メモ

「あなたの過去を消去します」デジタルタトゥー削除をうたう企業が行ってきた非倫理的・欺瞞的手法がリークにより明らかに


「あなたの過去を消去します」というキャッチフレーズのもと、インターネット上に残るデジタルタトゥーの削除サービスを提供する企業が「Eliminalia」です。同社による非倫理的あるいは欺瞞的なデジタルタトゥー削除手法の実態を、The GuardianやThe Washington Postが報じています。

The Spanish firm that uses dubious methods to ‘erase your past’ from the internet | Spain | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2023/feb/17/spanish-firm-erase-past-internet-eliminalia-web

The Gravediggers: How Eliminalia, a Spanish reputation management firm, buries the truth • Forbidden Stories
https://forbiddenstories.org/story-killers/the-gravediggers-eliminalia/

Story Killers: Eliminalia created fake news, bogus legal complaints - Washington Post
https://www.washingtonpost.com/investigations/interactive/2023/eliminalia-fake-news-misinformation/

Spyware, fake news and more feature in investigation of reputation management firm - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/politics/2023/02/17/spyware-fake-news-more-feature-investigation-reputation-management-firm/

デジタルタトゥーの削除をうたうスペイン企業のEliminaliaは、「記事、ブログ、ソーシャルメディアの投稿、間違った身元情報など、すべての情報をインターネット全体で徹底的に検索し、見つかった情報のうち『否定的な情報』を顧客に代わり削除するようプロバイダーに求める」というサービスを展開しています。


しかし、The GuardianによるとEliminaliaは過去数年にわたり非倫理的あるいは欺瞞的な方法で、インターネット上から顧客にとって不利になるコンテンツを削除してきたそうです。具体的には、「特定の情報を削除するためにメディア組織などの第三者になりすましてGoogleなどの検索エンジンに偽の著作権侵害の申し立てを行う」や「無関係の記事を大量に投稿することで、顧客にとって不利な情報が書かれた記事を埋もれさせてしまう」といった戦略がとられています。

Eliminaliaのデジタルタトゥー削除サービスの実態は、同社の5万点もの社内文書をフランスの非営利団体であるForbidden Storiesが独自に入手し、これをThe GuardianやThe Washington Postが報じたことで明らかになっています。Eliminaliaの顧客のほとんどは過去の恥ずかしい出来事やトラウマ的な出来事をインターネット上から消すためにサービスを利用していますが、麻薬密売業者や詐欺師、軽犯罪者、性犯罪者などの犯罪者が同サービスを利用していたことも確認できたそうです。

なお、Eliminaliaのウェブサイトには、主にEUの「忘れられる権利」を駆使してサービスを展開していると記されています。


2013年、当時30歳のDiego “Didac” Sanchez氏により設立されたのがEliminaliaで、同社はこれまでに50カ国にわたり顧客を抱えています。リークされた社内文書から、2015年から2021年まで7年間で1500以上の個人・団体が同社にインターネット上の特定の情報を削除するよう依頼したことが判明しました。リークされた社内文書には、顧客とのメール・契約書・顧客の個人情報・偽の法的文書・削除依頼された情報のコピーなどが含まれているため、取引の詳細などが明らかになっています。

Eliminaliaのサービスを利用した顧客には、「マネーロンダリング規制に違反したとして訴えられたスイスの銀行」「数十件の犯罪で有罪判決を受けた人物」「ビジネス仲間を殺害するために暗殺者を雇ったとして起訴されたトルコのバイオテクノロジー業界の大物」などが含まれている模様。

Eliminaliaがサービス料金として請求した金額は、基本的には数千ドル(数十万円)程度ですが、中には10万ユーロ(約1400万円)にものぼる取引が行われたこともあるそうです。

Eliminaliaのサービスを利用したことがあるというエルナン・ガブリエル・ウェストマン氏は、2017年にアルゼンチン当局から「麻薬カルテルのためにマネーロンダリングを行った」として起訴されたという人物。同氏に対する訴訟は証拠不十分で取り下げられることとなったのですが、アルゼンチン国外での同氏に関する報道内容が不正確であったため、ウェストマン氏はEliminaliaのサービスを利用して不適切な情報の削除を図ったとThe Washington Postに語りました。

