サイエンス

殺虫剤に強い耐性を持ちながら伝染病を媒介する「スーパー蚊」が生まれつつある


蚊は「人間の命を最も多く奪った生き物」といわれるように、さまざまな伝染病を媒介する虫として知られています。日本の国立感染研究所の研究チームが、ベトナムとカンボジアのデング熱流行地域で、一般的な殺虫剤に対する強い耐性を持つ突然変異が現地の蚊にみられると報告しています。

Discovery of super–insecticide-resistant dengue mosquitoes in Asia: Threats of concomitant knockdown resistance mutations | Science Advances
https://doi.org/10.1126/sciadv.abq7345

'Super' mosquitoes have now mutated to withstand insecticides, scientists say - ABC News
https://abcnews.go.com/International/super-mosquitoes-now-mutated-withstand-insecticides-scientists/story?id=95545825

ネッタイシマカはデング熱を引き起こすデングウイルスや黄熱ウイルス、ジカウイルスなどの主要な媒介者として知られています。このネッタイシマカを駆逐するべく、現地では「ピレスロイド」と呼ばれる殺虫剤が使われています。

ピレスロイドは蚊などの昆虫類や両生類の神経細胞に作用し、神経細胞膜で行われる活動電位に異常を起こすことで蚊を殺傷する神経毒の一種です。ピレスロイドは哺乳類や鳥類への影響は少ないことから蚊を駆除するための殺虫剤として多く使われているほか、除虫菊から抽出される殺虫成分「ピレトリン」を主成分としており、日本ではおなじみの蚊取り線香にも含まれています。


論文によれば、ピレスロイドへの耐性はピレスロイドの分子標的をコードするVgsc遺伝子に表れる変異によって生じるとのこと。研究チームは、発見したネッタイシマカの亜株10株の中で、「L982W」と呼ばれるVgsc遺伝子変異をもつ株がピレスロイド系殺虫剤のペルメトリンに対する高い耐性を示していると報告しています。

研究チームによると、ベトナムで採集された蚊の79%以上にL982W変異が見られたとのこと。さらに、カンボジアの蚊にいたってはL982Wと他のVgsc遺伝子変異の組み合わせによって「極度の」ピレスロイド耐性が示されたそうです。

L982Wの遺伝子変異はベトナムとカンボジア以外では検出されていないそうですが、研究チームはアジアの他の地域にも徐々に広がっている可能性があると考えており、今回の発見は感染症対策や撲滅プログラムに深刻な脅威を与える可能性があると述べています。


国立感染研究所昆虫医科学部の葛西真治部長は「私たちが普段使用している殺虫剤が蚊に対して有効でない可能性があることを認識しておくことが重要です。そして、L982Wのような変異型が世界的に広がる前に適切な対策を講じるために、特に東南アジアで監視を続ける必要があります」と述べています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1i_yk

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