完ぺきに安全な手段を求める前に確認しておきたい、現存する代替エネルギーの問題点いろいろ
福島第一原子力発電所の事故により、全世界的に原子力の利用に対する見方が大きく変化し、代替手段への注目度が高まっています。そんな状況をふまえ、米ニューズウィーク紙が原子力からバイオエタノールまで、各種エネルギー源の問題点を過去の事例などを持ち出して列挙しています。
原子力からイメージのよい代替手段へ移行していくことがエネルギー不足の解消の最良の手段に思えますが、現状利用可能なエネルギー源は、どれも何らかの問題を抱えているのが実情です。
今回の事故のように周辺に大きな影響が出ないような安心・安全なエネルギー源が欲しいというのは誰しもが思うところですが、それは容易なことではないことがわかる内容で、今後のエネルギー利用に関して改めて考えることが必要だと痛感します
原子力からバイオエタノールまで、各種エネルギー源の問題点は以下から。Is There Any Kind of Safe Energy? - Newsweek
1:原子力
by Andrea Kirkby
地震と津波の被害を受けた福島第一原発の原子炉周辺から放射線が検出された今回の事件を、全世界がかたずを飲んで見守っています。最悪の場合、放射性物質が風に乗って飛散し、非常に多くの人々を危険にさらしてしまう可能性もまだ否定できない状況です。
この危機は、アメリカにおける核政策の再検討を要求するに十分な事件です。ごく最近でも、共和党と民主党は安全な発電手段として原子力発電の普及を推進する理由として、共通の理由を見いだすことはほとんどありませんでした。また、原子力分野のロビイストたちは、この産業を保護しようと必死になっています。
そのような政治的な動きに対抗して、米国の科学者はアメリカの原子力発電所には修理が必要だという主張を展開しています。これまで「クリーン」な発電手段としての立場を守ってきた原子力は、主要なエネルギー源ではなくなっていくのかもしれません。
2:石油
by mayhem
約1年前、メキシコ湾で石油を掘削していたBP社の「ディープウォーター・ホライズン」での爆発をきっかけとして、メキシコ湾岸に原油が500万バレルも流出する事故が発生しました。この事故では爆発によって11名の作業員が行方不明となったほか、原油によって汚染された地域は多く、精神的・肉体的に影響を受けた人は何千人にも及びます。
500万バレルの油は86日にもの長きにわたって海へ噴き出し続け、美しかったメキシコ湾一帯が汚染され、観光産業は大打撃を受けました。アメリカの人々の中には、この事故に関してトラウマ(心的外傷)を持っている人も多く存在するように思われます。
しかしながら、あるアンケートによると10人中6人はメキシコ湾沖で再度石油の採掘を行うことに賛成しているとのことで、3月中にも連邦政府は、深海を採掘する許可を承認しています。大規模な事故を経験してもなお、経済的な恩恵やエネルギー供給にはあらがえないということなのでしょうか……
3:石炭
by wallyg
昨年の石油流出事故の直前に、29人の鉱夫がウェストバージニア州・ローリー郡の炭鉱で命を落とした事故により、石炭産業は壊滅的な大打撃を受けました。
石炭産業の評論家は、石炭の採掘による環境汚染を非難します。その一方でテレビニュースの撮影クルーは、まるで時計で計ったかのように規則正しく発生する鉱山事故に群がり、その様子を放送しています。
昨年の秋、総勢700人もの原告が、石炭を扱う企業では米国最大規模の「Massey Energy Company」を相手取り、有毒金属で飲料水を汚染させたことに対して訴えを起こしました。Massey Energy Companyは容疑を否定していますが、別の石炭業界の大手企業は、ウェストバージニア州をはじめとするいくつかの州で、採掘により水を汚染したという訴えを解決するために400万ドルを支払っています。
4:風力
by Snurb
汚染物質を排出せず、かつ枯渇しないという利点を持つ風力発電を、今後のエネルギー産業の主力に据えようという声は多くあります。しかし、動物たちはおそらく反対の立場を取るだろうというデータが存在します。
鳥たちにとっては風力発電所の巨大な風車は脅威となっており、カリフォルニアのディアブロ山脈にある風力タービンは、イヌワシやアカオノリスといったたくましい鳥をも含め、年間何千羽にも及ぶ鳥たちを切り刻んでいるとのこと。また、最近の研究では、体長がサイと同じくらいで重さがバスと同程度というオオギハクジラが、海上にある風力発電機を見て混乱し、浜に打ち上げられてしまうという事故も起こっているようです。
また、批評家は農業がさかんな国においては、風力発電を使っても二酸化炭素排出率が低下していないことを指摘しています。
5:トウモロコシ
by aperture_lag
エタノールのようなバイオ燃料は米国における過剰な原油消費に対抗しうる新燃料として、ブッシュ政権のころに人気が上昇しました。しかし、トウモロコシから作り出されるバイオエタノールの使用は、決していいことばかりではありません。
トウモロコシを燃料として消費してしまうということは、すなわち農地をエネルギー資源に転換してしまうことになります。もし仮にそれが現実のものとなれば、食料の価格が見る間に跳ね上がってしまいます。2009年の政府報告書によると、バイオエタノールを利用する場合、その代償としてフードスタンプと子どもたちの食料を購入するために、政府がおよそ10億ドルの予算を支払う必要が出てくると警告されています。
チュニジア、エジプトそしてイエメンでは、バイオ燃料の普及によって、ただでさえ不足している食糧がさらに枯渇してしまうという懸念からデモが発生しました。アルジェリアのデモ隊は「砂糖をよこせ!」と叫び、デモを展開しました。
国連によると穀物の価格は過去最高レベルの高さに到達していて、飢餓に苦しむ人々は10億人に達しているということで、こういった状況下で穀物をエネルギー源とするのは多くの問題がありそうです。
6:ガス
by splorp
「hydrofracking」とは、水の力と化学薬品を使って、地中から天然ガスを取り出す方法です。この技術はペンシルバニア州とコロラド州から、ニューヨーク北部へと広がりました。
俳優のMark Ruffaloを含むガス利用に対する反対者は、天然ガスを取り出す過程で、土壌と上水道に有毒な放射性物質と発癌性物質が浸出する恐れがあると主張しています。
2010年に公開され、ガス産業に対して非常に挑戦的な内容となっているドキュメンタリー映画「Gasland」のJosh Fox監督は、frackingによる健康被害には、脳に対する外傷や呼吸器障害、そして癌などが含まれるとコメントしています。
どの手段にもさまざまな形で問題が噴出していますが、まずは本当に必要なエネルギーの量を見直し、その上でどうやってまかなっていくのか複数の手段を候補に挙げつつ考えていく必要がありそうです。
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