サイエンス

どこからともなく頭の中に聞こえてくる「声」には良いものもある

By Aleksandr Zykov

精神障害のひとつである統合失調症は、本来ならば聞こえるはずのないものが聞こえる「幻聴」を引き起こします。この幻聴が被害妄想や強迫観念を加速させる原因となるのですが、中には親しげに語りかけてくるような「良い幻聴」も存在するそうです。

When Hearing Voices Is a Good Thing - The Atlantic
http://www.theatlantic.com/health/archive/2014/07/when-hearing-voices-is-a-good-thing/374863/

子どもの頃、ジョー・ホールトさんはどこからともなく聞こえてくる侮蔑の言葉におびえていたそうです。ホールトさんが周囲に対して怒りを示すと、「そんなことは言っていない」と言われたり怒られたりしたそうで、自分の認識と周囲の反応のズレを感じていた模様。ホールトさんはこのどこからともなく聞こえてくる侮蔑の言葉に耐えながら生活を送っていたものの、どこかのタイミングで怒りが爆発し、その度仕事を失ったり交友関係を壊してしまったりしたそうです。そしてある時、ホールトさんは統合失調症であると診断され、それまで長年苦しんできた侮蔑の言葉は「幻聴」であったことを知ります。

ホールトさんの体験については2011年のNew York Timesの記事により詳細に書かれているのですが、統合失調症と診断された多くの人々が、ホールトさんと同じような経験をしています。このように、幻聴が聞こえるかどうかは、精神病にかかっているかどうかを確かめるための一種のサインになっているとのこと。

By Leland Francisco

このように、どこからともなく聞こえてくる幻聴は、多くの人々を苦しめています。あざけりや暴力的な声が常に頭の中で聞こえてくるというのが幻聴に対する一般的な考えでしたが、統合失調症の患者が聞く幻聴は、患者の文化的な背景に依存することが明らかになっています。

ホールトさんのようにアメリカ人の統合失調症患者は悪意のある声を聞くことが多いそうですが、他の国の統合失調症患者の中には悪意のある声を聞かない、という人もいるそうです。さらに、国によっては統合失調症の患者が聞く幻聴が「良いもの」と認識されています。

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スタンフォード大学の人類学者であるターニャ・ラーマン氏率いる研究チームがイギリスの学術誌であるThe British Journal of Psychiatryで公開した論文によると、「異なる文化的な背景を持つ場合、重大な精神異常を患う人の間で聞こえる幻聴に異なる特徴があることを発見した」とのこと。

研究では60人の統合失調症患者にインタビューを行っており、被験者はアメリカ・カリフォルニア州のサンマテオ、ガーナのアクラ、インドのチェンナイから20人ずつ集められました。被験者に対しては、幻聴は「何人くらいが話しをしているように聞こえるか」「どれくらいの頻度で聞こえるか」「どのような声音か」という質問をしたそうです。

インタビューの回答をまとめた結果、異文化間の類似性が見つかります。この類似性というのは、ガーナ人であろうとアメリカ人であろうと、全ての人が良い声と悪い声の両方を聞いており、これらはなぜかささやき声のようなに静かに語りかけてくるものだったそうです。

By Lena

しかし、1つだけ大きな違いも見つかります。ラーマン氏によると「ほとんどのアフリカ人とインド人が主にポジティブな声を聞いたのに対し、アメリカ人のほとんどはネガティブな声を聞きました。もっと正確に言えば、アメリカ人の被験者は暴力的な体験や嫌悪すべき体験を報告しました」とのこと。つまり、アメリカ人は幻聴が暴力的なものと説明する傾向にあることがわかったわけです。

対して、インド人やアフリカ人は、自分の見る幻覚や幻聴が自分の友達や家族を思い出させてくれるようなものである、と説明しています。そして、幻聴の声音は楽しげなものである、と報告しています。あるガーナ人の被験者は「ほとんどの幻聴が良いものです」と語り、インド人の被験者は「私は話をする仲間を持っているので、誰かと話しをするために外出する必要がありません。自分自身と話すことができますからね」とコメントしており、幻聴ととてもうまく付き合っていることがわかります。

研究チームによると、独立志向や個人主義の強いアメリカ人は、幻聴を自分の心の中への侵入とみなしてしまうことがわかりました。それに対して、インドやアフリカの文化では人と人の関係や集団主義を重視する傾向にあります。よって、幻聴を自分の持つ社会ネットワークの中の新しいひとつと見なしがちだそうで、実際、被験者の中には「幻聴と非常に気が合う」と言い、自分が精神病であると自覚していない人もいたそうです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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