犯罪現場に残された血痕から容疑者の年齢を特定できるように
犯行現場に残された被害者以外の血痕や髪の毛からDNA鑑定により犯人が特定される……というと推理小説や刑事物のドラマなどでは有りそうな展開ですが、現実にはそもそも容疑者が特定されていてDNAサンプルを採取できる場合、または前科などによりデータベースに入っているDNAと一致する場合でないと、「DNAが逮捕の決め手に!」というのはなかなか難しいかと思われます。
DNAの型から例えば「犯人は赤毛で高身長・肥満体型の30代の白人男性で目の色は緑」といったことまでわかればかなり捜査に役立つのかもしれませんが、現在のところ遺伝子型の中で形質として表れる表現型のうち、証拠となり得る精度で特定できるのは目の色くらいしかないそうです。人口のほとんどが茶色い瞳を持つ日本では、「犯人の目は茶色」とわかっても手がかりにならないと言っていいかもしれません。
オランダの生物学者たちが開発した新たな検査法により、血液から容疑者の年齢層を特定することが可能になるそうです。
詳細は以下から。Your Blood Holds Clues to Your Birthday - ScienceNOW
これまでに血液鑑定から人の年齢を特定する方法としてはミトコンドリアでのDNAの損傷やテロメアの短縮を手がかりとする方法が提案されてきましたが、これらの手法は精度が低く、技術的な問題も多いため、法医学の現場での実用には至っていないとのこと。
生化学的なメソッドとしては骨や歯・靱帯(じんたい)などのアスパラギン酸の蓄積量から年齢を推定する手法などが挙げられますが、これには骨や歯のサンプルを破壊分析する必要があり、かつ生物学分解が進んだサンプルでは役に立たないため、例えば「被害者が抵抗した際に犯人の歯が折れて、フレッシュな歯のサンプルが犯行現場に残っていた」というような特異なケースでしか使えないかもしれません。
ロッテルダムのエラスムス・メディカルセンターで分子生物学を専門とする法医学者Manfred Kayser博士らは、血液中のリンパ球の一種であるT細胞の性質に着目して血液から人の年齢層を特定する手法を開発しました。論文はCurrent Biology誌に掲載されています。
免疫細胞であるT細胞は人の身体に侵入した細菌と日々闘っているのですが、このT細胞は成長の過程で自分のDNAをチョキチョキと切ってあっちとこっちをつなげて、並べ替えることにより、さまざまな病原体に合わせた細胞表面受容体をデザインしています。これをDNAの再構成と呼ぶのですが、この時に余ったT細胞にとって不要なDNAは輪をつくって血液中を漂います。Kayser博士らはこのDNAの「カス」(フラグメント)の量をはかることにより血液の持ち主の年齢を特定することができるのではないかと考えました。
新しく作られるT細胞の数は年齢とともに減っていくので、血液中に存在するT細胞のDNAのフラグメントの量も年齢とともに減少します。Kayser博士らは生後数週間から80歳までの200人の血液のサンプルを分析することにより、フラグメントの量と年齢の強い相関を発見しました。このフラグメントに結合するようデザインされたマーカー(蛍光DNA)により、数時間でフラグメントの量を計ることができ、プラスマイナス9歳の精度で年齢を特定することができるそうです。また、採取から1年半が経過した血液サンプルでも同じ精度が得られたとのこと。
プラスマイナス9歳の精度というと、例えば「21~39歳」「32~50歳」「55~73歳」といった範囲に容疑者の年齢を絞れるということです。範囲が広すぎるのでは?と思うかもしれませんが、ライデン大学病院の法医学研究所長Peter de Knijff博士は、「これは容疑者を特定の世代に分類するには十分であり、警察にとっては非常に有用でしょう。このテストと瞳の色のテストを合わせれば、容疑者の幅をある程度絞ることはできます。現在の技術ではこれが精いっぱいです」と語っています。
Kayser博士らは、年齢の指標となるほかのバイオマーカーの検査と組み合わせることにより、さらに年齢特定の精度を上げることを目指しているそうです。
・関連記事
犯行現場にいた蚊が吸った血を解析して容疑者の特定に成功する - GIGAZINE
指紋鑑識や血液鑑定などの科学捜査が体験できる「体験王~鑑識捜査編~」 - GIGAZINE
ボリビアの警察が「世界一ひどい似顔絵」を手がかりに殺人容疑者を逮捕 - GIGAZINE
犬の落とし物のDNA鑑定でマナーがなっていない飼い主を特定するサービス「PooPrints」 - GIGAZINE
通勤中にMP3プレイヤーを使っていたら逮捕されてDNA採取までされてしまう - GIGAZINE
・関連コンテンツ