サイエンス

ミツバチには「表情」がある可能性が実験によって示される


ネコイヌといった哺乳類には、喜びや怒りといったさまざまな感情を示す「表情」が存在します。新たな研究では、一見すると表情がありそうには見えない「ミツバチ」にも表情がある可能性が示されました。

Bumblebees’ orofacial reactions to tastes provide evidence for affective evaluation | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2529114123

Bees ‘facial expressions’ may be a sign of their inner lives
https://theconversation.com/bees-facial-expressions-may-be-a-sign-of-their-inner-lives-286839

人間の場合、食事を楽しんでいるかどうかは表情を見ればだいたい把握可能で、おいしいものを食べている時は満足そうな表情を、まずい時は苦々しい表情を浮かべます。また、イヌやネコの飼い主はこれらの動物が喜怒哀楽を表現できると信じており、少なくとも哺乳類においては、好意や欲求に関連する表情が進化の過程で保存されてきました。


心理学者兼神経科学者のケント・ベリッジ氏らの研究チームは2009年の論文で、生まれたばかりの赤ちゃんと子ネズミが「甘いご褒美」または「苦いご褒美」をもらった際、どちらも驚くほど似た表情を浮かべることを指摘しました。どちらも甘いご褒美をもらった時は唇をなめるしぐさを見せた一方、苦いご褒美をもらった時は口を大きく開けて嫌悪感を示したとのこと。

ベリッジ氏らは綿密な神経生物学的および行動学的研究に基づき、ネズミの表情から好き嫌いを読み取ることができると主張しました。しかし、脳や体の構造がまったく異なる昆虫でも同様に表情を見分けられるのかどうかは、これまでよくわかっていませんでした。


昆虫は硬い外骨格を持っており、表情がありそうには思えないかもしれません。しかし、ミツバチの一種であるマルハナバチは非常に可動性が高い口器(摂食に使う器官)を持っており、これを花の奥深くまで伸ばして蜜を吸うことができます。

今回、オーストラリア・マッコーリー大学の自然科学部教授であるアンドリュー・バロン氏らの研究チームは、マルハナバチがさまざまな味を味わう際に、口器や体をどのように動かすのかを調べる実験を行いました。

まずはマルハナバチにピペットで少量の砂糖水を与えてみたところ、ハチは勢いよく口器を伸ばして砂糖水を飲みました。そして、飲み終えてピペットを取り除いた後も、まるで唇を鳴らすかのように口器を伸ばしたり縮めたりし続けたとのこと。

一方、薄めた塩水をマルハナバチに飲ませたところ、ハチは塩水を飲んだ後に嫌悪感を示すかのように首を振り、口器を脚でぬぐいながら後退しました。実際に砂糖水または塩水を与えられたマルハナバチの様子は、以下の動画で確認できます。

Bees responding to tastes they "like" and "dislike" - YouTube


ピペットから砂糖水を飲むマルハナバチ。


ピペットが離れた後も、身を乗り出して口器を突き出しています。


今度は塩水を飲むマルハナバチ。


まるで嫌がるように後退し、口器を脚でぬぐうようなしぐさをしています。


これらの反応が単なる砂糖と塩の化学的性質の違いによるものかどうかを調べるため、研究チームはマルハナバチを短時間40℃に加熱して、暑い日に活動したのと同様の脱水状態にして実験を行いました。

脱水症状のマルハナバチに薄めた塩水を与えたところ、頭を振って後退するどころか、砂糖水を飲んだ時のように口器を突き出したとのことです。この結果は、口器の反応は単に砂糖や塩の化学的性質によるものではなく、マルハナバチの生理状態に影響を受けていることを示唆しています。バロン氏は、「これは経口補水液に少し似ています。普段はなんとか飲める程度ですが、長距離走を終えて脱水状態になっているときは、格段においしく感じるのです」と述べています。

また、研究チームはオクトパミンドーパミンという神経伝達物質を与えたマルハナバチと、エンドカンナビノイドという異なる神経伝達物質を与えたマルハナバチで実験を行いました。すると、砂糖水に対する口器の反応に違いがみられたことから、マルハナバチの神経化学的な変化が反応に影響していることが示唆されています。

バロン氏は、「これらの実験結果を総合すると、口器の反応はミツバチの生理的状態に関連した主観的なものであり、異なる化学物質への反応ではないことが示されました。この証拠は、ミツバチが好き嫌いに対して示す反応が、人間やほかの哺乳類のそれと同様であることを示唆しています。私たちの研究は、ミツバチが好きや嫌いといった感情を抱いている決定的な証拠というわけではありません。しかし、昆虫にも何らかの内面的な世界があり、単なる反射機械以上の存在であることを示す一連の研究結果に加わるものです」と述べました。

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