なお、ウェストマン氏についてインターネット上で調べると、マネーロンダリングなどの情報よりも先に「アメリカンフットボールのルール」「日常生活に哲学を応用する方法」「チワワの生来の傲慢さ」といった記事が表示されるようになっています。ウェストマン氏はEliminaliaがどのようにしてインターネット上の記事を削除し、同氏にとって不適切な情報がインターネット上で埋もれるように細工されているのかには全く把握していなかったとThe Washington Postは報じています


スウェーデンの非営利団体であるQuriumは、Eliminaliaのようなデジタルタトゥー削除サービスを展開する企業が「顧客にとって不利な情報を埋もれさせるために使うスパム記事」をホストするために運用している600ものウェブサイトを特定しています。多くの場合、スパム記事に使用されるのは犬・車・スポーツを題材とした記事だそうです。

スパム記事の内容は信頼性を高めるために、本物のニュース記事などの中身を活用しています。これらのスパムサイトは大量のコンテンツを作成し、慎重に見出しを作成することで、検索エンジンのアルゴリズムをだまして検索結果の上位にスパム記事が表示されるように仕組んでいる模様。これにより、デジタルタトゥー削除サービスは顧客にとって不利な内容の記事が検索結果の後ろの方に表示されるよう細工するわけです。

The GuardianがEliminaliaの顧客のひとりである犯罪者について検索すると、犯罪関連の情報は検索結果の5ページ目まで表示されなかったそうです。


また、Eliminaliaは知的財産の保護を目的としたアメリカの法律であるデジタルミレニアム著作権法(DMCA)を悪用していることも明らかになっています。

DMCAは、検索エンジンに対して「企業や個人が盗まれたコンテンツを削除できるような手段を提供するように」と義務付けています。そのため、Googleでは著作権侵害の申し立てを行うユーザーに対して、偽証罪の罰則を理解しているかを確認するよう促し、このチェックボックスにチェックを入れた場合に著作権侵害の申し立てを行うことが可能となっています。しかし、この著作権侵害の申し立てには「証拠を提出する必要がない」という問題点がある模様。

Eliminaliaはこれを悪用し、Googleを含む検索エンジンに対して欺瞞的な著作権侵害の申し立てを行っているとのこと。具体的には、Eliminaliaは正当なメディア企業からの著作権侵害の申し立てであるかのように見せかけるケースがあったそうです。ある事例では、Eliminaliaはイタリアの新聞「La Repubblica」の代表者であると偽って著作権侵害の申し立てを行っています。なお、La Repubblicaはそのような著作権侵害の申し立てを行ったことは一度もないとThe Guardianにコメントしています。

別の事例では、EliminaliaはBloombergになりすまし、「Business Timesが弊社(Bloomberg)のニュース記事を盗用した」としてスイスの銀行によるマネーロンダリングの記事を削除するようGoogleに申し立てを行っています。

The GuardianはEliminaliaによる数々の不正な削除申し立てについてGoogleに問い合わせたところ、広報担当者から「Googleは自動審査と人力審査を組み合わせることで、不正な削除申請に積極的に対処しています。要求者の責任を保持するため、削除に関する広範な透明性を提供し、サイトのコンテンツが誤って検索結果から削除されたと思われる場合には、再審査のために異議申し立てを提出することができるようにしています」という返答があったそうです。

2023年初頭にEliminaliaはその名前を「iData Protection」に変更していますが、今回のリークに伴い世界中のメディアがEliminaliaのこれまでの所業について報じているため、「今回の出来事はインターネット上からそう簡単に消せないでしょう」とThe Guardianは指摘しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
Googleに「忘れられる権利」を申請し個人情報を削除するフォームの使い方 - GIGAZINE

「忘れられる権利」による記事リンク削除と「知る権利」の難しいバランスとは - GIGAZINE

Googleが「忘れられる権利」で受けた削除依頼の内容や削除数の多かったサイトを公開 - GIGAZINE

「忘れられる権利」によるGoogle検索結果の削除依頼でわかる傾向とは - GIGAZINE

Googleは検索結果が「不正確」なら削除しなければならないとの判決、「忘れられる権利」拡張へ - GIGAZINE

in メモ, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.