インタビュー

「乗れるロボットが作りたい」、スコープドッグを作り出した鉄アーティスト・倉田光吾郎さんにインタビューしてきました


装甲騎兵ボトムズに登場するスコープドッグを原寸大で作ったことで有名な、鉄アーティストの倉田光吾郎(くらた こうごろう)さんにインタビューしてきました。

現在取り組まれている「カストロール1号」の製作秘話からこれまで製作してきた作品群について、製作を中止するに至った物についても詳しく聞いてきました。

なんでも作るよ。
http://monkeyfarm.cocolog-nifty.com/

GIGAZINE(以下、G)
まず最初に、今回のフリーキックマシン制作のきっかけについて教えて下さい。


倉田光吾郎さん(以下、倉):
仕事として普通に依頼された、というのが最初です。他の人たちはできないと言ったという話だったので、「だったら、やろうかな」というのが大きかったですね。

G:
「だったら、やろう」、という発想がすごいですね……

倉:
みんなが断ってるっていうのが、かえっていいんですよね。

G:
製作は基本的に倉田さんお一人で行ったのでしょうか?

倉:
そうですね。基本的に僕が作っていって、いろんな人がちょこちょこと手伝いに入ってくれています。

G:
依頼を受け、ほぼ一からフリーキックマシンを作ってこられましたが、これまでで最も苦心された点は何でしょうか。

倉:
とにかく「全体が重い」ということと「動く物を作る」というところですね。動く物はやはり動かない物より難しいので試行錯誤するのに時間がかかったというのが、普段の製作とは違いますよね。

G:
現在の「カストロール1号」には、製作当初にはなかった「立ち上がる」「走行する」などの動きが加わっていますが、変更したことで構想と食い違ってしまう部分はありましたか。

倉:
いつも最後の形を決めないで作るのがスタイルなので、特に方針変更で悩んだことはないですね。思いついたらどんどん盛り込んでいく感じです。

G:
蹴り脚は倉田さんが普段扱われている鉄ではなくCFRP(強化プラスチック)で作られていますが、普段触ることのない素材での製作を採用されて感じたことなどあればお教えください。

倉:
今回はCFRP以外にもいろいろと試してみたのですが、蹴り足に関しては「軽さ」と「強さ」が重要なんです。同じ体積だったら鉄と比べるとCFRPがべらぼうに軽いので、そういう意味ではかなりびっくりしましたね。これについては、CFPRを扱う会社さんと協力して開発を進めていきました。


G:
最初は鉄パイプを蹴り足として使われていたとお聞きしたのですが。

倉:
そうです。でも、使うのをやめたからといって鉄パイプがダメというわけではないんです。鉄パイプもそこそこ軽いですし、何より鉄はいきなり割れたりせず、曲がってくれたりするので安心感がありますよね。CFRPはいきなり割れる可能性を否定できませんから、自分としては鉄の方がわかりやすいなというのはあります。

でも、やっぱり蹴り足部分は振り回すことになるので、遠心力による暴れは怖いですから、CFRPの方がいいかなということで落ち着きました。

G:
蹴り足がまっすぐではなくわずかにカーブしていますが、キックをするにあたってなにか意味があるのでしょうか。

倉:
いえ、機能面ではなくて完全に意匠の問題で、人間の足を意識した形にしているんです。もともと、バネのように曲げてしなりを加えようかという考えもあったんですが、蹴り足を相当細くないとしなりを生むまでにはならないんです。でも、あまり足を細くすると蹴ったときにボールが割れてしまう可能性があるので、今のような形になりました。

G:
ボディー全体は鉄の色そのままですが、一部赤い塗装がされていたり、コックピットのシートも赤いものが使われていますが、この配色はどのような意図があるのでしょうか。

倉:
赤はカストロール社のロゴから取ってるんですが、全体的に黒色な中で赤のポイントがあったらいいな、ということもあってデザインしました。


G:
「カストロール1号」の車として動く部分のベースとなっているものはあるのでしょうか。

倉:
バッテリー式のフォークリフトですね。一回全部ばらしてから組み替えました。

G:
そのほかに「カストロール1号」のこだわりなどあればお教えいただけますでしょうか。

倉:
蹴ることへのこだわりよりは、「物として面白く成立させたい」というのがありますね。与えられた条件としては「エンジン駆動で」「ボールを時速何百キロかで蹴る」というものだったんですけど、立ったり走ったりしたらもっ面白いよね、ということで。せっかくだから、自分が乗って面白くしたいですよね。

G:
ご自分で自宅を建てられたとのことですが、なにか既成の住宅では足りない部分があったために自作されたのでしょうか。

倉:
一番はじめのドームハウスはまさにそういう感じだったんですけど、最近作った自宅は既成の部品作ったら安くできるんじゃないの?という単純な動機です。パソコンを自作する感覚に近いですね。「カストロール1号」の製作にかかったので、壁の工事については大工さんにお願いしました。

ドームハウスは今でも使ってるんですが、さすがに12年経ってるのでボロボロで、完全に倉庫として使ってます。フリーになったら改修したいですね。

こちらが自作したというドームハウス。


三角形の木製パネルを組み合わせて作られています。


階段も設置されています。


G:
千葉県のJFEスチールで閉鎖となった高さ12メートルの高炉のモニュメントを製作されましたが、製作期間はどれほどかかったのでしょうか。

倉:
仕事場を用意してもらって、結果として2年くらいは千葉にいました。

G:
JFEの工場の見学もされたとのことですが、鉄を作る現場をご覧になってどのようにお感じになりましたか?

