試みです」とHuganir教授は述べています。


行動療法によりキューと恐怖反応の条件づけが消去されるときには、カルシウム透過性AMPA型グルタミン酸受容体が外側扁桃体から除去されるので、そのときにAMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットの一つGluR1の可逆的リン酸化反応を、薬により促進することで、トラウマの記憶をピンポイントで消し去ることが可能になるというのです。

「選択的に記憶の消去ができるというと、SFのように聞こえるかもしれませんが、将来的には戦争やレイプなどのトラウマ的出来事によるPTSDに苦しむ人の、恐怖に満ちた記憶を消し去ることが可能になるかもしれません」とHuganir教授は語っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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