「Twitch」はどのようにして数年で巨大ゲーム実況プラットフォームになったか
By Ross Heale-Whittle
何千人ものプレイヤーがコマンドを入力することであちこちに動いてしまう同時プレイ可能なポケモンなどユニークな取り組みを行ったり、Playstation 4やXbox Oneでもゲーム実況を配信したりできる「Twitch」は、2011年にスタートしたゲームのライブストリーミングプラットフォームです。そんなTwitchが、数年で巨大なメディア産業へと進歩してきたストーリーが明らかになっています。
Twitch: when watching beats playing | Polygon
http://www.polygon.com/features/2014/3/17/5491040/twitch-when-watching-beats-playing
「ゲームのライブストリーミング」は根っからのゲームファンだけが見ているニッチな産業であるかのように見えているかもしれませんが、Twitchでストリーミング放送されている中継の数は1ヶ月平均で600万本以上あり、Twitchユーザーの1月あたりの視聴時間を合計すると120億分(2億時間)以上に相当します。2013年末の調査では4500万人以上が毎月Twitchにアクセスしていることがわかっています。ウォール・ストリート・ジャーナルが公表したアメリカのインターネットトラフィック・ランキングで、TwitchはFacebook・Hulu・Amazonを抜いて4位にランクイン。上位3社はNetflix・Google・Appleという大手企業であり、世界に名だたる企業と肩を並べるほどのところに来ているということが分かります。
最新鋭の据置型ゲーム機であるPlayStation 4とXbox Oneにはゲームをライブストリーミング配信する機能が搭載されていますが、Twitchはそのプラットフォームに採用されています。Hit Detectionのジョージ・ジョーンズ氏はTwitchのことを「ゲーム業界のESPN」と表現、「ESPNがスポーツの試合を放送することでファンは選手やチームの詳細を知ることができ、スポーツのリーグ全体が活気づきます。Twitchはゲーム業界で同じことをしているのです」と話しています。
テレビで野球やアイススケートを熱烈に視聴するファンが多い理由は、プレイする選手たちが練習を重ねたプロフェッショナルの技を見せてくれるからです。「多くの人が『他人のゲームプレイはくだらないもの』と考えていますが、いったんじっくりと熟練のプロ・ゲーマーのプレイを見てみれば、スポーツ観戦と同様に『おお!こりゃすげえ!』と思ってしまうはずです。ゲームは優れたエンターテインメントです!」と語ったのはGames for Windowsの元編集長ジェフ・グリーン氏。
Twitchのオフィスは、サンフランシスコの金融街で半ブロックの面積を占めているブッシュストリートビルの1フロアをまるごと借りており、入り口には「Twitch」と表示されたディスプレイが置かれています。
オフィスの中は、右側にビデオ・ストリーミングを見ながらコード入力を行う20席ほどの机の列があり、左側は会議室となっています。
ゲーム「BioShock」にインスパイアされて作られたという「Raptureルーム」にはハリボテの暖炉と革張りのアームチェアが置かれています。他にも「Fallout 3」にインスパイアされたという「Megatonルーム」なる部屋も存在するとのこと。従業員は100人ほどでストリーミングがスムーズに行われるように全力を尽くしています。
◆Justin.tv
Twitchの母体であるJustin.tvはジャスティン・カン氏、エメット・シェアー氏、マイケル・ザイベル氏、カイル・フォークト氏の4人から始まりました。仲間たちでビジネスに関するアイデアを話し合い、「会話や雑談をオンラインで放送してはどうか?」という意見が出ました。シェアー氏は、「その時の会話をオンラインで共有しても興味深い」と感じていたそうです。カン氏はそのアイデアの極端なバージョンとして、帽子にウェブカメラを取り付け、散歩に出かけて何かを食べる・本を読む・映画を見る・デートに行く・メールを送る・トイレの時はカメラを上に向ける……と眠る時を除いた1日中の行動全てを、9か月間にわたって撮影するというテストを開始しました。
ウェブカメラは常にバックパックの中のノートPCに接続し、インターネット接続のために4枚のEV-DOカードを取り付け、常にPCバッテリーを4本持ち歩いていたとのこと。撮影を開始してからの9か月間、世界中の誰でもカン氏の世界を見ることができました。このテストがのちにJustin.tvとなるものの始まりとなっています。
