大企業が情報格差を利用して消費者を限界ギリギリまで搾取する「監視型価格設定」とは?何が問題なのか?

一般に商品価格は需要と供給のバランスによって決められると思われがちですが、さまざまなユーザーデータが収集可能になった現代では、企業が情報格差を利用して価格を設定する「Surveillance Pricing(監視型価格設定)」が増えています。ニューヨーク大学法学部の教育フェローを務めるパトリック・リン氏が、監視型価格設定とはどのようなものなのか、一体何が問題なのかについて解説しました。
Surveillance Pricing: Exploiting Information Asymmetries - LPE Project
https://lpeproject.org/blog/surveillance-pricing-exploiting-information-asymmetries/
1870年代以前のアメリカでは小売商品に固定価格が付けられていることはほとんどなく、大抵は客と店員が話し合って値引き交渉を行い、お互いの落とし所を探って最終的な取引価格が決められていました。ところが、フィラデルフィア万国博覧会に伴って開店した百貨店「Grand Depot」が値切り交渉をなくして固定価格を導入し、固定価格の概念が幅広く導入されるようになったとのこと。
しかし、それから150年が経過した現代では、再び固定価格制から「監視型価格設定」という名の変動価格制へ回帰する動きがみられるとリン氏は指摘しています。現代の大企業はユーザーの購入履歴や位置情報、その他の個人情報といったあらゆるデータを収集可能となりました。これを利用することで、同じ商品やサービスであってもユーザーの状況や需要に応じ、異なる価格を提示できるというわけです。
リン氏は監視型価格設定について、アメリカにおける「消費者搾取」の伝統に連なるものだと指摘しています。消費者搾取とは、「消費者が支払ってもいいと考える金額」と「実際に支払う金額」の差をギリギリまで縮めることで、消費者の余剰資金を可能な限り搾取するための手法を指します。
企業は2010年代からさまざまな価格設定スキームを試行錯誤しており、2011年にはチケット販売業者のTicketmasterが需要に応じてチケット価格を変える「ダイナミックプライシング」を導入。同年には配車サービスを展開するUberが、週末やイベント開催時に乗車料金を引き上げる「サージプライシング」を導入しました。また、ホテル予約サービスのOrbitzはMacユーザーにより高額のオファーを出していたほか、教育サービスを展開するPrinceton Reviewもアジア系が多い地域でより高い料金を請求していました。
リン氏は、「これらの価格戦略には共通の特徴がある。それは、情報格差を利用して消費者が最も制約を受け、身動きが取れない状況にある時につけ込むという点です。重要なのは、監視型価格設定の目的はパーソナライゼーションではなく、最大限の搾取にあるということです」と述べています。つまり、監視型価格設定はユーザーの満足度を高めるためのサービスではなく、あくまで企業の利益を最大化するための搾取だというわけです。

一部の政治家らはすでに監視型価格設定の問題を認識しており、2025年5月にはニューヨーク州が監視型価格設定を具体的に規制する「アルゴリズム価格設定開示法」を可決しました。この法律は、消費者の個人データに基づくアルゴリズムを使用して価格を設定する企業に対し、「この価格はお客様の個人データを使用したアルゴリズムによって設定されました」という表示を義務づけるものです。アルゴリズム価格設定開示法は個人データについて、「特定の消費者またはデバイスを直接的または間接的に識別する、あるいは合理的に関連付けることができるあらゆるデータ」と定義しています。
リン氏は、アルゴリズム価格設定開示法は正しい方向への第一歩であると認めつつ、価格設定の透明性を保つだけでは監視型価格設定の弊害を抑止することはできないと指摘。消費者は自分が見ている価格がアルゴリズムによって決定されたものだと理解できるものの、企業は依然として監視型価格設定を用い続けることができます。そのためリン氏は、監視型価格設定に対処するには透明性以上のものが必要だと主張しています。
グレゴリオ・カザール下院議員(民主党)やラシダ・タリーブ下院議員(民主党)らが2025年に提出した「 Stop AI Price Gouging and Wage Fixing Act(AIによる価格つり上げおよび賃金操作防止法)」は、企業が監視型価格設定を行うことを明確に禁止しており、州司法長官や一般市民が企業に対して民事訴状を起こすことができます。さらにルーベン・ギャレゴ上院議員(民主党)も、同様の内容を含む「One Fair Price Act(公正価格法案)」を提出しています。
連邦議会は分裂状態にあるため、これらの法案は残念ながら可決される可能性は低いそうですが、監視型価格設定の廃止を求める声は高まっているとリン氏は指摘しています。また、州議会では住宅費や食費の高騰といった住民の懸念に寄り添う議員が多いため、監視型価格設定を抑止する法案が通りやすい可能性があるとのこと。

企業側は監視型価格設定の抑止に抵抗しており、その際に持ち出されることが多いのがアメリカ合衆国憲法修正第1条です。最高裁判所は2011年、医師の処方履歴を医薬品業者に販売することを禁じたバーモント州法を巡るソレル対IMSヘルス訴訟で、「企業による情報の流れを制限することは、言論や表現の自由を保証する合衆国憲法修正第1条に違反する」と結論付けました。
最高裁判所はソレル対IMSヘルス訴訟において、バーモント州法は「特定の発言者(製薬会社の営業担当者やデータ業者)」および「特定のコンテンツ(医薬品マーケティング)」を標的にすることで、発言者とコンテンツに基づく制限を課していると判断しました。同様のデータを研究や教育などの目的で利用することを許可しつつ、マーケティング目的に利用することは許可しないというバーモント州法は、言論の自由を制限しているというわけです。
この判決についてリン氏は、裁判所は「プライバシー保護」と「表現規制」を混同していると指摘しています。仮に、医師の処方履歴といったデータの作成と流通自体が憲法修正第1条で保護される言論に当たるなら、「食品の成分表示」「証券報告書等の開示」「職場の安全および労働法に関する開示」など、ありとあらゆるデータに関する規制を飲み込んでしまうことになります。当然ながらそんなことはあり得ませんが、監視型価格設定に反対する企業はソレル対IMSヘルス訴訟を引用し、憲法修正第1条を拡大解釈しているとのこと。
ニューヨーク州のアルゴリズム価格設定開示法に対して全米小売業協会(NRF)が起こした訴訟でも、憲法修正第1条が理由とされました。幸いにもニューヨーク南部地区連邦地方裁判所はNRFの訴訟を棄却し、ニューヨーク州の法律はあくまで商業的開示を義務付けるものであり、商業的発言を規制しようと試みたバーモント州法とは異なると判断しました。リン氏は今回の事例を教訓として、監視型価格設定を抑止しようとする法案は特定の発言者やコンテンツを標的にするのではなく、経済活動や行為のみを規制するよう慎重に起草されるべきだと主張しています。

リン氏は、「監視型価格設定はデータプライバシーを巡る次の争点となります。この慣行は、可能な限り多くの消費者余剰を搾取することを最終目標として、積極的なデータ収集をさらに助長するものです。情報開示に関する法規制は正しい方向への第一歩ではありますが、それだけでは不十分です。州および連邦の法規制は個人データの売買、消費者のセグメンテーションと差別、商業的監視といった有害なデータ慣行の根本的な要因に対処すると同時に、ソレル判決が残した合衆国憲法修正第1条に関する地雷を回避しなければなりません」と述べました。
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in メモ, Posted by log1h_ik
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