取材

ゆとり教育世代の現役大学生の実態が垣間見える「ビジネスコンテストデルタ2008」に行ってきました


「家庭または家族を対象とした新規ビジネスプランを考案せよ」ということで、2008年9月6日~9月11日にかけて開催されていたのがこの「ビジネスコンテストデルタ2008」。当然参加者は運営する側も含め、全員が現役の大学生。この年代はゆとり教育を受けているため、「ゆとり世代」などとも呼ばれていますが、一体実態はどうなっているのか?その一端を垣間見てきました。

このコンテスト自体は実に5泊6日に渡って開催される関西では最大規模のビジネスプランコンテストとなっており、「合宿型で初対面チーム制」というかなり変わった内容が特徴。つまり、今まで会ったこともない相手とチームを組み、ごく短期間でビジネスプランを完成させるという感じ。ビジネスプランコンテストなどに出まくって賞金を荒稼ぎするような人ではなく、ビジネスにちょっと興味がある初心者をメインターゲットにしてボトムアップを目指しているのが特徴です。そのため、完成度よりもアイディア勝負になる点が多く、通常のビジネスプランコンテストではありえないようなプランが多く出てくるというわけ。

そんなわけで、イマドキの大学生たちの様子の一端を垣間見てみましょう。フォトレポートは以下から。最後にムービーもあります。
最終日の決勝会場はここ、大阪産業創造館。


こんな感じの建物です


協賛企業などもちゃんとあります


人いっぱい


決勝に残った4チーム


で、今回決勝まで勝ち残ったプランは以下のような感じ。

■「KIDs★NA」~新感覚お子様ランチ専門店~


プレゼン内容:


概要:
・お子様ランチ専門店を出す。ただし、お子様だけがターゲットではなく、大人向けにも提供するというのがポイント。
・産業としては外食産業に分類されるが、追随されるのが外食産業の常なので、数十種類のお子様ランチを常に用意。そのときに流行っている物などを入れてカスタマイズし、マネをされてもどんどん新しいのを作っていく。
・客単価はファミレスに一番近いと考え、1001円で計算。
・客席はファミレスなら80席から100席を想定するが、90席を想定。
・回転率はファミレスは6を超えるが、低めに見積もって4で計算。
・営業時間は朝10時から夜10時までの12時間。
・時間による売上の変動はどのようにカバーするのかというと、お昼時には幼稚園などに行っているので子どもがいないが、大人でも楽しめるというコンセプトなのでなんとかカバーする。しかし14時などには昼食も食べに来ない、そこで「平日開講教室」を行う。これは客回転率が3.3を下回った場合に取り入れるシステムとなっている。この教室は子どもと親御さんを想定している。しかし、審査員から「子どもはこの時間帯には学校に行っているがどうするのか?」とつっこまれてました。

個人的感想:
かなり早口でプレゼンしたにもかかわらず、与えられた10分のプレゼン時間で終了しなかったのはやはり一番手ということで多少緊張していたからか?それはともかく、数値的なものが結構考えられており、別にお子様ランチでなくても、別の飲食店でもいけるのではないかというような印象。単なる一発ネタのアイディアであっても、数値を絡ませるとリアリティが増すというのがわかる好例。メリットとデメリットが割とはっきりしているので、デメリットを一つ一つ潰していけばそれなりのプランになるように感じられた。プレゼン力は低いが、それ以外の面が良くできていた感じです。

■共学塾


プレゼン内容:


概要:
・子供を持つ共働きの家庭が増加しているのに加え、団塊世代が大量に退職するという点に注目。この両者がともに学ぶ場を提供する、というもの。
・ターゲットは年収1000万円で共働き核家族世帯の親と、子ども好きで教養を身につけたい団塊世代退職者である60~75歳。
・塾や学童保育が競合となる。が、学習塾とはまったく違うコンテンツなので違うターゲットとなり、競合にはならないと考えている。
・小学校一年生から六年生の中で塾に行っていない人の割合は全体の6パーセント、ほとんどの小学生が塾か何かの習い事に通っている。
・サンプルとして足立区を取り上げ、収支予測を立てている。
・本来の学童保育の場合、足立区だと6000円を上限にしている。一番高いところで1万2000円程度、最も低いところだと無料。価格は子ども一人当たり月額1万7500円、大人は一人当たり月額4800円を想定。
・団塊の世代の方に来てもらって一緒に学ぶという意味でお金を取る。
・団塊世代の方の知識やノウハウを生かしたコンテンツを作っていく予定。
・ロケーションについて、本来の学童保育は学校内や公共施設、子供会が民間の自宅を借りて行っている場合もある。つまり、民間でも既に存在する。

個人的感想:
公共サービスで埋められない穴を埋めるような感じだが、いまいち現実感が伴わない。審査員から「シングルマザー向けにやってもいいのではないか?」という指摘があったがまったく同感。おそらく、裕福な家庭だとこのような場所に通わせるとは考えにくいので、もっと切実な要求を持ったところをターゲットにすべきだと感じました。ただ、この狭い市場と少子化する将来を考えると、ビジネスとしてどこまでやれるのかがかなり不安。練り込みも足らないように感じられたのが残念な点。