しばらくして、カン氏の私生活を世界中に放送してもビジネスにはなり得ないことが判明しましたが、システム開発を担当していたシェアー氏とフォークト氏は、ウェブカメラがあれば誰でもインターネット上にビデオを放送できるツールを開発。当時人気を集め始めていたYouTubeにもない「ライブストリーミング機能」を備えたプラットフォームとして、2007年に「Justin.tv」がスタートしました。
開始当初は「ゲーム実況」を想定していなかったものの、多くのユーザーたちが自らのプレイ動画を実況し始めます。Justin.tv開始から2年たったころ、ゲーム実況には多くの視聴者がつくほどの成長を見せていたことから、小さなカテゴリだった「ゲーミング」の方向性を見つめ直し、2011年6月にゲーム実況に焦点を当てたライブストリーミングサービスとして「Twitch.tv(Twitch)」が始動しました。
◆ブロードキャスター
Twitchでは実況中継を行う人のことを「ブロードキャスター」と呼んでいます。Twitchで最も有名なブロードキャスターの1人「MAN」として知られているジェイソン・ラブさん(34歳)は、実況チャンネル「MANvsGAME」を放送しています。4年前までラブさんは小売業であくせく働いていましたが、今ではフルタイムでライブストリーミングを行い、彼が以前に就いたことのあるどんな職業よりもお金を稼いでいます。毎晩8時間ゲームプレイを放送し、平均して4000人の視聴者がいます。
ビル・ムンケルさん(58歳)とジェイソン・ムンケルさん(18歳)は、ペアのブロードキャスターとして有名な2人組。彼らはなんと親子で「FatherSonGaming」というチャンネルを放送しており、フォロワーは13万人、平均視聴者数は2000~3000人だとのこと。毎晩2人が放送しているのは「Call of Duty」のプレイで、もともと息子のジェイソンさんがYouTubeでゲーム動画のコメンテーターをしており、「生涯のゲーマー」と自負していた父親に「親子でCall of Dutyをプレイする」というアイデアを持ちかけたことからTwitchでの活動が始まったとのこと。
◆「共有」するという欲望
アーケードゲームが主流だったころでも、コインを使い果たしたプレイヤーは周りのスゴ腕プレイヤーのゲームプレイを見て楽しむことができました。「1990年代には『コンボ・ビデオ』と呼ばれる、鉄拳やストリートファイターなどの人気格闘ゲームのスーパーコンボを収めたVHSが流行していました」、と語るのは格闘ゲーム世界大会EVOの創設者トム・キャノン氏。ほとんどのコンボ・ビデオは日本で生まれていたため、優れたプレイを見るためには、日本を訪れたゲーマーがコンボ・ビデオを購入してはアメリカでコピーを作成して海外で広めるという、手間のかかる手段しかなかったとのこと。Twitchでは、「テープやDVDにプレイを録画する」というステップすら省略して、世界中にプレイ動画を放送し、視聴することができるというわけです。
◆成功への焦点
Twitchが数年で大成功を見せたことについて「いくつかの企業はゲームに数時間を費やしているかもしれませんが、Twitchは全ての時間をゲームに使うことができます。Twitchは100%のエネルギーをゲーム実況サービスだけに費やしています」とシェアー氏は語ります。この焦点の当て方によって、Eスポーツとの差別化を可能にするツールやオプションが生まれているとのこと。
例えば、League of LegendsやDotaといったマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)のゲーム実況では、どのアイテムを購入するかが戦局を大きく握るため、「6分間は誰もストリーミングを見ることができない」という機能があります。トーナメントを行うゲームの勝敗においてこの機能は重要であるとのこと。他にも、任意の数値を選択して実況にディレイを生じさせるサーバーを構築したことで、潜在的な大量のシェアを獲得することに成功しています。
また、Twitchで実況を行う一般のブロードキャスターたちは広告によって収益をあげていますが、ポップアップ広告がゲームの重要な局面を中断させることのないように、ユーザーが好きなタイミングで広告を表示するか選択できるといった機能も備えています。このような、本当にゲーム好きだからこそ思いつくようなオプションやツールを生み出しているTwitchの姿勢は、多くのゲーマーに受け入れられています。
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