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Amazonの特許として「スタジオ撮影での常識」が認められてしまった理由とは?

By ceasol

Amazonの関連会社であるAmazon Technologies, Inc.は写真撮影の技術を「発明した」として2011年に特許を出願し、2014年3月に特許権を取得しました。しかし、特許を取得した撮影方法は以前から広く使われているもので、カメラ撮影に関わる多くの人々が激怒したり、ニュースメディアのArs Technicaが「Amazonの特許はピーナッツバターサンドの特許を取得するようなものだ」と痛烈に批判したりと散々な状況。そんな中、Amazonの特許を痛烈に批判したArs Technicaが、なぜこのようなスタンダードな撮影方法が特許を取得できてしまったか、を明かしています。

How Amazon got a patent on white-background photography | Ars Technica
http://arstechnica.com/tech-policy/2014/06/how-amazon-got-a-patent-on-white-background-photography/


Amazonが特許を取得したという「写真撮影の手法」は以下の記事で詳しく知ることができます。

Amazonが写真撮影の手法を「発明」したとして特許を取得したことが判明 - GIGAZINE


Amazonが取得した特許についてはインターネット上で大いに話題になっており、「特許審査官は寝てたんだ」だとか「特許庁は全ての特許出願を通すただの形式的な組織にすぎないんだ」と言われる始末。

しかし、ワシントンDCに拠点を置くデジタル市場での知的財産権やインターネットのオープン標準などに関わる団体パブリック・ナレッジにて特許関連の問題に取り組む特許弁理士のCharles Duan氏は、「これまで多くの特許出願が拒絶されてきたのを見たし、審査官がとんでもなく素晴らしい特許を認定させてきたのも見てきた。なので、これは審査官ではなく、特許審査を管理する法律にあるのでは」と考えたそうです。

そこでDuan氏は、特許庁が公開している「特許審査官による監査証跡」と「審査官と特許弁理士とのやり取りの内容」から、なぜAmazonの出願した特許が認定されるに至ったのかを調べ、特許が出願され認定されるまでの流れを再現しています。話自体は作り話ですが、法律と事実背景は正確、とのこと。

By See-ming Lee

企業が特許を出願する際、特許の概要を記した特許出願テキストを作成します。企業はこのテキストの作成を特許弁理士に委託したりするわけですが、企業や発明者から特許の詳細をヒアリングするためにミーティングを重ねることもあります。

そのミーティングの席でAmazonのエンジニアは「我々は自サイトの製品をきれいに撮影するための方法として、この面白い撮影方法をひらめいたんです。基本的に製品の写真を撮影する場合、どうしても影や背景に色がついてしまい、写真を画像編集ソフトで加工する必要が出てきて、この作業はとても面倒なんです。しかし、我々の生み出した撮影方法ならば製品の背景が真っ白になるんです」と撮影方法について熱弁し、数枚のスケッチを取り出し、特許弁理士に「我々はこの方法を特許にできますか?」と言いました。


弁理士が「それは向こうの対応にも左右されるものです。あなたは似たような方法が既に特許になってるかどうか知らないでしょ?」と聞くと、エンジニアは「もちろん他の人も似たような撮影方法を使ったことがあるはずです。しかし、我々が知る限りでは、そのどれもが撮影後に多少の修正を施す必要がありました。我々が発案したこの方法ならば少しの修正も必要ありません」と語ります。

そして、先行特許があるならばそれを探すのが特許審査官の仕事、ということで実際に特許出願してみることになったようです。

By Paul Martinez

特許出願テキストを作成する特許弁理士は草案に目を通しながら、特許クレームを見ます。特許クレームとは特許が法律上作用する範囲のことで、クレームには「要素」と「制限」が含まれます。最初の草案の段階ではクレームには撮影時の「背景」や「光源」、「被写体」などの要素が含まれていました。特許を侵害されたと主張するには、要素が含まれていることを証明する必要があります。そして、特許を出願した際には特許審査官が先行特許を調査し、クレームの要素まで調べることになるようで、これも特許の重要な一部であることが分かります。

Amazonの取得した特許「Studio arrangement(スタジオ内での配置)」の1番の肝は「オブジェクトが立っていることで、背景が真っ白になり修正の必要がなくなる点」とAmazonのエンジニアは説明しました。草案を踏まえ、特許弁理士は新しく以下のようなクレームを追加します。

「スタジオ配置の取り決めでは、背景から台までの距離は被写体を置く台の高さの4.5~5.5倍の距離」


こうして提出された特許出願テキストに目を通していた特許審査官は、昔似たようなものを見たことがある、と思ったそうです。いくつかのキーワードで先行特許を調べ、古い特許を拾い読みしたあと、ある特許を思い出します。この古い特許と新しく出願されてきたAmazonのものとを見比べると、図形がとても似ていることに気づきます。そして2つの出願のクレームや要素を細かく見比べていったそうです。

そして、Amazonの特許には背景と被写体を置く台までの「正確な距離の比率」が記されていることに気づきます。通常、特許出願にこういった細かい数値を明記すれば請求範囲が狭まるので記したりはしない、とのこと。

左が古い特許、右がAmazonの特許の技術イメージ図。


出願テキストには「4.5~5.5」という数値に関する詳細は記載されていなかったので、審査官はなぜこの数値が都合の良いものなのか分からなかったそうです。しかし、特許は認定されました。それは、Amazonの「スタジオ内での配置」という特許が優れたものではないものの、これまでに認定されてきた特許とは「明確な数値が記載されている」という点で明らかに異なり、特許を与えるには十分な違いだった、ということのようです。

この特許が認定された理由の大部分を担うのは、アメリカの連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の定めた「明確さに関する法律」です。CAFCはアメリカ国内における控訴裁判所のひとつで特許に関する事件を管轄とする裁判所です。人間の場合これまでの経験に基づいて背景と被写体の距離などを設定するかもしれませんが、このCAFCは文章上にそういった細かい数値などが明確に記されていることを要求する、とのこと。

この様な理由から、Amazonの特許にとって距離比率は重要な要素ではないかもしれませんが、特許が認定されるためには大きな要素であったことが推測できます。

ただし、Amazonの「スタジオ内での配置」特許は距離比率のクレームを盛り込んだにも関わらず認定されなかったとのことで、特許弁理士はさらに光源の数と光源の前に置く遮光板の数をクレームに盛り込むことにしたそうです。

By Connecticut State Library

Duan氏は、「恐らく特許弁理士は特許が通りやすくするために距離や光源の数という要素を故意に追加し、特許審査官は法的な根拠ではなく、特許庁全体の『特許を支持する』というポリシーに従って特許を承認しただろう」とコメントしています。

さらに、「特許審査官による審査は漫画で描かれるような何でもかんでも認定するようないい加減なものではないものの、世間が望まないような特許でも認定しなくてはいけないような法律制度の中で審査官が働いていることが問題なのです」と記述。そして、Amazonの特許が認定されたように、普通のアイデアやよく知られたアイデアの特許を取得することも可能、と記しています。

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in メモ, Posted by logu_ii

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