ホロコースト(大量虐殺)生存者のトラウマは子どもに遺伝する

By Dani Vázquez
第二次世界大戦時のホロコーストを生き延びた人たちを対象に行われた研究によって、大量虐殺を経験した親から生まれた子どもは後天的にPTSDの影響を受けることが明らかになりました。
Holocaust exposure induced intergenerational effects on FKBP5 methylation - Biological Psychiatry
http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(15)00652-6/abstract

マウントサイナイ医科大学PTSD(心的外傷後ストレス障害)研究部門のレイチェル・イェフダ博士は、ナチス・ドイツの強制収容所に抑留された経験のある人・拷問の経験がある人・第二次世界大戦中に身を隠す立場にいた人など、ホロコーストを生き延びた32人のユダヤ人の男女を集めて、遺伝学研究を実施しました。研究では生存者の子ども世代への遺伝的影響を証明するため、イェフダ博士は戦時中にヨーロッパ外部にいたユダヤ人の家族との比較を行いました。
博士は喫煙・ダイエット・ストレスのような外的要因が子どもの遺伝子に影響するのではないかと考え、「エピジェネティクスの変化(後成的変化)」に注目しました。
以前に、イェフダ博士のチームはホロコーストの生存者のストレスホルモンの循環レベルが変化していることを証明しています。生存者はトラウマから回復するために分泌されるホルモンの一種である「コルチゾール」が標準的な成人より少なく、ホロコーストでPTSDになった人はさらにコルチゾールのレベルが低い傾向にあったとのこと。なぜ生存者のコルチゾール分泌量が少ないのかは解明されていませんが、生存者はコルチゾールを分解する酵素の分泌レベルも低いことがわかりました。酵素の活動量の減少により、肝臓と腎臓にグルコースや代謝燃料を最大限に蓄積できるようになり、コルチゾールの活動が活発化するため、長期的な餓えや脅威に適応した結果と考えられています。

By Christos Tsoumplekas
今回の研究では、PTSDを持つ生存者の子どもは、母親と同様にコルチゾールのレベルが低いことがわかりましたが、両親とは異なり、コルチゾールを分解する酵素は同世代の標準よりも高いレベルにあったとのこと。コルチゾールを分解する酵素は、通常妊娠時には胎盤に高レベルで存在しますが、酵素分泌量が少ない母親の胎盤はコルチゾールを多く胎児に通してしまうため、コルチゾールから自身を保護するために胎児の酵素量が多くなったと考えられます。これは親の受けた外的要因が子どもに遺伝していることを意味しています。
しかし、後成的変化は親と同じ環境で子孫を残すために働くため、ホロコーストの生存者のケースでは逆効果になっている可能性がある、とイェフダ博士は説明しています。病気や飢餓から生存するためのストレスホルモンの状態を遺伝した子どもたちは、現代においてはPTSDによる影響を受けやすい可能性があることが示唆されていますが、子どもたちが遺伝の影響を永久的に受けるかどうかは不明。今回の研究結果により、前世代の経験が次の世代の遺伝子を微調整できるようになる第一歩にもなり得るかもしれません。
・関連記事
後天的な「恐怖体験」が、実は子孫に遺伝していくことが判明 - GIGAZINE
幼少期のトラウマは大人になってからも健康や財産面に悪影響を与え続けることが明らかに - GIGAZINE
アウシュビッツ強制収容所に行って分かったこと、分からなかったこと - GIGAZINE
【訃報】ホロコーストを生き延びた70年代ホラー映画の女王イングリッド・ピット、心疾患で死去 - GIGAZINE
人里離れた自然保護区でナチス・ドイツのアジトが発見される - GIGAZINE
伊藤計劃のSF小説「虐殺器官」「ハーモニー」の劇場アニメ化が決定 - GIGAZINE
殺人者の心理がわかるゲーム「DayZ」が発売後1カ月で100万DLを突破した理由とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, Posted by darkhorse_log
You can read the machine translated English article The trauma of Holocaust survivors is inh….