デザイン

ファストファッションの裏側にある知られざる世界

by rachel a. k.

短いサイクルで衣服を大量生産・大量消費する形態はファストフードになぞらえて「ファストファッション」と呼ばれ、日本でも2009年の新語・流行語大賞のトップテンに選ばれました。急激に加速したファストファッションは今や2週間サイクルとも言われていますが、そもそも何故こんなにもファストファストファッションが台頭したのか、その本当の理由に人類学者のChristina Moonさんが迫っています。

The Secret World of Fast Fashion - Pacific Standard: The Science of Society
http://www.psmag.com/navigation/business-economics/secret-world-slow-road-korea-los-angeles-behind-fast-fashion-73956



◆1.ファストファッションとは
これまで流行のファッションは都会に住む裕福でスレンダーな人々のものでしたが、近年ではトレンドを押さえた衣服の価格が劇的に安くなり、あらゆる人々が購入できるようになりました。パリのファッションショーで発表されたブラウスはあっという間に盗用され、幅広いサイズに直されてアメリカの各都市で販売されます。3カ月サイクルと言われていたファストファッションさえも過去の物で、最近ではトレンドが2週間しか持ちません。

「ファスト・ファッション」という言葉がメディアに登場した時、大きな注目を浴びましたが、この言葉がどれほど大きな変化をもたらしたかについての十分な説明はなされませんでした。そもそも、なぜこのような変化が生じたのでしょうか。


この疑問に対しては、ファッションブランド「ZARA」の親会社インディテックスに見られるように、製造プロセスに革命が起こり、巨大な企業によるトップダウン方式が生まれたという見方や、ソーシャルメディアの流動性に合わせて複雑な製造システムの速度が上がったという意見が上がっています。

しかし、それでもまだ疑問は残ります。アメリカ国内で誰が衣服をデザインして製造しているのか、ファストファッションのデザイン・物流・製造を統一し、大量の衣服をあっという間に製造するメーカーはどれほど存在するのか、などの点です。

ファストファッションで有名なチェーンにフォーエバー21があります。世界中に630もの店舗を持ち、従業員は3万5000人以上、2012年の収益は37億ドル(約3800億円)以上の会社です。人類学者のChristina MoonさんがロサンゼルスにあるTtokamsa Home Mission Churchというフォーエバー21を設立した韓国系アメリカ人ドン・チャンが通う教会を訪れたところ、あることに気づきます。教会には韓国系のファストファッション従事者が集まっており、フォーエバー21とパートナーシップを結ぶ多くがファストファッションで生計を立てる韓国人家族なのです。


ロサンゼルスに住むファストファッションに従事する韓国系の人々は服をデザインし、中国やベトナムで衣服を製造する労働者たちをとりまとめ、フォーエバー21やUrban Outfittersなど、アメリカにある有名な小売店に衣服を卸します。

ニューヨークにあるパーソンズ美術大学で講師をしていたMoonさんは、パーソンズにおける南カリフォルニア出身の韓国移民2世が急増していることに気づき、ロサンゼルスの衣類セクターに興味を持ちました。これらの学生はニューヨークでファッション市場やデザインについて学び、ロサンゼルスに戻ってから親のビジネスを手伝います。企業の革新がファストファッションの重要な要素として語られますが、実際のところファストファッションの原動力になっているのは彼らの存在だという可能性に思い至ったのです。


◆2.フォーエバー21の始まりの地と、ファストファッションが台頭するまで
アメリカのファストファッションの中枢は、Jobber Marketと呼ばれるロサンゼルスのダウンタウン近くにある区域です。Jobberと呼ばれるこのマーケットはもともとユダヤ系とイラン系の行商人が作った場所で、卸売業者や問屋が大衆向けの衣服を販売していました。当時のファッション区域では流行遅れの衣服などを販売していたのですが、今日では韓国系とメキシコ系の人々が働き、有名企業に向けてデザイン・製造を行う新たなビジネスの場所となっています。

