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「ソニーがインターネットの言論の自由をおびやかす法的攻撃を仕掛けてきた」とQuad9が主張


ソニーの音楽系事業を統括するソニー・ミュージックエンタテインメントのドイツ法人が、マルウェアに感染したウェブサイトへのアクセスをブロックする無償のDNSサービスである「Quad9」に対して訴訟を起こしました。ソニーはQuad9に対して「(ソニーが)著作権を侵害していると判断したファイルを含むサイトにリンクしているウェブサイトへのアクセスをブロックすること」を求めていますが、Quad9側は「ソニーの要求は本質的なコンテンツ検閲に相当し、欧州ひいては全世界における自由で開かれたインターネットの基盤に亀裂を入れる危険性がある」と主張しています。

Sony's Legal Attack on Quad9, Censorship, and Freedom of Speech | Quad9
https://www.quad9.net/news/blog/sony-s-legal-attack-on-quad9-censorship-and-freedom-of-speech/

Quad9は「リストに登録された悪意のあるウェブサイトをブロックする」という機能を提供するDNSリゾルバです。ドイツではこのようなDNSリゾルバが「海賊版サイトへアクセスする抜け道」になっていることが指摘されており、これをめぐりソニーはQuad9を訴えています。

ソニーミュージックが「海賊版配信サイトのブロック命令」を無料のDNSリゾルバに対して勝ち取る - GIGAZINE


Quad9はソニーの訴訟が「Quad9だけでなくインターネットを利用するすべてのユーザーに影響をおよぼす可能性がある」と主張しています。ソニーの訴訟の何が問題で、どのようにあらゆるインターネットユーザーに影響をおよぼす可能性があるとQuad9が主張しているのかは、以下の動画にまとめられています。

Sony vs Quad9: An Overview of the Pending Litigation - YouTube


インターネットは中立的で世界的に統一されたアーキテクチャにより構成されているおかげで、世界中の何十億人もの人々がさまざまな知識や情報に自由にアクセスすることを可能にしています。「インターネット上で公開されている情報は政府や大企業の影響を受けていないということが前提にある」とQuad9。


そんな既存のインターネットの大前提をソニーが脅かそうとしているとQuad9は主張しています。


Quad9はDNSリゾルバとして知られるサービスで、運営元であるQuad9 Foundationは公益性の高い非営利団体です。そのため、Quad9 Foundationは寄付金をベースにサービスを運営しており、Quad9を「中立的な自動標識のようなもの」と表現しています。


DNSリゾルバが実際にどのように機能するかというと、ユーザーがPCやスマートフォンといったデバイスを使ってウェブページにアクセスする際、デバイスはドメイン名を含むリクエストをDNSリゾルバに送信します。


このリクエストはインターネットサービスプロバイダー(ISP)を経由してDNSリゾルバに到達。リクエストに対してDNSリゾルバ側はウェブサイトのIPアドレスを返します。


ウェブサイトのIPアドレスを受け取ったユーザーは、これをウェブサイトをホストするサーバー側に送信。


こうしてユーザーはサーバー側からウェブサイトのデータを受信することが可能となり、ウェブサイトを開くことができるようになるわけです。


DNSリゾルバは既存のインターネットを形成する重要なインフラストラクチャーというわけですが、日常生活の中でインターネットを利用していてもこの存在に気づくことはありません。通常、ユーザーはインターネットプロバイダーが提供するデフォルトのDNSリゾルバを利用しますが、プライバシーに配慮するインターネットユーザーなどはQuad9のようなDNSリゾルバを利用します。


ソニーの訴えにより、Quad9はDNSによる名前解決で特定のウェブサイトをブロックせざるを得なくなりました。この特定のウェブサイトとは、「ソニーが著作権侵害につながると判断した情報が記載されるウェブサイト」です。


ソニーの音楽系事業を統括するソニー・ミュージックエンタテインメントはアメリカのニューヨークに拠点を置いています。一方で、Quad9はスイスのチューリッヒに拠点を置いている団体です。そして、ソニーは著作権侵害の訴訟をドイツのハンブルクで起こしています。ドイツで訴訟を起こした理由のひとつは「著作権紛争で原告に有利な判決を出すことで有名だから」だとQuad9は指摘しました。


プライバシーと人権の法的保護が強いハンブルク裁判所を、「ソニーは抜け穴として利用した」とQuad9は主張しています。加えて、「ソニーのQuad9への訴訟はあくまでテストケースです。ソニーの脅迫が成功すれば、インターネットの中心である自由な公共インフラ(DNSリゾルバ)に冷ややかな影響を与えることとなるでしょう」とも述べました。


ソニーの訴訟により、Quad9は2つの選択肢のいずれかを選択しなければいけなくなりました。ひとつは「ドイツから発信されたクエリを区別するために、高価で全体のパフォーマンス低下につながるような機能を実装する」で、もうひとつは「ソニーが著作権を侵害していると判断したウェブページをグローバルにブロックする」というものです。なお、いずれの選択肢も公的資源であるはずのDNSリゾルバを私的な利益を得るために利用する危険なアプローチであり、インターネットユーザーの不利益につながるものであるとQuad9は批判しています。2つ目のアプローチに至っては「世界的な市民権の侵害をさらに悪化させるものである」とQuad9は主張しました。


Quad9がもしもこれらの選択肢を採用せざるを得なくなれば、世界中の知的財産権所有者が「このウェブサイトをブロックしてほしい」と要求するようになることは明らか。そうなれば、Quad9以外のDNSリゾルバにも同様の要求が行われるようになり、サービスプロバイダー側は企業側の要請に応じてウェブサイトをブロックせざるを得なくなり、最終的に自由で制限のない既存のインターネットが不自由かつ制限ばかりの窮屈なものになってしまうとQuad9は指摘。そして、今回の訴訟でソニー側の主張が通ってしまえば、このインターネットディストピアへの道を開くことにつながってしまうと、Quad9は主張しています。


これを避けるために、ドイツの市民権協会やその他の団体はソニーの訴訟からQuad9を守るための法的・財政的支援を実施しています。これらの団体以外でも、Quad9を支援することが可能。具体的には、動画を再生していいねを押したり、Quad9が直面している状況を他人に説明したりすることが、Quad9のサポートにつながると説明されています。


なお、Quad9は公式サイト上で寄付金を募っており、以下のリンクから誰でも寄付することが可能です。

Donate | Quad9
https://www.quad9.net/donate/

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in 動画, Posted by logu_ii

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