壁やドアを取り払って仕切りのない「オープンオフィス」が実は効率を下げているという事実
By 泰德
オフィスの空間を壁などで区切ってしまわず、全てが見渡せるほどの開放的な空間として使用する「オープンオフィス」のスタイルは、近代的なオフィスの姿として注目を集めました。他人との区切りがなく、文字どおり横方向に広がった環境により仕事のアイデアが生まれやすくなったり、仕事の効率が上がったりというメリットが語られていたオープンオフィスですが、実際にはまったく逆の影響が現れていることが知られるようになってきています。
BBC - Capital - Why open offices are bad for us
http://www.bbc.com/capital/story/20170105-open-offices-are-damaging-our-memories
会社を経営するクリス・ナーゲレ氏は4年前、テクノロジー系企業の多くに倣って会社のオフィスを仕切りのないオープンオフィスのスタイルに変更しました。ナーゲレ氏の会社では在宅ワークを行う人が多かったのですが、社員同士のつながりをより強固にし、お互いの関わり合いを強めたいという意向があったとのこと。ほどなくしてナーゲレ氏の試みは全くの失敗だったことが明確になりました。オフィスに集まったスタッフはそれぞれ集中力が散漫になり、生産性も低下が見られたとのこと。そして、ナーゲレ氏を含む9人の社員は皆不満を訴えるようになってしまったそうです。
日本でも見かけることがあるオープンオフィスですが、アメリカでは実に70%のオフィスがオープンスタイルを取り入れているという統計もあるとのこと。そしてそれらのオフィスの多くは、旧来の区分け型オフィスに戻ることはないものと見られています。
By Manoel Lemos
その一方で、オープンオフィスには弊害が多いという研究結果も出ています。オープンオフィスを採用することで生産性は15%低下し、従業員の注意力が乱されることになったほか、スタッフが病気にかかる頻度も2倍に高まったこともわかっており、これらの結果を踏まえ、従来型のオフィスへと回帰する流れも生まれているとのこと。事実、4年前にオープンオフィスを導入したナーゲレ氏でしたが、その直後からテクノロジー業界の中では個室スタイルのオフィスに戻りたいと言う声が多いことに気づいたとのことで、「多くの人が『オープンオフィスが耐えられない』と口を揃えて言います。オープンオフィスにすることで、彼らは仕事を仕上げられなくなり、自宅に帰ってから続きの作業を行うことが多くなりました」と語っています。
オープンオフィスがうまく行かない最も大きな原因が、「集中力の阻害」です。コンピューターとは違い、人間の脳は基本的に一度に複数の作業をこなす「マルチタスク」には向いておらず、ひとたび邪魔が入ると再び集中した状態に戻るのに20分以上を要するとも言われています。また、空間の広さによって脳の記憶力が悪影響を受けることもあります。この傾向は、複数人で机を共有する「ホットデスキング」の際に顕著であるとのこと。環境およびデザイン心理学者のサリー・オーギュスタン氏は「我々は、1カ所にとどまっている時ほど多くの記憶を保つことができます。日々の中では明確に現れませんが、私たちは特に記憶の詳細な部分を周囲に存在するものと関連づけています」と語っています。これはつまり、ある特定の場所では思い出せることが、別の場所では思い出せなくなるという現象に関連していると考えられます。
By Michael Allen
また、人々の集中力を阻害する最大の邪魔者は騒音です。完全オープンオフィス環境で働く人の50%が、また、背の低いパーティションに囲まれたブースで働く人の60%が、音的なプライバシーに関して不満を訴えているとのこと。一方、個室で働いている人が同様の不満を訴えるケースはわずか16%だそうです。
オープンオフィスが推奨される最大の理由の1つが、人々の交流が進むことで新しいものが生まれるという考え方です。しかし実際には、そのような環境で働いている人がアイデアを持ち寄り、ブレインストーミングを行って何かを生みだすケースというのは、考えられているほど多くはないこともわかっています。たしかに他人の会話が耳に飛び込んでくることが多いオープンオフィスの環境ですが、実際に聞こえるのはクリスマスにあげるプレゼントの話題や、配偶者とのトラブルといった内容が多いといいます。オーギュスタン氏はこの状況について「確かに人々は会話を多く交わすようになりますが、仕事に関連する会話はさほど多くありません」と語っています。
By Jesús Corrius
何かを生みだすかも知れない手法としてもてはやされることの多いオープンオフィスですが、メリットばかりではないというのも明確な事実といえそう。とはいえ、人々が顔をつきあわせることで生まれるものもあるのは事実といえるので、その時の状況や仕事の内容によって、オープンな環境と集中できるプライベートな環境をうまく使い分けることが最終的には重要なことといえそうです。
ちなみに、ナーゲレ氏の会社はオープンオフィスを導入した3年後、床面積930平方メートル(約280坪)という広大なオフィスに移転したのですが、その際には全ての従業員に個室が与えられるクローズドスタイルのオフィスを選択したとのことです。
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