サイエンス

うつ病治療に用いられる磁気刺激治療は脳内信号の異常な流れを正すことで効果を発揮している


標準的な治療ではあまり効果がなかった重度のうつ病に対して迅速に症状緩和をもたらす治療法として、強力な磁気パルスを頭皮に当てて脳を刺激する「経頭蓋磁気刺激治療(Magnetic Stimulation Treat:TMS)」があります。これまで、TMSがどのようにうつ病の症状を消散させているのか、正確にはわかっていなかったそうですが、スタンフォード大学医学部の研究者らの研究により、理由が明らかになりました。

Targeted neurostimulation reverses a spatiotemporal biomarker of treatment-resistant depression | PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2218958120


Researchers treat depression by reversing brain signals traveling the wrong way | News Center | Stanford Medicine
https://med.stanford.edu/news/all-news/2023/05/depression-reverse-brain-signals.html


研究はスタンフォード大学のアニッシュ・ミトラ氏、ワシントン大学のマーク・ライクル氏らによるもので、論文はProceedings of the National Academy of Sciencesの2023年5月15日号に掲載されています。

ミトラ氏は「TMSがどのように効果を発揮するのかについて、有力な仮説は脳内の神経活動の流れを変えている可能性があるというものでした。しかし正直なところ私はその説に懐疑的で、試してみたかったのです」と語っています。


ミトラ氏は自らの疑問解決に役立つツールとして、ワシントン大学の大学院生だったころに、ライクル氏のもとで磁気共鳴機能画像法(fMRI)を分析する数学的ツールを開発済みでした。

研究では、従来のTMSと同じように磁気パルスを用いる治療法であり、数週間から数カ月にわたり毎日施術が必要なTMSに対してわずか5日間に10回の施術を行うというスタンフォード神経調節療法(SNT)が用いられました。ミトラ氏は「TMSが脳内信号の流れを変える力があるのかどうかを確認するのに最適なテストで、これでダメならどうにもなりません」と述べています。

被験者は、治療抵抗性の大うつ病性障害と診断された患者33人。このうち、23人はSNT治療を受け、10人はSNTを模倣しつつも磁気刺激を伴わない偽治療を受けました。研究チームは33人のデータを、うつ病のない健康な対照群85人のデータと比較しました。


研究者がデータを確認したところ、健康な人では、前島皮質前帯状皮質に信号を送っていました。「心拍数や体温などの身体に関する情報を前帯状皮質が受け取り、これらの信号に基づいてどのように感じるかを決定していると考えられます」とミトラ氏は述べました。

しかし、うつ病患者の4人に3人は、信号の流れが逆転し、前帯状皮質が前島皮質に信号を送っていました。重症度が高いほど、信号が誤った方向に流れる割合が高くなっていたとのこと。

この状態についてミトラ氏は「自分がどう感じるかをすでに決めているようなもので、その後に感知したものがフィルターにかけられるので、雰囲気が第一のような状態です。患者にとって、通常であれば非常に喜ばしいことであっても突然、何の喜びも感じなくなるということで、多くの精神科医のうつ病への見解と一致します」と語りました。

SNT治療を受けると、脳内信号の流れは1週間以内に正常な方向になり、同時にうつ病症状が消えました。

研究に取り組んだノーラン・ウィリアムズ氏は「2つの脳領域間の信号の流れが臨床症状の変化を予測するのは、精神医学で初めてです」と述べました。

ウィリアムズ氏は、こうした信号の流れの異常はうつ病患者の全員に見られるわけではなく、症状としてはまれである可能性を挙げつつも、うつ病治療をトリアージするための重要なバイオマーカーとして機能する可能性があると述べました。ミトラ氏も「重度のうつ病の人を見つけたときに、このバイオマーカーを探すことで、SNT治療にどれぐらい反応する可能性が高いかを判断することができます」と語っています。

研究チームは、さらに大規模な患者グループでこの研究を再現することを計画しています。また、他の人がこの分析技術を用いて、fMRIデータに隠された脳活動の方向性について、より多くの手がかりを明らかにすることを望んでいます。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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