アルゼンチン・ブエノスアイレスに通貨の「ブラックマーケット」が存在する理由とは
海外に行く際にはまず間違いなく外貨両替所でお金を交換しますが、その交換レートが場所によって驚くほど異なっていることもよくあります。アルゼンチンのブエノスアイレス市内には、かなりの大規模で違法な外貨両替を行うエリアがあり、アルゼンチンの国民が多く集まって自国通貨であるペソをドルに交換しています。
The How and Why of Argentina's Currency Black Market
https://flightfox.com/tradecraft/argentina-black-market
スペイン語で「良い風」、すなわち船乗りが欲する「順風」が語源となったアルゼンチンの首都・ブエノスアイレスの一角にあるフロリダ通りには、「cuevas(洞窟)」と呼ばれる通貨のブラックマーケット街が存在しています。
2013年10月30日現在、米ドルからアルゼンチンペソへの交換レートは約5.9となっており、1ドルから約5.9ペソに交換することができます。逆に100ペソを銀行に持っていけば約17ドルを手にすることができるはずなのですが、アルゼンチンの人たちははるかにレートが悪いこのブラックマーケットにやってきて、100ペソを正規レートよりもはるかに少ない11ドルに換金してゆくのです。人々が悪いレートで換金せざるを得ないのには理由があるのですが、そこにはアルゼンチンが抱えた経済の問題が横たわっています。
◆経済危機
発端は2001年から2002年にかけて表面化したアルゼンチン危機と呼ばれる通貨危機でした。それから10年がたった今でも影響は残り続けており、当時の大統領の妻でその後継として現大統領を務めているクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏による政権下でのデフォルト懸念も相まって、アルゼンチンペソの信用力は急速に下落しています。2002年の混乱の際に政府は銀行預金の引き出しに制限を設けましたが、資産保護のために預金を引き出す人が後を絶たず、これまでに160億ドル(約15兆7000億円)相当の預金が街に流れ出てしまいました。
By Bernardo Londoy
◆インフレ
アルゼンチン政府は昨年のインフレ率を約10%と発表していますが、これには数値操作の疑いがかけられています。民間や議員による複数の調査では約18%~約25%のインフレ率であることが発表されており、安倍首相が2%のインフレ目標を掲げた日本のインフレ率が0%のあたりをさまよっていることを考えると、最大で25%前後というアルゼンチンのインフレ率は異常なものといえます。
1年前には100ペソで買えたものが今では125ペソ出さないと買えないことになるため、国民はより自らの資産を守るために安定した通貨である「米ドル」への交換を希望するようになります。しかし、アルゼンチン政府は銀行での米ドルへの換金に厳しい制限を設ける施策をとったため、レートは悪くとも確実に換金できるブラックマーケットに人が集まるという事態になったのです。
◆ドル供給
それでは、取引に制限が設けられているはずの両替市場に対し、米ドルを供給するのは一体誰なのでしょうか。それは海外からやってくる「観光客」です。銀行やATMなどでは1米ドルから約6ペソに交換できるのに対し、ブラックマーケットでは約9.5ペソという非常に高レートで両替できるため、観光客はブラックマーケットにやってきて米ドルを「供給」することになるのです。
By Laura
それでは、この「違法両替所」での交換には問題はないのでしょうか?そこには3つの視点が存在しており、それぞれに正当な言い分があることも事態を複雑にする一端となっています。
・政府
ブラックマーケットでの両替により、政府の把握できない「地下マネー」が流通することになり、不正なマネーロンダリングや犯罪の資金へと転用される恐れがあります。また、銀行から通貨が流出し続けることは、政府が財政再建を行い体制を強固なものとするためのリソースが減り続けるということを意味します。
・アルゼンチン国民
違法な両替であっても、それはアルゼンチン国民が自分の資産を安定的なものにするための方法です。経済や通貨が不安定な状況下では、安全性の高い通貨を保有してリスク回避する権利は保証されるべきです。また、インフレが進行してペソの目減りが避けられない状況において、より安定した通貨で資産を守ることは重要なことです。
・観光客
米ドルを公定レートよりも率のいいブラックマーケットで両替することは、本来の価値基準でペソを入手するための方法であるといえます。事実、アルゼンチンはIMF(国際通貨基金)からインフレ政策について警告を受けた最初の国家という不名誉を受けています。政府のインフレ率が意図的に低く発表されている状況では、公定レートは正しいペソの価値を示しているとはいえません。
2011年、キルチネル大統領は法人と個人の両方に対して預金目的で米ドルを購入することを禁じる施策をとりましたが、結局この試みは失敗に終わっているといえます。アルゼンチンの実質インフレ率は非常に高く、これらの経済施策の失敗と相まってペソの信用度は完全に失われてしまいました。経済と政治の問題が解消されない限り、ブラックマーケットによる二重の為替相場がなくなることはなさそうです。
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