サイエンス

「抗うつ薬」が薬剤耐性菌を生み出してしまう危険性があることが実験で示される


けがや感染症など、抗生物質は細菌を殺して病気を予防するのに広く使われていますが、乱用や不適切な服用により抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が発生してしまうことが問題となっています。さらに、抗うつ薬のような抗生物質以外の薬でも、細菌が薬物耐性を獲得してしまうおそれがあることが新しい研究により発見されました。

How antidepressants help bacteria resist antibiotics
https://doi.org/10.1038/d41586-023-00186-y

薬剤耐性菌は2019年だけで120万人の命を奪っていることが分かっているほか、犠牲者は今後さらに増えると予測されており、抗生物質が効かない薬剤耐性菌は世界的な脅威となりつつあります。一方、抗うつ薬は医薬品市場でのシェア率が4.8%と抗生物質の5%に匹敵し、アメリカだけで年間1万6850kgも消費されるなど抗生物質に並んで多用される傾向がありますが、抗うつ薬が薬剤耐性にどのように寄与するかはほとんど関心を払われてきませんでした。


そこで、クイーンズランド大学オーストラリア水環境バイオテクノロジーセンターの主任研究員であるJianhua Guo氏らのチームは、大腸菌を培養して抗うつ薬を投与し、菌がどのように薬剤耐性を獲得するのかを調べる実験を行いました。

研究チームは、抗うつ薬のフルオキセチン、商品名「プロザック」が複数の抗生物質への耐性を引き起こすことを以前の研究で発見していますが、今回はさらに5種類の抗うつ薬を追加して、13種類の抗生物質を用いてその影響を検証しました。

この実験で、研究者らが酸素が豊富な環境で繁殖した細菌に抗うつ薬を投与すると、「活性酸素種(ROS)」と呼ばれる、細菌の防御システムを活性化する物質が作られることが分かりました。ROSは、細菌が有害物質を排除したり抗生物質への耐性を獲得したりする際にも用いられるため、特定の薬剤耐性遺伝子を持っていないはずの大腸菌でも抗生物質に耐えられるようになったのはこれが理由ではないかと推測されています。

Guo氏らはさらに、一部の抗うつ薬にさらされると大腸菌が突然変異を起こす確率が上昇するほか、変異の際に耐性に関連する遺伝子が選択されるようになり、耐性の獲得が加速されることを突き止めました。また、ジェイゾロフトなどの商品名で呼ばれている抗うつ薬のセルトラリンが投与されると、細菌の間での遺伝子の移動が活発化され、これが薬剤耐性の広がりを促進することも判明しています。

Guo氏は「細菌は薬にたった数日間さらされただけでも薬剤耐性を獲得し、複数の抗生物質に耐えられるようになります。これは興味深いのと同時に、恐ろしいことでもあります」と話しました。


ドイツのテュービンゲン大学で薬とマイクロバイオームの相互作用について研究しているリサ・マイヤー氏によると、健康な人の体内では大腸菌は主に大腸にしか存在せず、腸内は嫌気性条件、つまり酸素がほとんどない環境なので、人体では今回の実験が再現されない可能性があるとのこと。しかし、抗うつ薬やその他の非抗生物質が細菌に変化をもたらすとの研究が他にも複数報告されており、予備的な研究では、医薬品が服用者のマイクロバイオームに与える変化についての手がかりも示されています。

とはいえ、今回の研究結果を見て抗うつ薬の服用をやめてしまうべきではないと、研究者らは警鐘を鳴らしています。マイヤー氏は「もしうつ病を患っている場合は、最善の方法で治療される必要があります。細菌の心配はその次です」と話しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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