マーケットではガラス張りのショーウィンドウの中にアジアから着いたばかりの衣服を着たマネキンがディスプレイされた1・2階建てのビルが道を挟んで並び、通りは買い物客や配達人で賑わっています。韓国人の夫婦がその子どもと一緒に一貫したスタイルのショールームを作り上げ、メキシコ人夫婦たちが販売員や荷造り要員として働いているのですが、彼らはみんな今後アメリカ全土に広がっていくであろう最新のファッションに身を包んでいるのです。


公式にはJobber Marketに登録されている韓国系アパレル事業は3000ほどですが、周囲の住民によると6000ほどのメーカーがひしめき合っているとのことで、マーケットの実際の大きさを測るのは非常に難しいようです。事業の規模は個人経営のものから数百万ドル(数億円)規模のものまでさまざま。マーケットでは常に誰が秘密の巨大倉庫を持っているのかだとか、誰が小さいながら派手なショールームを持っているのかだとかのウワサが飛び交っています。

このマーケットは最近作られたのではなく、移民たちが50年もの年月をかけて作りあげたものが近年になって巨大市場へと変化したもの。

韓国で産業化が起こりアメリカなどの海外市場に向けて衣服を作るようになったのは1960年代から1970年代にかけてのできごと。当時、街でも田舎でも多くの人が工場で働いていましたが、まだ人々の生活は貧しく、圧倒的な軍事政権であったため、たくさんの人が海外に移住しました。彼らの向かう先のほとんどがアメリカと、ブラジル・アルゼンチンといった南米でした。

言葉とお金の関係で、海外に渡った韓国人の多くは母国と織物を取引するか衣服を製造・販売する職業につきました。韓国系移民の衣類マーケットはサンパウロ・ブエノスアイレス・広州・ロサンゼルス・ニューヨークなどで大きな役割を果たしており、ブラジルからロサンゼルスにやってきた韓国系ファッション起業家のMike Leeさんは「私たちはみんな、大学を卒業すると衣類関係の仕事に就きます。それが容易にビジネスについて学び情報を集めることができる唯一の手段だからです。サンパウロで衣服を売っているのはみんな韓国系ですから」と語りました。


1980年代から1990年年代になるにつれて、アルゼンチンやブラジルに移住していた人々も通貨危機やインフラ・子どもたちへの教育を理由にロサンゼルスに移り出します。この子どもたちこそが、アメリカのファストファッションを動かしだすのです。

1990年代にロサンゼルスの衣類マーケットにお店を建てた移民たちは、数十年の産業経験から質に合わせたパターンの作り方を理解しており、ブラジル・中国・ベトナムなどで働く韓国系衣服関係者の人々との繋がりを持っていました。彼らに欠如してたのはアメリカ文化に通じることや、美しいデザインを作るための感覚、そしてアメリカの小売業者との繋がる能力でした。2000年代に入ると、さまざまな理由で多くの衣服ビジネスが失敗していきます。韓国系の人々が持つ縫製工場や裁断スタジオ、取るに足らないメーカーは大きな波にのまれつぶれていき、産業のあり方が変化したのです。

お店がいくつものシーズンに渡って販売できるベーシックなデザインのオーダーを企業から受ける日々は終わり、大手の小売業者はより複雑なディテールの衣服を自社でデザインすることなく外注するようになります。「以前は頭と袖の穴がついているだけでどんな柄のプリントでも「シャツ」として売れたが、今の服は『デザイン』されている」とはJobber Market用のデザイナーであるSo Yunさんの言葉。流行のファッション感覚を持ち合わせたビジネスだけが生き残る場所で、韓国系の人々の流入はさらに増えてき、競争は殺人的な勢いになりました。


2000年代に韓国系移民の子どもたちは成長し、ビジネス・マーケティング・デザインなどを学ぶために大学に通い出します。彼らはパリやロンドン・ミラノ・ロサンゼルス・ニューヨークなど、世界中の学校に飛び出しました。そしてロサンゼルスに戻ってきた子どもたちは、親のビジネスのブランド再構築から、ロゴマークの刷新・アメリカのバイヤーにアピールするためのショールームの建設・クリーンなウェブサイトの設立など、多方向に手を加え始めました。彼らのネイティブな語学スキルやアメリカナイズドされた文化的アイデンティティのおかげで、小売業者やデパートとの取引が可能になり、古くさいマーケットが最新ファッションを扱う場所になったのです。