■呑みん家(デリバリー居酒屋)


プレゼン内容:


概要:
・居酒屋での注文回数は平均すると8.4回。なぜかというと「きままな注文」をするため。
・そこで考えたのがこの「デリバリー居酒屋」。居酒屋メニューを家に電話1本でスピード配送する。これによって、デリバリーではあり得なかったきままな注文を可能にする。
・届ける時間は15分。料理ができたらすぐ届ける。
・地元密着で商圏が1.5kmと狭い。
・ターゲットは成人した子供を持つ家庭。あるいは呑みたいけど飲酒運転を回避したい人。
・デリバリー市場全体を概観すると中食市場が増加している。
・キッチンさえあれば可能なのでスペースが狭くても問題が無く、どこでも開店可能。
・フランチャイズ展開も容易。
・また、新規ビジネスなので競合がないと主張。
・ただし、審査員から、居酒屋というのはそもそも、宅配するニーズがあるのか?居酒屋を使うときの目的は料理なのか、仲間とワイワイすることなのか、価格なのか?なぜわざわざ居酒屋を家に持ってくるのか?システムがあっても使わなくなってしまうという指摘あり。
・それに対しては、主に居酒屋に行く人たちというのは元気な人たちのグループで行くと想像していると思うが、車いす生活や子どもが生まれたばかりで目を離せないという人が商圏にいて、そういう方々を含む家庭というのは、家庭全体で居酒屋に行くということが実現できていない。そういう対象に「飲みニケーション」を実現したいと考えている。
・また、酒の種類がいっぱいあるのが魅力的なはず。それらを全部、家庭の冷蔵庫に揃えることはできない、それらを小口で届けることに意味がある。
・できるか?という点を見ると、競合がいないというのは、競合が今まで気づいていなかったのか、気づいていたが結局あえてやらなかったのか?どちらかが不明。
・競合がいない現象というのは魅力がないのでこのマーケットに入っていないという可能性もある。
・初年度売上の数字の根拠は、世田谷をターゲットとしたので対象世帯が10万世帯、チラシを配布して認知率が0.06、そのうち10回に1回デリバリーサービスを頼んでもらうと達成できる。
・店舗数は1個を想定。
・半径1.5キロメートルで10万人いるということで計算している(10万世帯の間違い?)。
・また、通常の店の場合はセントラルキッチンがあるので各店舗の利益の差は吸収できる、それと同じ仕組みを将来的には取り入れていく。

個人的感想:
「競合がない」と自称しているが、競合がないわけではない。宅配ニーズがどれだけあるのかという数値的根拠に欠けているのが残念だが、実現した場合には確かに便利そうなサービスではあると感じた。ただ、提案されている内容と実際の需要との間に大きな乖離があるような気がする。

■男性向け食材宅配サービス


プレゼン内容:


概要:
・料理が夫婦円満に貢献すると思うのは89.9%。
・コースは3つで、スタンダードコース・ヘルシーコース・こだわりコース
・1食分の食材をシンプルなメニューで提供する。わかりやすく書いてあるレシピが付属しており、洗わずに返せる食器および調理器具が付属。
・価格は1食で約700円を想定
・ターゲットは40代の男性。該当100人アンケートの結果だと20代や30代も要望としては多いが、既婚率を考えると40代になる。
・競合状況としては既に主婦向けに同じような食材宅配サービスが主要5社存在しており、市場規模は約70万世帯で1000億円。
・シェアが拡大した後にはお酒やスイーツも加える
・目標は7年後に50万世帯を網羅し、売上を年商1300億円にする
・月に1回程度は男性が奥様や家族に対して食事を作って家族団らんの時を作るというのはありかもしれないという意見が審査員から出る。
・共働きのところで「夫も作ってよ」ということになっているが、リピートさせるのかイベントとしてして作ってもらうのか、どちらの方がよいのか?という質問に対して、3つのコースがあるが、はじめのスタンダードコースでは毎日作れるものを提供。こだわりコースではこだわることができるようにイベント性がある、と回答。
・しかし通常は1食(1世帯で換算)で5000円から6000円ほどはいく。だからこだわりコースが800円というのはしょぼいのではないか?という指摘。
・こだわりの食器らしいが、食器の必要不必要も選択できればいいかもという意見が出る。
・なぜ男性がターゲットなのかが不明という指摘に対して、メニューの内容と言うよりは男性に料理をしていただきたいという視点から考えたサービス、と回答。
・40代の男性をターゲットにしているのでおつまみ類を一緒に届けるというのも考えている。
・単身赴任の人向けでも面白いかもしれない。
・主婦向けのところで行くとオイシックスなどが無農薬などの特徴を付けて食材の提供を行っているが、男性という切り口以外が欲しいという指摘あり。
・スイーツも今後シェアが拡大すれば考えていきたいというのは、スイーツは器具がそろっていないと作る気になれないため。そういう器具を一緒に貸し出すことで女性に対してもニーズがあるような気がするらしい。

