セキュリティ

ロシアの検閲の標的になってしまったらどうなるのか?VPNサービスと政府とのいたちごっこの実情が明かされる


ロシア政府は2019年に「国内のネットワークをインターネットから切り離す実験」に成功していたり、ウクライナへの侵攻を開始して以降はSNSやニュースサービスへのアクセスを遮断していたりと、インターネットの規制・監視を強めて自由なアクセスを制限しています。そのような政府からの検閲を回避して自由なインターネットアクセスを提供するProtonの激しい戦いについて、ニューヨークタイムズ誌がまとめています。

Censorship is ramping up globally and we must all push back if we are to win this fight. We can choose the internet we want by taking privacy seriously today. Thanks @satariano @paulmozur @nytimes https://t.co/45rg7XCRx2 pic.twitter.com/YFodd3wGOi

— Proton VPN (@ProtonVPN)


Inside the Face-Off Between Russia and a Small Internet Access Firm - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/12/06/technology/russia-internet-proton-vpn.html

自由なインターネットアクセスへの規制が進むロシアでは、政府による遮断や検閲の影響を受けないネットワークを国内に構築していたり、秘匿性の高いメッセージアプリを応用して検閲を回避するシステムが運営されていたりと、自由なインターネットを取り戻す動きが見られています。

インターネット検閲が進むロシアで検閲回避ネットワークを構築する動きが進んでいる - GIGAZINE


スイスのジュネーブを拠点とするProtonは、インターネットにアクセスする際に、個人の身元とアクセス元をオンライン上で隠すソフトウェアを無料で提供しています。これにより、ロシアのユーザーはオランダや日本、アメリカからログインしているように偽装することで、国内からのアクセス規制を回避してオープンなアクセスが可能になっています。2022年3月にロシアがデジタルバリケードを建設してから数週間で、Protonの日々の利用者は、ロシア国内だけで2万5000人程度から約85万人まで増加したそうです。


しかし、そのようなProtonの好調は、2022年3月末にロシア政府がProtonをブロックする方法を発見したことで終了します。Protonで働く25人のエンジニアチームは、9カ月間にわたってロシア政府からの圧力を受け続け、ブロックを回避するために繰り返し微調整したものの、そのすべてが政府の検閲によって反撃されました。その後は、Protonが修正してサービスを継続すると、ロシア政府がさらなる検閲の策を講じてくるなど、いわゆるいたちごっこの戦いが続くことになりました。

自由を守るために活動する国際NGOのフリーダム・ハウスで技術アナリストを務めるグラント・ベイカー氏は、「デジタル検閲との戦いは『変曲点』に達しています」と語っています。フリーダム・ハウスのレポートによると、世界のインターネットの自由度は12年連続で低下しており、インターネット検閲は2022年に最高値に達したと報告されています。

Protonの創設者でありCEOのアンディ・イェン氏は、「ロシアや他の場所で政府の検閲がますます洗練され、市民がオープンWebに到達するのを妨げていることについて、意識を高めたいと考えています」と語り、政府によるインターネット検閲と戦う意志を示しています。2022年6月には、Protonはロシアのインターネット規制当局から脅威と見なされるようになり、イェン氏は「長期戦に向けて準備を進めています。誰もが、この戦いがハッピーエンドになることを望んでいますが、それは保証されていません。実際、トンネルの終わりに光は見えませんが、私たちがそれをしなければ、他の誰も行動しないかもしれないので、進み続けます」と述べています。

インターネット接続を暗号化するVirtual Private Network(VPN)はロシアでの需要が急増しており、2022年3月のダウンロード数は前月比で約2.7%増加したと言われています。それ以降、ニュースを読んだり写真を投稿したりするだけでもVPNを開く必要があるなど、VPNは日常的なものとなったそうです。国際的な人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチの元事務局長であるケネス・ロス氏によると、ロシアの人口における4分の1が検閲を回避するためVPNを利用しており、それゆえにロシア政府はVPNを提供する企業を脅威と見なしています。

As Putin’s censors try to prevent the Russian people from learning about how badly the war in Ukraine is going, a quarter of the population has turned to VPNs to circumvent the censors, so now the censors are attacking the VPNs. https://t.co/q118Oec28C

— Kenneth Roth (@KenRoth)


Protonもそのような社会の中でVPNを提供する会社として高い人気を得ていましたが、2022年3月末に最初の検閲によるブロックを受けました。この時、エンジニアはすぐにシステムを回復させましたが、「より強力な検閲が迫っていると考えました」と話しています。イェン氏によると、政府、電気通信会社、市民社会グループ内の人々のネットワークが、Protonのロシアでの活動を助け、地元のネットワークへのアクセスを提供し、検閲システムがどのように機能するかについての情報を共有していたそうです。しかし、政府の取り締まりが強化されるにつれてそれらのつながりは暗転し始め、「スパイ対スパイ」のような構図になったとイェン氏は語っています。


そして6月になると、Protonはロシア国内で1日あたり140万人以上のユーザーを抱えていましたが、再びの政府からの検閲を受けて突然サービスをダウンさせました。Protonは「ロシア政府が、ユーザーがProtonのVPNサービスに接続しようとしたことを特定できる、より洗練されたフィルタリングソフトウェアを導入した」と結論付けたとのこと。この検閲により、Protonにはロシアのユーザーからの苦情が殺到したほか、アプリストアでの否定的なレビューが不審なレベルで急増し、検索ランキングなどが大きく低下していったそうです。

「ロシア政府は明らかに私たちを研究していました」とProtonでVPNプロジェクトに取り組むエンジニアのアントニオ・チェサンドロ氏は述べています。Protonは検閲を受けた後の約2週間で、インターネットトラフィックをさまざまな地域のサーバーに送る別の複雑な回避策を作成し、ブロックに対抗しました。その修正は6週間機能した後に、ロシアの検閲官が作成したさらに精巧な検閲システムにより、Protonのサービスは本質的に使用できなくなりました。

再度のブロックを受けた翌月の8月までに24時間体勢で作業したものの、結果としてProtonは敗北を認め、ロシアからVPNに関するアプリを削除しました。しかしその後もProtonはVPNサービスを識別しにくくする新しい仕組みの開発に数カ月を費やし、イラン国内でのテストに成功したり、ロシアでも再導入されたりと、Proton製VPNの使用が再び増加しています。


イェン氏は「新しいシステムによるVPNアプリの再導入も、おそらくは長期的な解決策ではなかったと思います。私は新しい技術に自信を持っていますが、ロシアの技術者は最終的に抵抗するための新しい方法を見つけ出し、ゲームはここからも続くと考えています」と述べています。

またProtonは、VPNによる規制回避や暗号化したインターネット接続だけではなく、2022年12月には暗号化クラウドストレージのサービス「Proton Drive」をスタートしました。Proton Driveはエンドツーエンドの暗号化により、共有ファイルを安全に目的の相手とのみ共有できるようになっているとのことで、イェン氏はProton Driveのプレスリリースで「Proton Driveは、プライバシーツールを使いやすく、自由に利用できるようにするという、Protonの使命と一致しています」と新しい取り組みについて語っています。

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in ソフトウェア,   ネットサービス,   セキュリティ, Posted by log1e_dh

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