そしてデザイン・製造・物流・卸売り・マーケティングなど、韓国系の人々が行うファッションビジネスのもと、アパレルサイクルのほぼ全てが変化します。信頼を獲得したそれぞれのファミリービジネスは国際的な製造プロセスの効率性を上げ、若い韓国系移民たちの間で競争が起こることで創造性も爆発的に上がりました。


フォーエバー21も1984年にはロサンゼルスを所在地とする1件のお店だったのですが、2001年までに店舗を50にまで増やし、その後も最新のトレンドを捉えた新しいデザインをほぼ毎日提供しているとして支持者を増やしていきました。フォーエバー21が成功した秘密である、コンスタントに入れ替わるスタイルのサイクルは、Jobber Marketから生まれたものだったのです。

◆3.ファストファッションで生計を立てるということ
ファッションに3カ月のサイクルを見ている一般的な小売業者に対して、フォーエバー21は毎日バイキングをするようにJobber Marketからデザインを選び、その日のうちに衣服は出荷されます。もし売り手の価格に納得がいかなければ隣のお店を見ればいいのです。そこでは同じような服がより安く売られています。

現在フォーエバー21は国際展開に対応して海外に倉庫を持っていますが、依然として韓国系のマーケットにもいくつか倉庫を保有しています。またフォーエバー21はJobber Marketや海外にある似たようなマーケットに人を送って何が流行であるかをチェックしているとのこと。実際にマーケットで衣服を購入することもあるそうです。


ファストファッションを語る上で重要なのは、それが韓国系のファッションビジネスにおける世代間の分裂から起こったものではなく、産業における新しい流通からも生まれたものであるということ、つまり製造サイクルの最下部に位置していた韓国系・メキシコ系家族が製造の重要な役割を果たしたことです。

しかしファストファッションの供給者であるロサンゼルスのJobber Marketに対する消費者の要求は予測不能であり、マーケットは非常に気まぐれです。卸売り業者は小売業者の提示する価格に生活を左右されており、家族たちは投資を行い、売れるかどうか分からないものを製造しなければならず、「まるでカジノでギャンブルをしているようだ」と仕事について語ります。

一方で、品質が保証されたファストファッション時代のロサンゼルスにある衣類区域は、YouTubeの「ハウルビデオ」にも登場します。ハウルビデオとは買い物を行った若い女性がカメラの前で開封の儀を行い、購入した物を見せるというジャンル。有名なホストが「フォーエバー21でデニムが6ドル(約600円)だから買っちゃった」と言ってカメラの前でジーンズを見せるわけですが、これは安い商品の浸透と手軽な満足・スタイリッシュな使い捨て商品という、ファッション消費の新たなダイナミクスを例示するものとして捉えられています。

以下の写真に写っているのはファストファッションで生計を立てる家族を持つ十代の少女、Alice Moonさん。彼女の部屋はハウルビデオに出てくる少女たちの部屋と似たような感じで、服やファッションモデルの切り抜きで壁を装飾し、泡のような文字で書いた「fashion」という言葉を壁に吊しています。H&MやZara・フォーエバー21で購入したカバンと服があちこちにかけられ、中には未使用のものも見られます。


AliceさんはTtokamsa churchの教区民で、家族はJobber Marketでビジネスを行っています。子どもの頃からファッションビジネスが身近にあったAliceさんは高校を卒業後、パーソンでファッションデザインについて学びたいと語っています。

Aliceさんの母親は家族内でデザイナーの役割を果たしており、母親に同行する形でAliceさんもパリス・ミラノ・ロンドンを旅して生地を見たり取引を見たりしてきているとのこと。このようなファッション・リサーチのための旅行で、国際的な流行に遅れを取らないようにしているそうです。いずれAliceさんも家族のビジネスの一端を担うようになります。

Moonさんによると、髪をポニーテールにまとめて合皮のショートパンツと野球のイラストの描かれたTシャツを着たAliceさんは、努力をしなくてもファッショナブルであるように見えたとのこと。これらの衣装は広大なインターネットの中で、どこかのハウルビデオに登場したはずですが、間違いなくAliceさん家族が作ったものなのです。

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in デザイン, Posted by darkhorse_log

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