サイエンス

ヒトの「ミニ肺」の培養に成功、新型コロナのようなパンデミックの研究に活路


実験室内で作られた臓器であるオルガノイドは医療や創薬などの分野で高い注目を集めており、これまでにもミニ脳に目を発生させる実験や、鼓動するミニ心臓を国際宇宙ステーションに打ち上げる研究などが行われてきました。アメリカの研究者らが新たに、マイクロチップ上で臓器を成長させる技術を開発し、これにより人間の肺の小型クローンを作成することに成功したと発表しました。

Organotypic human lung bud microarrays identify BMP-dependent SARS-CoV-2 infection in lung cells: Stem Cell Reports
https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2023.03.015

Lab-Grown Mini Lungs: Accelerating Respiratory Disease Research
https://scitechdaily.com/lab-grown-mini-lungs-accelerating-respiratory-disease-research/

100年に一度のパンデミックと呼ばれた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、これまでに6億6500万人を超える感染者と670万人を超える犠牲者を出すなど猛威を振るっています。爆発的に広がるCOVID-19に対処するためには、病原体である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が人間の肺にどのように感染するのかを調べる研究が欠かせませんが、これには難しい課題があります。

それは、肺組織の性質が人によって異なるため、SARS-CoV-2が最初に肺の細胞に感染するまでのメカニズムの解明が進まないという点です。現行のCOVID-19の研究は、初代培養したヒトの肺組織、つまり生きている人から直接提供された肺細胞を用いた実験に頼っていますが、このようにして作られた肺細胞は遺伝的に異なるため、均一で精度の高いデータを取ることはできません。


そこで、ロックフェラー大学のアリ・ブリバンルー氏とチャールズ・M・ライス氏らの研究チームは、ヒトES細胞をマイクロチップ上に配置して、同じ遺伝子を持った肺芽(呼吸器官の元となる組織)を培養する技術を開発しました。この肺芽は数千個単位で大量に培養することが可能で、遺伝的な差異もないため、均一かつ大規模な感染データの収集が可能となります。

ブリバンルー氏は「これらの肺は基本的にクローンです。そのため、ある患者と別の患者とで異なる反応をするというような心配はありません」と話しました。


マイクロチップで肺芽を育てる技術を長年の研究してきたブリバンルー氏と、SARS-CoV-2を感染させる実験に必要なバイオセーフティレベルを持つライス氏の研究室が共同で、培養したミニ肺をウイルスに感染する実験をしたところ、肺胞は気道細胞よりも感染に弱いことが判明しました。肺までの空気の通り道となる気道の細胞は、呼吸の際にガス交換を行う肺胞を守る防御壁の役割を持っていますが、SARS-CoV-2が気道細胞をすり抜けてしまうと肺胞は格好のカモとなってしまいます。

以下は、研究チームが作成したミニ肺の肺胞(左)と気道細胞(右)がSARS-CoV-2に感染されている様子を収めたもの。青色の部分が細胞で、紫色の部分がウイルスです。


研究チームによると、今回開発された技術はCOVID-19だけでなくインフルエンザや他の呼吸器感染症、肺疾患、肺がんなどのメカニズム解明にも役立てることが可能で、それらの治療に用いる新薬のスクリーニングにも活用できるとのこと。

ブリバンルー氏は「このプラットフォームは、次のパンデミックにより迅速かつ正確に対応することも可能にします。大量に培養したミニ肺を活用すれば、ウイルスを可視化し、COVID-19の時よりもはるかにスムーズに治療法を開発できるでしょう」と話しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
実験室で培養した「ミニ脳」をバイオコンピューターとして使用するというアイデアを研究者が提唱 - GIGAZINE

皮膚の細胞から培養した極小サイズの脳から赤ちゃんの脳波に似た信号が検出される - GIGAZINE

人間の「ミニ脳」でラットの脳損傷を修復する初の実験に成功 - GIGAZINE

「臓器の外側の環境を再現する特殊なゲル」を用いてすい臓がん腫瘍を培養する新手法が開発される - GIGAZINE

実験室で培養した人間の「ミニ脳」に目が生えてきたとの報告、光にも反応 - GIGAZINE

実験室内で培養した人の「ミニ脳」にゲームをプレイさせることに成功、AIよりも速いわずか5分で習得 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.