サイエンス

一般的な睡眠薬がアルツハイマー病の原因とされるタンパク質を減らすことが判明、新たな認知症対策になる可能性を示唆


一般的な睡眠薬のひとつであるスボレキサント(商品名ベルソムラ)を服用することで、アルツハイマー病の原因といわれているタンパク質の蓄積を抑制できるとの研究結果が報告されました。

Suvorexant Acutely Decreases Tau Phosphorylation and Aβ in the Human CNS - Lucey - Annals of Neurology - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/ana.26641


Sleeping pill reduces levels of Alzheimer’s proteins – Washington University School of Medicine in St. Louis
https://medicine.wustl.edu/news/sleeping-pill-reduces-levels-of-alzheimers-proteins/


Alzheimer’s Breakthrough? Common Sleeping Pill Reduces Levels of Disease Proteins
https://scitechdaily.com/alzheimers-breakthrough-common-sleeping-pill-reduces-levels-of-disease-proteins/


最も多い認知症であるアルツハイマー病は、アミロイドベータという異常タンパク質がプラークとして脳に蓄積されることから始まります。そして、アミロイドが長期にわたって蓄積されると、タウタンパク質という有害な物質が繊維となって脳細胞に絡まり始めます。このころになると、アルツハイマー病の患者に記憶力の低下といった認知症状が現れるようになります。

健康な人の場合、脳の中の老廃物は睡眠中に除去されますが、アルツハイマー病になると睡眠が妨げられるため睡眠不足に陥り、これがさらに症状の進行を加速させます。今回の研究は、この悪循環を断ち切る方法を模索する中で行われました。


この研究の中で、セントルイス・ワシントン大学医学部の研究チームは、認知障害のない45~65歳の被験者38人を募集し、睡眠薬を服用して2晩眠ってもらう実験を行いました。参加者は、不眠症の治療薬として一般的なスボレキサントかプラセボ薬を服用し、研究室内で眠りました。そして、研究チームは薬を投与する1時間前から36時間、2時間ごとに参加者の脳脊髄液を少量ずつ採取し、睡眠薬を服用して眠ることでアミロイドやタウタンパク質のレベルがどう変化するかを測定しました。

測定の結果、高用量のスボレキサントが投与された人の脳では、プラセボ薬を飲んだ人に比べてアミロイドのレベルが10~20%低下し、タウタンパク質の形態である過剰リン酸化タウタンパク質のレベルも10~15%低下していたことが分かりました。ただし、スボレキサントが低用量の人ではこの効果は見られませんでした。

1回目の投与から24時間が経過すると、高用量投与グループでも過剰リン酸化タウタンパク質のレベルが上昇していましたが、アミロイドのレベルは低いままでした。そして、2日目の晩に2回目のスボレキサントを投与すると、両方のタンパク質のレベルが再び低下したことが確かめられました。


セントルイス・ワシントン大学医学部のブレンダン・ルーシー氏は「毎日アミロイドのレベルを低下させることができれば、脳内のアミロイドプラークは時間とともに減っていくと考えられます。また、過剰リン酸化タウタンパク質は、アルツハイマー病の発症において非常に重要な物質であるため、もしタウタンパク質のリン酸化を抑えることができれば、潜在的にはタウタンパク質の絡まりも減って神経細胞が死ぬのを予防できるでしょう」と話しました。

今回の研究は被験者が38人と少なく、実験期間も2晩だけだったので、小規模な予備的研究と位置づけられています。また、アミロイドがアルツハイマー病の原因として有力視されるようになったきっかけとなる論文にねつ造疑惑があることなどから、「アミロイド仮説」には厳しい目が注がれるようになっている点にも注意が必要です。

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ルーシー氏は「この研究は小規模な概念実証試験なので、アルツハイマー病を心配する人がスボレキサントの服用を始める理由にするのは時期尚早でしょう。この睡眠薬の長期服用が認知機能低下を食い止めるのに有効かどうか、有効ならどの程度の用量がいいのかも分かっていません。それでも、この結果は非常に心強いものです。すでに安全性が証明されており入手も容易な薬が、今回の研究でアルツハイマー病の促進に重要なタンパク質のレベルに影響を与えるという証拠が得られたからです」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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