倉:
同じ鉄なのに、自分がいじっている鉄の大きさとは規模が全然違っていて、一人でできることの範囲を思い知らされるような気もしたし、かといって逆に一人でしかできない面白いこともあると思いました。言い方はおかしいかもしれませんが、世界の広がりを感じましたね。

G:
スコープドッグをいくつかのイベントに貸し出しされていますが、1年に平均してどのくらいの依頼があるのでしょうか。また、貸し出す際の条件などはあるのでしょうか。


倉:
もともと商売目的で作ったものではなく、自分としては「自作のでかいプラモデル」という感じなので、積極的に人前に出していないんです。これまでの貸し出しについても、ボトムズの関係者の方から引き合いがあれば、という感じで受けてます。作った経緯としても、勝手に作ってから許可をいただいたので「恩返しがしたい」という理由だけでお貸ししています。

G:
2009年夏にお台場に実寸大ガンダムが出現しましたが、ご覧になりましたか?また、「もし自分ならここはこうするな」みたいなところはありますか?

倉:
話の上で「ガンダム、どう?」って聞かれることもあるんですが、実は本物は見ていないんです(笑) 僕がスコープドッグを作ったのは「鉄」というつながりがあったからなんですよ。でも、もしもやれるのなら、ガンダムよりもザクを作ってみたいなと思いますね(笑)

G:
他のアーティストの方ともお会いしたことがあるとのことですが、お知り合いになるきっかけはどのようなものでしょうか。

倉:
そうですね、作品を通じて、特にボトムズのあとにあちらから声をかけてくれることが多くなったんです。JFE高炉モニュメントの製作で千葉にいた時に遊びにきてくれる人が多かったですよ。誰か一人知り合いの人がいると10人くらい友達を連れてきて、その中の一人がまた誰か連れてきて…という感じで知り合いが増えていきましたね。

G:
また、合作などをしてみたいと思われることはあるのでしょうか。

倉:
たぶん、こういう連中は二人でなんか作るとケンカしちゃう(笑)ただ、「ラッキードラゴン」を作ったヤノベケンジさんみたいに大きな物を作る人とか、共通項のある方たちとグループ展みたいなものはやってみたいなと思います。

これが「ラッキードラゴン」。周りの人と比べると相当大きいです。


G:
2007年に製作されていたデコピンマシンのリベンジのご予定はありますでしょうか。

倉:
いや、あれはね……デコピンマシンって言っておきながら、実は鉄人28号の手だったんですよ。一番はじめ鉄人は全身稼働を目指していたので。10mの鉄人をクレーンで吊って、ドスンドスン歩かせようという話をしてたんですよ。

子どもの時にこのロボット(スコープドッグ)は4mだぞって聞くと、「意外と大きくないな」って思うじゃないですか。もっと巨大な身長という設定になっているロボットはいっぱいいるので。でも、実際に4mを見ると相当でかい。だから、本当にコレが動くとなったらめちゃめちゃ怖いぞと。そういうのを体験してみたいなと思ってますね。


「カストロール1号」でも、開発当初はカストロールさんからは「人は乗せずに遠隔操作でもいいのでは」って話があったんですが、自分の好みもありますけど、やっぱりサッカーって人vs人じゃないですか。今の球速でキーパーに向けて蹴ると命の危険がありますけど(笑)コクピットを作ったことで、間接的に人が蹴っているということを表現できたとは思います。ボールを打ち出すバレーボールの練習用マシンみたいなものにしちゃいけないと思いますから。現状の「カストロール1号」にもしコックピットがなかったら、それこそ軍用車両かなんかにしか見えないですしね(笑)


G:
鉄人28号の開発中止からかなり時間も経過していますが、鉄人のプロトタイプはこの工房に保管されているのでしょうか?

倉:
鉄人は千葉のJFEの作業場に置きっぱなしなんですよ。あの作業場自体がなくなるまでは放置しておいてOKという、かなり寛大な方針なので。JFEの中でも鉄人好きな人はいっぱいいるし、捨てるのはもったいないけどどうしよう?という感じでなあなあに保管している感じですね。

G:
今後、鉄人が日の目を見ることはあるのでしょうか…?

倉:
いや、たぶん彼らと和解することはないと思うので……ぶっちゃけ。あれは相当な予算を組まないとできないものだから、いったんチャンスが流れてしまうと難しいですよね。世の中にはいろいろと大人の事情があるので(笑)

G:
仕事の気分転換にプラモデルを多く製作されているとのことですが、これは特に会心の出来だ、というものはありますか。

倉:
そうですね、ガンプラはどれも大体すごいですよね。金型の技術とか……むしろそっちの方の観点ですよね。できあがったものより、パーツ自体をどうやって作ったかが気になります。

あと、今回の「カストロール1号」プロジェクトみたいな長期的な製作に取りかかると、やっぱり気持ちとして「まだできあがらないのか?」という欲求がでてくるじゃないですか。そうなるとプラモデルをちゃっちゃと作って「できた!」という達成感を味わって、ストレス解消をしてるというところがあります。

倉田さんが「大きなプラモデル」と語ったスコープドッグの拳。


G:
ほかに気分転換にされることなどはありますか?

