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保険会社が「AIによる予測」を理由に高齢者への医療費の支払いを早々と打ち切るケースが社会問題に


アメリカでは、65歳以上の高齢者と65歳未満の障害者向けの公的医療保険プログラム「メディケア」が展開されており、その中に民間の医療保険会社を通じて在宅サービスや医療サービスの補助を受けられる「メディケア・アドバンテージ」というプランがあります。このメディケア・アドバンテージを提供している民間の医療保険会社が、AIによる予測分析を理由に医療費の支払いを打ち切ってしまうという事例が起こっていると報じられています。

How Medicare Advantage plans use AI to cut off care for seniors
https://www.statnews.com/2023/03/13/medicare-advantage-plans-denial-artificial-intelligence/

メディケア・アドバンケージは保険会社にサービスの拒否や制限の自由度を与えたものとなったため、保険会社にとっては非常に収益性の高い製品となりました。


この10年間で、患者がどれだけの治療を必要とするか、あるいはどの医師にかかるか、病院や老人ホームをいつ退院できるかをAIで予測する技術が開発され、これらの技術はメディケア・アドバンテージに不可欠なものとなっています。医療保険事業を手がける大手医療企業のCVS Healthは、ここ数年、AIによる予測技術を取り入れています。また、世界最大級のヘルスケア企業であるユナイテッド・ヘルスは、AIを利用して患者個人と医療をつなげる企業・naviHealthを約10億ドル(約1350億円)で買収しています。

しかし、保険会社がAIの予測を優先して患者本人の体調や治療状況を無視してしまう事態が起こっているそうです。


フランシス・ウォルターさんはウィスコンシン州に住む85歳の女性で、鎮痛剤にアレルギーを持っていましたが、2019年のある日左肩を骨折して老人ホームに入院することになりました。naviHealthのアルゴリズムは、ウォルターさんが16.6日で退院するだろうと予測しました。

ウォルターさんが加入しているメディケア・アドバンケージを提供する保険会社のSecurity Health Planは、naviHealthのアルゴリズムに従って、入院から17日目で介護医療費の支払いを打ち切りました。しかし、アレルギーで痛み止めの注射を打てないウォルターさんは、介護医療費の支払いから数週間にわたって激しい痛みを訴えており、1人では着替えやトイレどころか歩行補助器具を使うことすらできない状態となっていました。


医療ニュースメディアのSTATが入手した記録によると、ウォルターさんの介護医療費支払い拒否が出される2日前に、NaviHealthの医療ディレクターはアルゴリズムが推定滞在日数を16.6日と予測したことを理由に「ウォルターさんは十分に回復したため、もはやメディケアの適用基準を満たさない」と主張していたとのこと。


その後、裁判で「保険会社の判断はせいぜい推測の域を出ない」という判決が下り、保険会社からウォルターさんに20日以上の介護医療費として数千ドル(約数十万円)が支払われましたが、それはウォルターさんが退院してから1年後のことでした。

政府のデータベースによれば、2020年から2022年の間にメディケア・アドバンテージの医療費支払い拒否に異議を唱える訴訟の数が58%増加し、2022年だけで約15万件もあったそうです。これはあくまでも異議を唱えて裁判となった件数であり、泣き寝入りした患者を含めるとメディケア・アドバンテージの支払い拒否の事例数はもっとあると考えられます。

STATの取材によれば、医師や医療主任、病院の管理者は「従来のメディケアで日常的にカバーされていたケアについて、メディケア・アドバンテージの支払いが拒否されるケースが増えています」と述べているとのこと。保険会社は「支払い拒否の可能性がある場合は、患者のケアについて病院側と話し合います」と主張していますが、実際に保険会社の担当者と話し合った医療従事者の中には「説明しようとすると無表情な目で見つめられ、情報の共有を拒否されました」「保険会社からは『この患者にはもっと低レベルのケアでも十分管理可能でしょう』と言われました」と証言する人もいます。


naviHealthは、自社のアルゴリズムの性能を評価する科学的研究を発表しておらず、社内でその性能をテストした結果を公に共有していません。naviHealthの広報担当者は「naviHealthのアルゴリズムの適用範囲はメディケアの基準と患者の保険プランに基づいて決定されます。naviHealthの予測ツールは、患者が施設内と帰宅後の両方でどういった援助やケアを必要とする可能性があるかについて、家族やサービス提供者、その他の介護者に知らせるためのものとして使われており、保険の支払いを決定するために使用されてはいません」とコメントしています。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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