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普通のスマホが衛星電話になれる時代が到来しつつある


人工衛星と直接通信することで既存の通信ネットワークでは通信不可能な地域でも快適な通信が可能になるという衛星通信サービスが、一般のスマートフォンでも利用できるくらいに普及するための土台が整いつつあると、技術標準化機関であるアメリカ電気電子学会(IEEE)の発行する雑誌・IEEE Spectrumがまとめています。

Your Cellphone Will Be a Satphone - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/satellite-cellphone

衛星通信サービスが1990年代後半に登場した際、利用には大型で高価な専用端末を用意する必要がありました。しかし、記事作成時点ではこのような巨大な専用端末は必要なくなっています。


2022年後半、HuaweiとAppleは衛星通信サービスに対応した端末をリリース。Huaweiは衛星通信サービスの提供開始時期を明らかにしていませんが、Appleは独自の衛星通信サービスを展開しているGlobalstarと提携して「人工衛星経由の緊急SOSサービス」を2022年11月から提供しています。また、2022年12月にはサービスの提供エリアを拡大しました。

Appleが「人工衛星経由の緊急SOSサービス」の提供エリアを2022年12月に拡大予定 - GIGAZINE


また、SpaceXの提供する衛星インターネットサービス・Starlink以外にも、AST SpaceMobileやLynk Globalといった企業が、低軌道(LEO)人工衛星を用いた衛星ネットワークの構築に取り組んでいます。

世界初の5Gネットワーク用の基地局を宇宙に打ち上げることで携帯電話向けに衛星5G通信サービスを提供することを計画しているLynk Globalは、2023年に独自のサービスを商用運用開始する予定で、すでに23の通信プロバイダーと契約を結んでいます。AST SpaceMobileは、2022年9月に衛星5G通信サービス構築のためのテストとして人工衛星を打ち上げました。

さらに、2022年8月にはT-MobileとSpaceXが提携し、T-Mobileのスマートフォンを衛星通信サービスのStarlinkに接続する計画「Coverage Above and Beyond」を発表しており、各社がより便利な衛星通信サービスを確立するためにしのぎを削っています。

SpaceXとT-Mobileが携帯電話とStarlinkの衛星を直接通信可能にする計画を発表 - GIGAZINE

by Official SpaceX Photos

ただし、衛星通信サービスはどれもそれほど洗練されたものではないとIEEE Spectrumは指摘しています。AppleとHuaweiの衛星通信サービスは、どちらも最初は高軌道上の人工衛星に接続するものとなるため、接続を確立するのに10分以上かかるケースがあるという欠点があります。Lynk GlobalなどのLEOを用いた衛星通信サービスは、テキストメッセージを送信できることをアピールしていますが、音声通話やビデオ通話に必要な広帯域データストリーミングにはまだ対応できているとは言い難い状況。

それでも複数の企業が通信衛星サービスの構築に取り組んでおり、同市場の未来は明るいと言えます。衛星通信サービスが発展しつつある理由として、IEEE Spectrumは「人工衛星の製造コストの低下」と「人工衛星のサイズ縮小」の2点を挙げています。コストの低下により人工衛星の運用数は格段に増えてきており、既に衛星インターネットサービスを展開しているSpaceXは記事作成時点で3500基もの人工衛星を打ち上げているだけでなく、さらに7500基の打ち上げ許可まで得ています。

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また、人工衛星のコスト低下により、地上のカバー範囲が少ない低軌道上に人工衛星を配置することも可能となっています。地上のカバー範囲の狭さを人工衛星の数でカバーしているわけです。

さらに、人工衛星に搭載される通信用のチップは、広範囲の異なる波長を送受信するには別個のハードウェアを必要としていましたが、デジタル信号処理技術の発展により複雑な作業を通信チップ上で処理することが可能となっています。これにより、人工衛星はアンテナ機能をより少ないスペースに詰め込むことができるようになり、人工衛星の小型化が実現しています。

それでも周回軌道上の人工衛星と地上の端末が通信するには信号の遅延という大きな障害が立ちふさがるため、携帯電話を地上の基地局ではなく人工衛星と通信させることはまだまだ難しいそうです。AST SpaceMobileの最高戦略責任者であるScott Wisniewski氏は、「電話は5~10ミリ秒程度の時間同期をベースに構築されています。そのため、4分の1マイル(約400メートル)離れた基地局との通信なら問題ありませんが、低軌道上の衛星との通信では上手く機能しなくなります」と言及。ただし、AST SpaceMobileはノキアや楽天と協力して衛星信号をより長く待つ方法をコアネットワークに伝えるためのハードウェアソリューションを開発しているそうです。

Wisniewski氏は「これまでネットワークオペレーター(MNO)は『これはどうして可能なんですか?』と尋ねてきましたが、最近は『これをどのようにすれば最適に使用できるかや、いつ使用できるか、各市場に最適な市場戦略は何か』というより具体的なことを尋ねてくるようになりました」と語り、市場における反応も変わりつつあることを明かしています。

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in モバイル, Posted by logu_ii

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