サイエンス

スポーツカーの10倍もの加速度でおしっこを射出する「超高速スナイパー虫」が見つかる


1cm程度しかない小さな昆虫が、「超推力」という原理により尿の水滴を高速ではじき飛ばす仕組みを持っていることを突き止めた論文が、2023年2月28日付の学術誌・Nature Communicationsに掲載されました。流体力学に基づき効率的に水をはじくメカニズムを応用すれば、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスがスピーカーの振動で水をはじき出す防水機能などが実現するのではと期待されています。

Droplet superpropulsion in an energetically constrained insect | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-36376-5

Super-fast Insect Urination Powered by the Physics of Superpropulsion | Research
https://research.gatech.edu/super-fast-insect-urination-powered-physics-superpropulsion

Insect that flings pee with a butt catapult is 1st known example of 'superpropulsion' | Live Science
https://www.livescience.com/insect-that-flings-pee-with-a-butt-catapult-is-1st-known-example-of-superpropulsion-in-nature

ジョージア工科大学の化学・生体分子工学部助教授であるSaad Bhamla氏が、「Glassy-winged sharpshooter(ガラス状の羽を持つ狙撃手)」との名前で知られているHomalodisca vitripennisという昆虫に注目するきっかけになったのは、Bhamla氏が裏庭にいた時のことです。このsharpshooter(ヨコバイ)の一種は、尾から出した尿で水滴を作ったかと思うと、消えたかのように見えるほどのスピードで水滴を射出しました。

以下のムービーを再生すると、ヨコバイが高速で尿の水滴を飛ばしている様子を見ることができます。

Super-Fast Insect Urination - YouTube


緑色の支柱に止まっている2匹の虫が、今回の研究対象になったHomalodisca vitripennisです。指先をよける時など、足で動く際に横向きにずれるように移動することから日本ではヨコバイと呼ばれています。


研究者が注目したのは、排尿のスピードです。肉眼だと、尾にできた水滴が一瞬で消えたようにしか見えません。


一体何が起きているのか確認するため、Bhamla氏らの研究チームはハイスピードカメラと顕微鏡を使って昆虫の尾を観察しました。


その結果、ヨコバイはBhamla氏が「お尻フリッカー(butt flicker)」と呼び、論文では「アナルスタイラス(anal stylus)」と表記されるバネのような機構を使って、液滴をカタパルトのように射出していることが分かりました。スタイラスは40G以上の加速が可能で、これは最速のスポーツカーの10倍に相当すると研究チームは述べています。


しかも、研究チームがスタイラスと液滴のスピードを計測したところ、液滴はスタイラスが動く速度の1.4倍に加速されていることも分かりました。これは、ヨコバイが「超推力」という仕組みを利用しているからではないかと研究チームは考えています。


「超推力」とは、水泳の飛び込みの選手が板のしなりで弾みをつけて高くジャンプするように、弾性のある物体が圧縮されるタイミングと発射のタイミングが一致することでエネルギーが増幅される現象のこと。これまでは人工的なシステムでのみ示されており、自然界でこの原理が使われているのは確認されていなかったそうです。

ヨコバイがなぜこれほどの速度で排尿するのかはまだ完全には解明されていませんが、研究チームはエネルギー効率のためではないかと推測しています。ヨコバイのエサは植物の汁ですが、ほとんど水分なのでヨコバイは1日に体重の300倍もの汁を吸わなければなりません。たくさん飲む分たくさん出すことになりますが、ヨコバイの尿は99%が水分なので、排出するにも効率が求められます。

さらに観察を続けたところ、ヨコバイはスタイラスで液滴を圧縮し、表面張力によってエネルギーを蓄積させていることが分かりました。そこで、研究チームがオーディオスピーカーの上に液滴を垂らし、振動を加えて高速で水滴を圧縮する実験を行ったところ、実際に水滴が持つ表面張力でエネルギーが蓄えられ、タイミングを合わせることにより高速で水滴を打ち出すことができることが確かめられました。


樹液などをエサにしている他の昆虫は大量の水分を尾から噴射して排出しますが、研究チームの計算によると、ヨコバイのように水をはじく方法は水を噴出する方法の4分の1から8分の1程度のエネルギーしかからないとのこと。

ヨコバイが超推力で水を射出する仕組みは、低エネルギーで水をはじく製品に応用できる可能性があります。一例としては、スピーカーの振動を利用して水をはじくスマートウォッチなどが考えられます。また、ソフトロボットの動力として活用できるかもしれません。


研究費の一部を出資したアメリカ国立科学財団のミリアム・アシュレイ・ロス氏は、「この研究は風変わりで難解に思えるかもしれませんが、こうした研究により、人間が通常ではまねできないスケールでの物理プロセスに対する洞察を得ることができます。今回判明した、小さな昆虫が進化させた効率的な仕組みは、電子機器などの微細製造アプリケーションから溶剤を除去したり、複雑な構造を持つ物体の表面から素早く水を排出したりするソリューションにつながる可能性があります」と話しました。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by log1l_ks

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