サイエンス

現存する「ベートーヴェンの髪の毛」のゲノム分析からベートーヴェンはB型肝炎で死亡した可能性が浮上する


ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは音楽史で最も重要な作曲家の1人であり、「交響曲第5番(運命)」「エリーゼのために」などの代表作で知られます。ケンブリッジ大学などの研究チームが、ベートーヴェンの髪の毛から採取したゲノムを分析した結果、ベートーヴェンの死因は「B型肝炎」だった可能性があると報告しました。

Genomic analyses of hair from Ludwig van Beethoven: Current Biology
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.02.041

Beethoven's DNA
https://www.cam.ac.uk/stories/beethovens-dna-reveals-health-and-family-history-clues

1st ever analysis of Beethoven's DNA sheds light on the mystery of his death | Live Science
https://www.livescience.com/1st-ever-analysis-of-beethovens-dna-sheds-light-on-the-mystery-of-his-death

1770年に現ドイツのボンで生まれたベートーヴェンは、20代半ばから難聴に苦しんでおり、40歳頃には完全に聴力を失ったとされています。また、生涯を通じて腹痛や下痢といった胃腸の問題に悩まされたほか、1821年には肝疾患の症状である黄疸の発作を経験しており、死後の解剖では重度の肝硬変が生じていたこともわかりました。

by Tim Green

研究チームはベートーヴェンの健康状態について調べるため、アメリカやヨーロッパに現存する「ベートーヴェンの毛髪」とされる8束のサンプルを調査しました。その結果、ドイツの作曲家であるフェルディナント・ヒラーが死後間もないベートーヴェンから切り取ったとされる毛髪など、少なくとも2束の毛髪がベートーヴェンのものではないことが判明。ヒラーが所持していた毛髪は、「ベートーヴェンは鉛中毒だった」と結論付けた過去の研究で分析されたものでしたが、これはアシュケナジム系ユダヤ人の女性の毛髪だったとのこと。

今回の分析により、8つの髪束のうち5つは1人のヨーロッパ人男性のものであり、これらの髪束がベートーヴェンのものであると特定されました。研究チームのメンバーであるサンノゼ州立大学のWilliam Meredith氏は、「『ヒラーの髪束』はベートーヴェンではなく女性に由来するものであると判明したため、この髪束だけに基づいた以前の分析はベートーヴェンに当てはまりません。鉛や鎮静剤、水銀をテストするための今後の研究は、ベートーヴェンのものだと認証されたサンプルに基づく必要があります」と述べました。

以下の画像は、分析によりベートーヴェンのものだと特定された5束の毛髪のうちの1つであり、最も保存状態がよかったため全ゲノム分析に用いられた「シュトゥンプフの髪束」です。


毛髪サンプルを基にベートーヴェンのゲノム分析を行ったところ、ベートーヴェンは肝疾患に関連する遺伝性ヘモクロマトーシスという遺伝性疾患のリスクが高いことが確認されました。このリスクはそれほど大きくないものの、ベートーヴェンがかなりのお酒好きであったことを考慮すると、アルコールの摂取が肝臓に悪影響を及ぼした可能性があるとのこと。

さらに、ベートーヴェンが死去する少なくとも数カ月前に、B型肝炎を引き起こすウイルスに感染していたことも明らかとなりました。研究チームのメンバーであり、マックス・プランク進化人類学研究所の遺伝学教授を務めるJohannes Krause氏は、「ベートーヴェンの死因を断定することはできませんが、少なくとも遺伝的リスクとB型肝炎ウイルスへの感染を確認することができました」と述べています。


研究チームは、長年にわたりベートーヴェンを苦しめた胃腸障害についても調査しましたが、小麦や大麦に含まれるグルテンに反応して下痢や腹痛が起きるセリアック病や、牛乳に含まれる乳糖を消化吸収できない乳糖不耐症のリスクは低いことが示されました。また、過敏性腸症候群(IBS)に対してある程度の遺伝的保護があることも確認されたため、ベートーヴェンの胃腸障害についての遺伝的説明はできないと研究チームは報告しました。

さらに研究チームは、ベートーヴェンの毛髪から採取したゲノムと、現存するベートーヴェンの親族のゲノムを比較する研究も行っています。その結果、現存する親族とベートーヴェンでは父方のY染色体が一致しなかったことも明らかになりました。つまり、ベートーヴェンの先祖のどこかで非嫡出子が生まれたことも示唆されたというわけです。

論文の筆頭著者であり、コロンビア大学の博士課程に在籍するTristan Begg氏は、「既知の病歴を考慮すると、ベートーヴェンのアルコール消費を含む3つの要因の組み合わせが協調して作用した可能性が高いですが、今後の研究では、各要因がどの程度関与していたかを明らかにする必要があります」「ベートーヴェンのゲノムを研究者に向けて公開し、さらに鑑定済みの毛髪を年代順に加えることで、ベートーヴェンの健康状態や家系に関する残された疑問が解決されることを願っています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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