人類史上最も苦い物質がキノコから発見される

ドイツのミュンヘン工科大学の研究チームが、苦いことで知られるキノコから未知の苦味物質を発見したという論文を発表しました。発見された苦味物質のうち1つはこれまでに発見された中で最も強い苦味を持つと研究チームは報告しています。
Taste-Guided Isolation of Bitter Compounds from the Mushroom Amaropostia stiptica Activates a Subset of Human Bitter Taste Receptors | Journal of Agricultural and Food Chemistry
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.4c12651
This Fungus Contains The Most Bitter Substance Known to Humankind : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/this-fungus-contains-the-most-bitter-substance-known-to-humankind
苦味は5つの基本味覚の1つであり、舌・軟口蓋・気管などにある約25種類の苦味受容体(TASR2)が特定の物質を検出した時に、脳が苦味を感じることがわかっています。この苦味受容体に働きかける「苦味のもと」となる化合物は1000種類以上ありますが、そのほとんどは種子植物から採取されるもので、菌類や動物由来のものはごくわずかしか同定されていないとのこと。
種子植物は地球上に出現したのがおよそ2億年前で、生物の長い進化の歴史から見ると比較的新しい植物群です。しかし、脊椎動物がTASR2を獲得したのはおよそ5億年前といわれており、種子植物が登場する前の生物がどうやって苦味に反応するようになったのかはわかっていません。そこで、研究チームは古来から存在するキノコを含む菌類が含む苦味成分に注目しました。
今回調査対象となったのは、Amaropostia stipticaというキノコです。Amaropostia stipticaは「Bitter Bracket(苦い張り出し棚)」という別名で呼ばれ、食用ではありませんが非常に苦いことで知られていましたが、具体的にどういった成分が苦味のもとになっているのかはわかっていませんでした。

by Jerzy Opioła
研究チームは2020年10月にドイツのバイエルン州で採取されたAmaropostia stipticaから、既知の苦味物質であるオリゴポリンAとオリゴポリンBに加えて、新たな苦味物質であるオリゴポリンD、オリゴポリンE、オリゴポリンFの分離に成功。これらの化合物を人間の苦味受容体でスクリーニングしたところ、すべての化合物が少なくとも1つの受容体を活性化させることが判明しました。

特にオリゴポリンDは0.1μMという超低濃度でもTASR2を活性化できたことがわかりました。これは、競技用プール1杯分の水250万リットルにわずか0.158gのオリゴポリンDを投与しても苦味を感じることができるということを意味します。研究チームは、オリゴポリンDはこれまで見つかった中で最も強力な苦味物質だと評価しています。

人間にとって苦味とは、食べ物に含まれる特定の分子を認識するためのシグナルであり、苦い食べ物や飲み物に対する嫌悪感は生来の拒絶反応の1つだとされています。しかし、苦いものは必ず毒なのかというとそうではなく、「良薬は口に苦し」という言葉もある通り、むしろ苦い食べ物の中には健康に良いとされるものもあります。また、反対に苦くないのに強い毒を持つこともあります。
たとえば、毒を持つことで知られるテングタケは食べると下痢やおう吐、幻覚、けいれんなどを引き起こします。しかし、テングタケの主要な毒成分であるイボテン酸やムッシモールは強いうま味成分であることが知られています。そのため、テングタケは食べると中毒を引き起こしますが、非常に味がいいことで知られています。一方で、最も苦い物質を含むAmaropostia stipticaは、苦くて食べられないものの、記事作成時点で毒性は確認されていません。
研究チームは「人間は、キノコの主な捕食者ではありません。他の多くの動物もキノコを消費しており、それらの動物が持つ受容体は有毒キノコと無毒キノコをより適切に区別できるようになっている可能性があります」と述べ、動物が苦味を感じるように進化した理由を解明するにはさらなる研究が求められると論じました。
・関連記事
食品の味を識別できる「電子舌」が開発される - GIGAZINE
宇宙で食事すると不思議と「薄味」に感じる、一体なぜ? - GIGAZINE
「パクチーのにおいがどうしても苦手」な人がいるのは一体なぜ? - GIGAZINE
「甘味・塩味・苦味・酸味・うま味」に続く第6の味覚はサルミアッキに感じる「塩化アンモニウム味」である可能性 - GIGAZINE
「日本が味見できるテレビを開発した」と海外で話題に - GIGAZINE
大人になると味の好みが変化するのはなぜ? - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in サイエンス, 生き物, Posted by log1i_yk
You can read the machine translated English article The most bitter substance in human histo….