倉:
「カストロール1号」みたいな大きな物を作ってると、丸1日休んじゃうとあとで後悔するのがわかってるので、なかなかどこかに出かけるということもないですね。今回の製作も全然休みはなかったです。だから仕事ではないですね、そういう意味では。アマチュアのプラモデル製作に近いです。


G:
では、作品を完成させた時にはすごく達成感を感じられるのではないですか?

倉:
いや、やっぱりもう少しできることがあったんじゃないかなとか思ってしまう方ですね(笑)でもやっぱり、ずっと作っていると飽きるには飽きますよ。例えばこの「カストロール1号」を1年後に全面改修してもうちょっとかっこよくしようって話になったとしたら、多分やらないでしょうね。だったら新しい物を作るっていう感じになると思うんです。

G:
これまで製作された作品の中で、特に作りがいがあったという作品はありますか?

倉:
ものづくりとしては自分の家ですかね。結構大変だったので。あとは人との関わりという面だったらやっぱりボトムズですね。

G:
電気工事士2種実技試験を受験されていましたが、なにか資格が必要となる場面があったのでしょうか。

倉:
ストレスでなにかやってみたくなったので受験したんです(笑)自分の家の電気工事をやろうっていう目的ももちろんあったんですけど、とりあえず勉強してみたい、教科書を見てみたいという欲求からですね。

G:
実際に受験されてみて、独学では得られなかった発見などはありましたでしょうか。

倉:
電気のことは全く知らずにいじってたので、「ああ、そういうことか!」と発見の連続でしたね。その後の仕事にも生かせました。

G:
お父様も鉄を生業にしていたとうかがったのですが、鉄を使った作品を製作することにした直接のきっかけ、エピソードなどあればお教えいただきたいです。

倉:
例えば、八百屋さんの息子って野菜に興味ないじゃないですか。同じように、自分も鉄とかに全然興味がなかったんですよ。子どものころは父は吉祥寺の実家で製作をしてたんですが、20年ほど前にこの工房に引っ越したんです。この工房のあるところは当時キャベツ畑で電気も通ってなかったようなところだったんです。

小中学生くらいになると鉄を全く見なくなったんですが、高校の夏休みにちょっと工房でなにか作ってみようかなと試しにやってみたんですよ。すると意外とうまく作れた……というのがはじまりですね。

G:
それ以前になにかものづくりをされたことはあるのでしょうか。

倉:
幼稚園のころから紙で工作するのが好きでしたし、思い起こしてみるとなにも作っていなかった時期がない人生のような気がします。


G:
ボトムズや商店の内装、またご自宅など大規模な製作に対してフットワーク軽くチャレンジされていますが、そのモチベーションはどこから来るのでしょうか?

倉:
好奇心ですね。例えば、いつも違うことをやるということも、これをやったら自分はどんな物作るんだろうっていう好奇心です。同じ物を2つ作るよりは、全然違うことにどんどんチャレンジするのが僕のスタイルなんです。仕事でも「最後までこういうデザインで作りますよ」という風な進め方はしないので、「自分が何を作り出していくのか」という意味での好奇心が一番強いですね。

「作る」という作業も、毎回同じことをやるんだったら早く作ることができるんですが、違うことをやる場合は試行錯誤しなくてはいけないので、やっぱり面白いんですよ。作り方から考えなくてはいけなかったり。「カストロール1号」についても、鉄以外にCFRPを使ってみたりしていますし。本来、商売だったら同じ物をいくつも作るほうが利益計算もできるのでいいんですけど「面白いほうがいいじゃん」って思うんです。

G:
カストロール1号の製作が一段落された今、次作のご予定などありますでしょうか。

倉:
「乗れるロボット」が作りたいですね……。今回の「カストロール1号」で油圧がどういうものか理解できたし、経験値が上がった部分もあるので。車みたいに、基本的に自分が乗り込むものが好きなので、そういうものの延長線上としてロボットができたらいいよね、と思っています。

G:
ありがとうございました。


・追記
このあと、倉田さんは本当に人が乗れるロボット「クラタス」の制作を開始。

「乗れるロボット」が現実に、全長4mの鉄製ロボットが制作進行中



「クラタス」は2012年に完成、ワンダーフェスティバルの会場で披露されたほか、博物館などで展示が行われました。

人型四脚エンジン駆動陸戦型巨大ロボ「クラタス」ワンフェスでお披露目、人が乗って操縦できて家庭に配備&購入も可能



人が乗れる巨大ロボ「クラタス」を実際に動かしたお披露目の様子のムービーはこんな感じ、価格も判明


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in 取材,   インタビュー, Posted by darkhorse_log

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