サイエンス

飲むと精子が一時的に動かなくなる「即効性のある男性用避妊薬」が開発される


女性向けの一時的な避妊法は経口避妊薬(ピル)・子宮内避妊具(IUD)・緊急避妊ピル(アフターピル)などがある一方、男性向けだと実質的にコンドームしか選択肢がありませんでした。ところが近年では男性用避妊薬の開発が進められており、新たに科学誌のネイチャー コミュニケーションズに掲載された論文では、「飲むと一時的に精子が動かなくなる男性用避妊薬」の効果がマウス実験で確認されたとのことです。

On-demand male contraception via acute inhibition of soluble adenylyl cyclase | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-023-36119-6

'On Demand' Male Contraceptive Pill Could Switch Your Sperm Off For a Day : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/on-demand-male-contraceptive-pill-could-switch-your-sperm-off-for-a-day

男性向けの避妊法としては、コンドーム以外にも精管を切除するパイプカットという選択肢も存在しますが、パイプカットは手術が必要であり、一定期間後に再び生殖能力を回復させることが困難です。一時的な避妊法の選択肢が女性においてのみ豊富であることは、避妊に伴う負担を女性側が過剰に負うこととなるため問題です。

そこでアメリカ・ワイルコーネル医科大学の薬理学研究者であるMelanie Balbach氏の研究チームは、新たな男性用避妊薬の開発を行いました。研究チームが開発した男性用避妊薬は、哺乳類の精子の運動性において重要な役割を果たす「Soluble adenylyl cyclase(可溶性アデニル酸シクラーゼ)」という酵素を標的としています。可溶性アデニル酸シクラーゼは精子の「オンスイッチ」として機能するため、阻害されると精子が動けなくなるとのこと。

研究チームはマウスを対象にしていくつかの実験を行い、急性作用型の可溶性アデニル酸シクラーゼ阻害剤を投与すると、マウスの精子が30分~1時間ほどで動かなくなることを確認しました。また、投与から最初の2時間は100%の避妊効果があり、3時間後には避妊効果が91%まで低下し、24時間後には精子が元通り動くようになったとのことです。


開発中の男性用避妊薬の多くはホルモンを標的にしたものであり、精巣における精子の産生をブロックする効果が出るまで継続的に服用する必要があり、服用を止めてもしばらくは生殖能力が戻りません。しかし、精子の運動性を標的にする今回のアプローチは、服用から1時間以内に効果が出る急性作用型であり、1日後には効果が消えるという点が特徴です。

また、可溶性アデニリルシクラーゼが慢性的に阻害されている不妊症の男性では、腎臓結石の発生率が高いことが報告されていますが、急性作用型であればこの副作用が生じる可能性も低いとのこと。


しかし、今回の研究はあくまでマウスでの実験結果を基にしており、異なる解剖学的特徴を持つ人間では異なる結果が出る可能性もあります。研究チームは3年以内に人間を対象にした臨床試験を開始する予定だそうで、論文の共著者であるワイルコーネル医科大学のJochen Buck氏は、男性用避妊薬の製品化は最長で8年後になる見込みだと述べました。

イギリスのアングリア・ラスキン大学で避妊について研究するSusan Walker氏は、今回開発された男性用避妊薬が実際に市場に出回るかどうかは不透明だと指摘。その上で、急性作用型の男性用避妊薬が実用化されれば、パートナーが避妊薬を飲むところを女性が確認できるようになるため、大きな利点があると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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