個人的感想:
ここで示したのはプレゼン資料の一部で、実際にはこれまで出てきた全グループの中で最も上手だった。上手というのは資料のまとめ方や見せ方もそうだが、指定された時間内で早すぎず遅すぎず、適度な速度で緩急を付けながら説明していたため。また、全プレゼンの中で唯一女性が発表していたのも印象に残った。しかし、数値で補強していく割には発想自体に詰めが甘い点が多くあった。最初から競合がはっきりしているのでその点では新規参入に近いが、そういう視点があまり多く見られなかったのが残念。ちょっと現実的なシミュレーションが足りないかも。

で、今回の審査基準は以下の5つ。

1:アイデアの奇抜性・独創性
2:事業内容(ビジネスモデル)
3:事業戦略(事業展開)
4:収支計画
5:プレゼンテーション

ちなみに昨年度の決勝に残ったプランは以下のような感じ。

1:無テキ:「テキストは買わない、レンタルする」(大学テキスト「買い取り・レンタル事業」)
学生の数も減少傾向、進む学生の教科書離れ。そこで、値段の高い教科書に対する学生の不満を解決するのがコンセプト。

2:内定者コンサル「内定者の声」(新卒採用)
新卒採用活動で悩みを抱える企業向けの新卒コンサルティング。企業の人事担当者との会話中に新卒採用において企業は学生の生の意見を聞きたいという思いがあることを知り、そこで顧客企業が求める人材を採用できるように支援を行うサービスを思いついたとのこと。企業が求める採用活動を支援する上で、入社後のミスマッチを減らし適材適所を達成するというもの。

3:「Campus Cube」
専用のロッカーがない、またロッカーが欲しい!という大学生の声を反映させたサービス。重たい荷物を持って広大なキャンパスを歩き回る「ロッカー難民」に安価でロッカーを提供する。普通のロッカーじゃ面白くないということで、物以外も入れられるオリジナルロッカーが特徴。

4:「GAKU食OLYMPIC」(外食産業)
いろんな大学の学食を食べてみたいが手段がない大学生を対象にした、全国の大学の学食を食べられる外食事業。企画自体が話題性に富み、他の競合他社とも安価な値段かつ栄養価のある食事を提供できる強みがあります。対象顧客は大学生。また、大学に懐かしさを持つ大人や大学にあこがれを持つ大学生以下の年齢層にアプローチできるかも。

そして今回、観客から投票で選ばれた「オーディエンス賞」はこれ、4番目の男性向け食材サービス。


商品はなんとマクドナルドのハンバーガー100個とポテト100個の引換券など。これを発表した瞬間の会場のどよめきは異常。


優勝は1番目の「KIDs★NA」。審査員の方々によると、どれもこれもほとんど同じレベルだったが、審査員にだけ配布されている詳細な数値まで入った資料を検討した結果、ここが一番完成度が高かったらしい。ただし、プレゼンのレベルは最低だったとのこと……。


優勝の賞品はこんな感じ。初心者向けのコンテストなので賞金が出たりはしません。


が、なんと三重県大阪事務所から松阪牛・伊勢エビ・南紀ミカンなどの商品が追加で登場。一瞬、全部もらえるかと思ったのですが「地方自治体の財政事情では、この中からどれか一つということで……」とのこと。


優勝チームの面々


ただ、最後の最後で協賛企業の一つから全員に向かって、

「これが学生向けのイベントだから審査員の皆さんは大人としての対応をしたと思うが、正直、しょぼい。賞をあげられるようなものはない。だから、これで終わって欲しくない。前に進んで欲しい」


「ビジネスの世界ではあり得ない、超一流のビジネスパーソンから見ると、グローバルな観点から見た物がなかった。なぜ視点が島国視点なのかがわからない。その時点で残念。もっと発想を大きくすべき。あと、1億円という売上がわかっていない。1億円の売上を突破するのは大変、それがわかっていない。私は学生ファンドも運営していたが、今回のチームにはどれも投資できない。なぜそのプランをあなたたちがするのか?という点がわからない。それでは金は付けられない……というのが現実の世界だということを知っておいて欲しい」

などというかなり手厳しいコメントが。会場は一瞬にしてシーンという感じで極度の緊張状態になったわけですが、その後の懇親会では以下のような感じで、コメントした人も含めてなごやかかつにぎやかな感じに。


というわけで、ゆとり教育世代の現役大学生の実態が垣間見えたと思いますが、みなさまはいかがだったでしょうか?

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
日本社会で起業するため本当に必要な9つのモノ - GIGAZINE

おまえは仕事をエンジョイしているか - GIGAZINE

日雇い宿無しフリーターをターゲットにする「貧困層ビジネス」の実態 - GIGAZINE

in 取材,   動画, Posted by darkhorse

You can read the machine translated English article I went to the "Business Contest Delta 20….