サイエンス

「過去」を25%の確率で変える逆方向タイムトラベルのシミュレーションにケンブリッジ大学の研究チームが成功


イギリス・ケンブリッジ大学の研究チームが、「量子もつれ」と呼ばれる現象を利用することで、量子力学の世界において、25%の確率で過去に起こった事象を未来で変えることができるシミュレーションに成功したと発表しました。

Phys. Rev. Lett. 131, 150202 (2023) - Nonclassical Advantage in Metrology Established via Quantum Simulations of Hypothetical Closed Timelike Curves
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.131.150202


Scientists Successfully Simulate Backward Time Travel with a 25% Chance of Actually Changing the Past - The Debrief
https://thedebrief.org/scientists-successfully-simulate-backward-time-travel-with-a-25-chance-of-actually-changing-the-past/

「量子もつれ」とは、量子力学の分野において、量子の特異的な性質によって古典力学では説明できないような「現実では起こり得ない強い相関関係」を指します。量子もつれでは、現実世界のように「ある事象の原因が最終的な結果を導く」だけでなく「事象の結果がその原因に干渉する」といった常識では考えられないような挙動が見られる場合があるとのこと。海外メディアのThe Debriefは量子もつれについて、「量子粒子のある基本的な性質が2つ以上の粒子で共有されている場合、1つの粒子でその性質を変化させると、他の粒子でも同様の変化が起こる現象」と解説しています。


今回、ケンブリッジ大学のニコール・ハルパーン氏らの研究チームは、2つの粒子のもつれをシミュレーションし、量子もつれが持つ曖昧さについて検討を行いました。

研究チームによるシミュレーションの結果、以下の画像のような量子もつれ回路が形成されました。研究チームによると、初期段階である「T1」の時点でのある量子は当初通常通り、未来に向かって進みます。しかし、ある時点「T2」で突如過去に向かって進み始め、その後「T3」「T4」では、T1の時点に向かって再度未来に向かって進みます。T1の時点を越えた量子は、その後も未来へと進むとのこと。


研究チームのデイビッド・シュクル氏は「私たち研究チームはこの回路を使って、過去に起こったアクションを遡及的に変化させて、最終的な結果が希望通りになるようにするシミュレーションを行いました」と述べています。最終的に研究チームは約25%の確率で、未来で行った観測によって、過去の測定結果を変更させるような、過去の書き換えに成功しました。そのため、研究チームは「過去に起こった出来事を未来で変更することは、物理学の法則に違反していない」と結論付けています。

シュクル氏はこの結果について、プレゼントを贈る事例で解説しています。シュクル氏は「ある人にプレゼントを贈りたいものの、相手の手元に届くには3日かかる場合、確実に3日後に届けるためには必ず1日目に発送する必要があります。そのため、相手が欲しいもののリストを2日目に公開すると、贈ったプレゼントが本当に相手が望む物ではなくても変更することはできません。しかし、今回のような量子もつれの仕組みを用いると、計算上、約25%の確率ですでに送付したはずのプレゼントの中身が変更できるようになります」と述べています。


また、シュクル氏は「今回の結果はあくまでシミュレーションによって得られた結果であるため、システムを作り直すことで、タイムトラベルに関するシミュレーションの成功確率のさらなる上昇に役立てることが可能です」と述べています。

一方で研究チームは今回の結果について、単なる理論上の結果であるため、SF作品のようなタイムトラベルは困難だと指摘しています。シュクル氏は「私たち研究チームはタイムマシンの開発を行っているのではなく、量子力学の基礎を深く掘り下げているのです。今回のシミュレーションのように、過去の出来事を実際に変えることは困難ですが、過去の問題を今すぐ修正することで、より良い未来を想像することができるはずです」と語っています。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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