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物語で「指輪」が神秘的な力を持つ起源とは?


J・R・R・トールキンのファンタジー小説「指輪物語」や、「指輪物語」を原作とした映画シリーズ「ロード・オブ・ザ・リング」をはじめとして、主にファンタジー作品などで「指輪」が神秘的なキーアイテムとなることが多くあります。指輪が神秘的な力を持つ物語の起源と考えられる「ギュゲスの指輪」という伝説と、それに関連する哲学的議論について、科学や歴史などについてアニメーションにまとめるYouTubeチャンネルのTED-Edが解説しています。

Plato's allegory of the ring - Alex Gendler - YouTube


「不思議な力を持った指輪が、その力に目がくらんだ者を誘惑する」といったストーリーの起源は、2000年以上前にさかのぼります。超常的な力を持つ「ギュゲスの指輪」という伝説について、古代ギリシアの哲学者であるプラトンが著作「国家」の中で取り上げています。


「国家」では、プラトンの師であるソクラテスと、プラトンの兄でありソクラテスの弟子でもあるグラウコンが、「人間はなぜ公正に振る舞うのか」という議論をしています。それが正しいことだからなのか、あるいは罰や報酬によって動機付けられた性質なのか、という議論を重ねていく中で、グラウコンが「ギュゲスの指輪」の話をします。


はるか昔、ギュゲスという名前の羊飼いがいました。ギュゲスはある日、羊の群れを世話していたときに地震に襲われ、大地が裂けたことで、地の底へ落ちていってしまいました。


落下した先で、ギュゲスは青銅でできた馬を発見しました。


馬は扉になっており、扉を開くと巨人の死体が横たわっていました。そして、その死体の指には金色に光る指輪がはめられていました。ギュゲスは死体から指輪を抜き取り、来た道を引き返して元いた地へと帰っていきます。


無事帰ってきたギュゲスが金の指輪をいじっていると、指にはめた指輪を何気なく回した時に、突然ギュゲスは透明になりました。指輪を逆回転させると、再び姿が現れます。


指輪の力によって気が大きくなったギュゲスは、あくどい計画を考えつきました。


紀元前に栄えた国家であるリュディアの王様に仕える使者となったギュゲスは、指輪の力で誰にも気づかれることなく王宮を歩き回ることができました。


ギュゲスはリュディアの女王を唆し、夫であるリュディア王を裏切らせ、国を乗っ取る計画を進めます。


結果として、善良な羊飼いだったギュゲスは、王を殺害して自ら王となりました。グラウコンはこの伝説を通して、「人間は不正を行うことで利益を得られる」という意見を伝えています。


グラウコンは、「透明になって王宮を自由に動けたように、何の影響も受けずに望みを得られるなら、理性のある人でもギュゲスと同じ末路になるか」という問いを考えるために、「良いこと」を3つのカテゴリーに分けています。


1つ目の「良いこと」は、私たちがそれ自体を欲するもので、ただ快楽を得られ、害や苦労がないもの。


2つ目は、それ自体は苦労や苦痛を伴う場合があるが、何かよい結果をもたらすため私たちが欲するもので、運動や薬などが含まれます。


3つ目は、それ自体も優れたもので、さらに私たちに良い結果を与えるもの。知識や健康などが該当します。


グラウコンは「正義」や「公正」といった実践は、「良い結果をもたらすがそれ自体は苦労や苦痛が伴う」という2つ目のカテゴリーに属すると主張しました。すなわち、正しい行為は自ら積極的に望んで選択するものではないため、人が道徳的に振る舞う唯一の理由は「外部からの影響」にあるとグラウコンは結論付けています。


グラウコンの主張によると、実際に道徳的であるかではなく、道徳的に見えることが重要です。逆に、ギュゲスのように指輪の力を使って誰からも見られることがなくなる場合、人は道徳的に振る舞わなくなるとグラウコンは述べています。


一方で、ソクラテスはグラウコンの主張を否定し、正義や公正とは「それ自体も優れており私たちに良い結果をもたらす」という3つ目のカテゴリーに属すると主張したと、「国家」の中で語られています。


ソクラテスは、人間の魂は「理知(ロゴス)」「気概(テューモス)」「欲望(エピテューミア)」の3つの性質に分かれるという「魂の三分説」を主張しました。人は理知によって真理や知識へと導かれ、その道中で、道徳的に正しく野心的で勇気の源になる気概と、より基本的で身体的な欲求である欲望に影響を受けます。


ソクラテスによると、フィロソフィアは理知に導かれ、欲望を気概で抑えることで、最も公正で幸福な状態になります。そのため、例えギュゲスの指輪のように報いを受けずに欲望を実行できる場合でも、身勝手な悪意を働くことはありません。


一方で、気概で欲望を抑えることができない人は「独裁者」と呼ばれ、ギュゲスのように欲望に負けて不正によって権力と富を手に入れた者は、「魂の調和が取れなくなる」とソクラテスは語っています。ソクラテスによると、理知に導かれるのではなく基本的な欲望に支配された状態では、真に幸せになることはできないとのこと。


同様に、古代中国の哲学者である孔子も「正しく振る舞うことによって、利益を得ることができる」と論じています。


一方で、17世紀の近世哲学で代表者とされるトマス・ホッブズは、人間の本質は暴力的で利己的であると主張し、個人の欲望は理性で制御されることなく無限に膨らみ続けるため、政治体のない自然状態だと「万人の万人に対する闘争」に陥ると表現しています。


また、ホッブズと同じく17世紀哲学の中心人物であったジョン・ロックは、人間は生まれながらにして善行を義務づけられており、生まれながらに持っている自然権を確保するために、市民社会への参加に同意するとしています。


「ギュゲスの指輪」を取り巻く人間の善の本質と欲望についての議論は、古代から数千年も語られ続けています。神秘的な力を持つ指輪はいつの時代も人を惑わせ、問いかけてきます。

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in 動画, Posted by log1e_dh

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