固い砂が液体のように波打つようになる「流動層」の実験をお風呂サイズでするとすごいことに

砂浜の上を歩いても人は沈みませんが、その砂浜の中に空気が送られることで「流動層」という状態になり、砂は水のように波打つようになります。この現象を、風呂おけを利用して再現してしまうというムービーがYouTubeで公開中です。
Liquid Sand Hot Tub- Fluidized air bed - YouTube

元NASAのエンジニアである工学者のMark Roberさんが座っているのは砂を敷き詰めたお風呂の上。当然のことながら、砂浜に座っているかのように地面は固い状態です。

しかし、砂の下からポコポコと気泡が湧き上がってくると、Roberさんは泥沼にはまったかのごとくズブズブと沈んでいきます。

これは砂のような粒径の小さな粒子の底から気体を噴出させることで、固体粒子がまるで液体のような挙動をとるようになる「流動層」という現象を応用したもの。ムービーを見ると、容器に入れられた砂がまるで液体のように波打つ不思議な様子がよくわかります。

通常は、 流動層は粉末塗料を塗るときや……

穀物を貯蔵するサイロなどに利用されます。

水の中で使うニモのオモチャを砂の上に置いても、普段なら全く動きませんが……

流動層の中だと、まるで水の中を泳ぐようにオモチャが進みます。

ボールを砂に押しつけると、砂が波打ちながらボールが沈んでいきます。

流動層という現象そのものは新しいものではありません。約60年前に行われた流動層の再現実験の様子が映像として残っています。しかし、Roberさんは長年「流動層の実験を行いたい」と思いつつも、インターネット上で情報を見つけることができなかったとのこと。

そこでRoberさんは工業的に用いられている流動層を応用したシステムを参考に、オリジナルの仕組みを開発することにしました。

流動層について調べていてRoberさんが気づいたのは、いずれのシステムにおいても、砂に空気を送るためのパイプにはたくさんの穴が空いているということ。

そして25回もの失敗を繰り返し……

完成したのが以下の仕組み。

直径1.27cmほどのPVCパイプを容器の下にはしご状に敷き詰めています。

この時、パイプには穴と穴との角度が90度になるようにして、2サイドから穴が開けられています。


さらに25mm間隔で穴を開けます。

砂がパイプの中に入らないようにしっかりと接着し……

パイプを入れた容器に細かな砂、あるいはガラスビーズを敷き詰めます。

空気を送るためにはエアコンプレッサーを使用。

大規模な実験をする時はこんな感じの窒素ボンベをレンタルすればOKです。

基本的な仕組みは上記の通り。お風呂サイズで流動層の実験を行うには、上記の仕組みをスケールアップすればいい、ということでムービーでは早送りで作成映像が流されています。

パイプをカットし……

必要な形に曲げていきます。

風呂おけを派手に破壊しています。

穴を開けたパイプを敷いて……

必要な機器は風呂おけの内部に収納。

ボンベと風呂おけを接続します。

風呂おけに砂を満たして完成。

砂の上に立つRoberさんですが……

一度システムが稼働し気泡が出ると、立っていられずにずぶずぶと沈んでしまいました。

ということで、いきなり科学の時間。流動層の背景にはどのような科学があるのかが解説されていきます。

砂の流動化は、パイプから送られる空気で砂が上へと上昇する力と、重力で下に落ちようとする力が均等になった時に起こります。なので、1つ1つの砂を見てみると、ドライヤーからの風を受けて宙に浮くピンポン球のような状態となっています。

ピンポン球が浮いている時、重力と空気の引き合う力は同じですが……

いきなり大きな力が加わると……

均衡が崩れ、ピンポン球は力の大きな側へと動きます。

つまり、空気の力で砂が上へと上昇する力が適度であれば、流動層が起こるのですが……

空気の力が大きすぎると失敗に終わります。

力の大きさがちょうどいいと、砂の粒子は動き回ることが可能。

人がプールにダイブする時に、水の中に空気が送られるのも、これと同じ理由。粒子が動き回れるので泡がクッションのような役目を果たすのです。

流動化した砂の中に物を入れると、あるものは浮き上がり、あるものは下に沈みます。これは浮力によるもの。

浮力は流体密度×物体の体積×重力で決まります。

気圧勾配の中に存在するとき、物体にはさまざまな方向から力がかかります。そして、水の中の深いところや、人間ピラミッドの下層にいるとき、物体には多くの力がかかることに。これは、水深の深いところにいる時、自分の体の上にある大量の水が人を押し下げようとするためです。

この時、さまざまな方向からの力が相殺しあい、上へと浮上する力が合力として残されます。これが浮力です。

浮力が重力よりも大きい時に物体は浮き上がり、小さい時に沈んでいきます。

先ほどの説明は水の浮力でしたが、空気中でも、ヘリウムは大気よりも浮力が大きいので浮かび上がります。

では、Roberさんが手に持っているボールと風船は、どちらの浮力が大きいのでしょうか?

先ほどの式を見てもわかるように、浮力は物体の密度と関係がありません。関係するのは体積だけです。なので、ゴム製のボールの体積が大きければ大きいほど、浮力は大きいことになります。

では、なぜボールは下へと落下し、風船は宙に浮かぶのかというと、これは、分厚いゴム製のボールと中の空気にかかる重力が浮力よりも大きいためです。

最初の綱引きの例にあったように、物体が浮くのか沈むのかは綱引きの結果に左右されます。風船はボールに比べて浮力が小さいものの、風船内のヘリウムと薄いゴムにかかる重力よりは浮力の方が大きくなるので、空へと浮かび上がっていくわけです。

そして、最終的に、大気の密度がヘリウムの密度と同じになるところで、浮上をストップします。この時点で綱引きの力が均等になるためです。

というのが流動化した砂風呂の仕組み。上記のような科学が背景にあるがゆえに、システムが稼働していない時は砂に飛び込んでも着地するだけなのが……

稼働後はプールのように遊べるわけです。

さらに、巨大なドラム缶を砂の中に入れると……

お風呂のお湯があふれるように、砂があふれてしまうのでした。

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