所得格差が大きい地域ほど劇場や博物館などに出かける人が少ないとの研究結果

イタリアの全20州を12年間にわたって分析した研究で、所得格差が大きい州ほど映画館・劇場・博物館・コンサートなど自宅外の文化活動に積極的に参加する人の割合が低い傾向が示されました。
Income distribution and cultural participation: evidence from Italy | Journal of Cultural Economics | Springer Nature Link
https://link.springer.com/article/10.1007/s10824-025-09572-y
Does income inequality shrink the audience for culture?
https://www.scienceofmoney.org/when-inequality-keeps-people-home-a-study-of-italy-s-culture-gap-646/

文化活動は人々の交流を促して社会的な格差を縮小する手段とされる一方、これまでの研究では、参加者が特定の社会集団に偏れば既存の格差を強める可能性も指摘されています。そこで、カターニア大学のロベルト・チェリーニ氏とティツィアナ・クッチャ氏の研究チームは、個人の所得や教育を重視してきた従来の研究から視点を広げ、地域内の所得分配と文化活動への参加率の関係を調べることにしました。
研究チームはイタリア国立統計研究所(ISTAT)がまとめた全20州の2011~2022年の年次データ計240件を使用して分析を行いました。「文化活動」の対象となる活動は「映画館に4回以上行く」「劇場に1回以上行く」「博物館や展覧会に行く」「考古学遺跡や記念建造物を訪れる」「クラシック音楽やオペラのコンサートに行く」「それ以外の音楽ジャンルのコンサートに行く」の6種類で、6歳以上で過去12カ月にこのうち2種類以上を行った人を「文化活動に積極的に参加した人」とカウントしています。
以下のグラフは、イタリア全20州の2011~2022年の文化活動への参加率の推移を示したものです。それぞれの折れ線が1州に対応し、凡例の1~20は各州に割り当てられた番号、横軸は年、縦軸は文化活動への参加率(CPOH)を表しています。研究チームが分析した結果、州間には大きな差があり、イタリア南部では文化活動への参加率が低い傾向がみられました。この地域差は、新型コロナウイルス感染症対策の行動制限が実施された2020~2022年にも残りました。イタリア南部は行動制限が比較的緩かったにもかかわらず、南部8州が下位8位を占め続けたことから、研究チームは行動制限の厳しさよりも社会的・文化的な要因が参加行動を左右している可能性を指摘しています。

所得格差を測る指標には「ジニ係数」が使われました。ジニ係数は0に近いほど所得が均等に分配され、1に近いほど一部に集中していることを示します。以下のグラフは縦軸が文化活動への参加率、横軸がジニ係数を示したものです。州・年別データを単純に比べると、ジニ係数が高いほど文化活動への参加率が低い傾向がみられました。

また、研究チームが1人当たりの所得に加え、州ごとの変化しにくい特徴や全州に共通する年ごとの変化を考慮して分析しても、依然として所得格差が大きい州ほどCPOHが低いという関係は残りました。つまり、州全体の平均所得が高くても、所得が一部に集中している州では文化活動への参加率が低い傾向がみられたということです。ジニ係数が0.01高いとCPOHは約0.49ポイント低いと推定され、文化活動に積極的に参加する人が100人あたり約0.5人少ない計算です。
活動別では、「劇場に1回以上行く」「博物館や展覧会に行く」「考古学遺跡や記念建造物を訪れる」「クラシック音楽やオペラのコンサートに行く」「それ以外の音楽ジャンルのコンサートに行く」のいずれも、所得格差が大きい州ほど足を運ぶ人の割合が低いことが確認されました。「映画館に4回以上行く」人の割合も所得格差の大きい州ほど低い傾向にはありましたが、統計的に有意な関連ではなかったとのことです。
この結果について研究チームは、所得格差が大きい地域ではチケット代や交通費が低所得者層の負担になるほか、質の高い教育を受けたり幼少期に文化を体験したりする機会も高所得者層に偏る可能性があるためだと考察しています。
「文化イベントや施設を増やすだけでは、これまで参加してこなかった人にまで文化活動への参加が広がるとは限らない」と研究チームは指摘しています。どのような人が参加できているかを考慮しなければ、すでに文化活動に参加している人だけが新たな機会の恩恵を受け、格差がさらに深まるおそれがあるとのこと。
文化活動を通じて幅広い人を社会から取り残さない「社会的包摂」を進めるには、所得格差を縮小し文化に触れる機会を広げる必要があると研究チームは結論付けています。
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in サイエンス, Posted by log1b_ok
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