メモ

石油産出国が陥りやすい汚職・内紛・貧富の格差からノルウェーが逃れたのはたった1人のイラク人石油地質学者の活躍のおかげだった


現代人にとって石油はもはや必要不可欠な資源であり、中東を中心とした石油輸出国はオイルマネーで潤っている印象がありますが、中東の石油産出国では貧困・内戦・汚職の割合が高く、「資源の呪い」と呼ばれる機能不全に陥るケースが多いといわれています。しかし、ヨーロッパ最大の石油輸出国かつ世界第2位の天然ガス輸出国であるノルウェーはこの「資源の呪い」から逃れており、それはノルウェーの石油地質学者であるファラーク・アル・カシム氏が提言したおかげだからだと、ニュースサイトのPacific Standardが説明しています。

How Farouk al Kasim Saved Norway From Its Oil - Pacific Standard
https://psmag.com/environment/iraqi-vikings-farouk-al-kasim-norway-oil-72715


アル・カシム氏はイラク出身で、イラク政府の出資でインペリアル・カレッジ・ロンドンに留学し、その後イラク石油会社の幹部となり、石油と資金を管理する立場となりました。その後、脳性マヒの息子を育てるために、妻の母国であるノルウェーへ移住し、北海の掘削試験結果を分析する仕事に就きました。


そんなアル・カシム氏がノルウェーの地質調査のデータを調べたところ、北海にとんでもない規模の油田が眠っていることが判明しました。当時のノルウェーに石油を扱うノウハウはありませんでしたが、大量の石油が国策に計り知れないほどの大きな影響を与えることは十分予想されました。

アル・カシム氏は「私は帝国主義の手先として苦悩した経験があります。イラクの石油がもたらす恩恵のほとんどが、イラクの人々から逃げていくのを、それまでの立場から十分に見てきました」と述べています。1950年代後半から60年代にかけて、中東の多くの国々で石油による「帝国主義」問題を解決するために、国際的な石油会社を追放して国営の石油会社が取って代わろうとした。しかし、結果として石油や資金、権力が一部の人間に集中し、経済の停滞を招いてしまいました。「国際石油会社の独占を国営の独占に置き換えただけでは、改善されたとは言えません」とアル・カシム氏は述べています。

1969年12月。アル・カシム氏が予言した通り、エネルギー企業のコノコフィリップスが北海でエコーフィスク油田を発見しました。その1年半後に、アル・カシム氏は同僚とともに国営石油会社のスタトイル(現・エクイノール)と強力な独立規制機関であるノルウェー石油管理局(NPD)の創設を求める白書を書き上げました。アル・カシム氏は、外国石油産業と国営石油企業で足並みをそろえさせることで、国家による石油独占を回避するというアイデアを導入しました。


このアイデアでは、スタトイルは国内で専門技術の開発を促進し、ノルウェー人の雇用を確保します。ただし、政府の石油産業省と協議を行って年1回のレポートを提出することが義務付けられました。一方でNPDは、石油プロジェクトがノルウェーの利益にかないつつ、環境への影響を最小限に抑えながら、ノルウェーの雇用と利益を最大化することを確認するという一種の審判役として機能することを目指していました。


ノルウェー政府はアル・カシム氏のアイデアを受け入れました。政府は税金を投入し、油田開発へ投資を行い、そのリスクを半分負ました。ノルウェーが出資することで、民間の石油会社は財政的にリスクの高い技術革新に挑戦することができます。そして、1990年代に石油産業で利益が出始めると、ノルウェーは油田が枯渇する日に備えて、その利益を基金に預けました。この基金は記事作成時点で8000億ドル(約110兆円)にのぼるとのこと。

その一方で、NPDが「掘削による海洋汚染をゼロにする」という目標を掲げたため、記事作成時点でノルウェーから海に排出される掘削用の化学物質はほとんどないそうです。同時に採算の取れる油田へのアクセスを維持するため、石油会社は協力して新しい手順や材料を開発しました。

また、アル・カシム氏は、国内の油田から「最後の一滴まで搾り取る」ことにも執着していたとのこと。コノコフィリップスが最初の油田を掘ってからわずか10年後の70年代後半には、エコーフィスク油田の生産量は激減しました。一般的に石油のある地層(油層)から石油を取り出すと、油層内の圧力が低下するため、時間が経過するとともに石油の生産量が減少します。そこで、アル・カシム氏は水を注入して圧力を上げることを提案しました。コノコフィリップスはアル・カシム氏によるこののアイデアを採用し、エコーフィスク油田は復活を遂げたそうです。


アル・カシム氏は、NPDの資源管理部長として18年間勤務し、その功績が認められ、2012年にノルウェー国王からナイトの称号を授与されました。アル・カシム氏は「現代の神話の1つは、テクノロジーがすべてを解決するというものです。しかし、科学は適切なタイミングで適切な答えを出すことはほとんどなく、社会的なビジョンを持たないテクノロジーはただの物です。人間の組織について、私たちはどんなビジョンを持っているのでしょうか?」と述べています。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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