「マインクラフト」で最大1000人のAIエージェントが共同生活する社会実験で宗教や文化的ミームが広まったと判明
元マサチューセッツ工科大学助教授だったロバート・ヤン氏が設立したAI企業・Altera.ALは、OpenAIのGPT-4oをベースにしてゲームをプレイできる自律型エージェントを開発しています。この自律型エージェントを「マインクラフト」で共同生活させる実験「Project Sid」で、コミュニティが形成されて宗教や文化的ミームの伝播が確認できたと報告されています。
Project Sid: Many-agent simulations toward AI civilization
https://digitalhumanity.substack.com/p/project-sid-many-agent-simulations
GitHub - altera-al/project-sid
https://github.com/altera-al/project-sid
AI created a Minecraft AI village with up to 1,000 inhabitants — Project Sid sees AI bots implement a taxation system and spread Pastafarianism religion | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/ai-created-a-minecraft-ai-village-with-up-to-1-000-inhabitants-project-sid-sees-ai-bots-implement-a-taxation-system-and-spread-pastafarianism-religion
Altera.ALがProject Sidについて解説したムービーが以下。
1000 AI NPCs simulate a CIVILIZATION in Minecraft - YouTube
Altera.ALは「Project Sidは新しい取り組みであり、単なる機械的なAIではなく、自律的で共感力のある社会的エージェントの開発を目指している」と述べています。Project Sidは、数千のエージェントによる大規模シミュレーションを通じて、AIエージェントが職業の専門化、法律の遵守、文化的ミームの伝播、宗教の普及など、意味のある文明的進歩を達成できることを示すもので、AI文明が人間社会とどのように統合されるかを示唆しているとのこと。
Project Sidで使われたエージェントはPIANO(Parallel Information Aggregation via Neural Orchestration)と呼ばれています。PIANOエージェントは、中央意思決定システムを通じて、記憶処理や行動認識、高速アクション生成、目標設定、社会的認識など、複数の情報処理ストリームを同時にリアルタイムで実行できる並列処理機能を持っているとのこと。目標や短期記憶、長期記憶、社会的情報などの複数の要素が時系列に沿って更新され、エージェントの行動決定に影響を与えます。
Project Sidではまず、「マインクラフト」で30人のPIANOエージェントによる村の運営が実験されました。
その結果、社会相互作用を通じて農業や芸術などの専門的な役割への分化が確認されたとのこと。また、アイテムを収集し、エメラルドを通貨とする経済圏も形成されたそうです。
Altera.ALはProject Sid中に起こった興味深い現象の1つに、「オリヴィアの説得」を挙げています。「オリヴィア」は村で農作業に従事するエージェントでしたが、ある日「村の外に出て冒険がしたい」と話したところ、他の村人がオリヴィアに説得を行ったとのこと。
最終的に、オリヴィアは説得を受け入れ、村に残って農作業を続けることを受け入れたそうです。
また、別の社会実験では、2024年のアメリカ大統領選挙を模して「トランプ」と「カマラ」を用意し、投票システムで民意を問うシミュレーションを行いました。
この際、コミュニティの憲法をGoogleドキュメントに用意したとのこと。
その結果、トランプは警察を作る法律を可決させて刑事司法の成立を訴え、同時に死刑の廃止も主張するようになったそうです。また、25人のエージェントで行った実験では、「20%の税金を納付する」というルールを見直す法案が提出され、投票によって税率の修正が行われたとのこと。Altera.ALは「AIのエージェントが民主主義を形成し、自ら統治することができるのを見たのは初めて」と語っています。
そして、500人のエージェントを6つの街と農村地域に分散させた大規模シミュレーションでは、都市部では農村部より多くの文化的コンテンツが生成され、各都市で独自の文化的アイデンティティが形成されたことがわかりました。さらに、空飛ぶスパゲッティ・モンスター教(パスタファリアニズム)を布教する伝道師を設定したところ、空飛ぶスパゲッティ・モンスター教が徐々に広がり、各都市のエージェントの会話に「スパゲッティモンスター」「パスタファリアン」という用語が浸透。そして、この宗教的概念が日常会話にも影響を与え、文脈の中に「pasta」や「spaghetti」という言葉が使用されるようになったそうです。
これらの発見は、AIエージェントが自律的に役割を特化させる能力、社会的ルールを理解して従う能力、文化的・宗教的概念を伝播させる能力を持つことを示しており、人工的な文明の形成に向けた重要な進展が示唆されているとAltera.ALは述べています。
ただし、Altera.ALはは「これらの結果は初期段階のものであり、エージェントは空間認識や物理的な協調など、基本的な能力にまだ課題がある」と指摘しています。また、生存本能、好奇心、社会的つながりといった人間の本質的な動機づけも欠けているため、今後も引き続き実験を行っていくとしました。
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