サイエンス

「冬になると風邪やインフルエンザが流行する理由」が新たな研究によって明らかに


冬になると風邪やインフルエンザといった感染症が流行しますが、その理由には「ウイルスは低温で乾燥した環境で感染力が強くなるから」「ウイルスや細菌が拡散しやすい室内にとどまる時間が増えるから」といった説が挙げられています。ハーバード大学とノースイースタン大学のチームによる研究で「寒くなると鼻にある免疫機能が損なわれる」という新たな生物学的メカニズムが発見され、これが冬に感染症が増える理由かもしれないと研究者らが説明しました。

Cold exposure impairs extracellular vesicle swarm–mediated nasal antiviral immunity - Journal of Allergy and Clinical Immunology
https://doi.org/10.1016/j.jaci.2022.09.037

Why Upper Respiratory Infections Are More Common in Colder Temperatures | Harvard Medical School
https://hms.harvard.edu/news/why-upper-respiratory-infections-are-more-common-colder-temperatures

Why colds and flu viruses are more common in winter | CNN
https://edition.cnn.com/2022/12/06/health/why-winter-colds-flu-wellness/index.html

感染症は例年冬になると流行しますが、感染症の原因となる細菌やウイルスは冬に限らず一年中存在しています。それにもかかわらず冬に感染症が増える理由について、ハーバード大学医学部の耳鼻咽喉科医であるBenjamin Bleier氏は、「従来、空気中のウイルスが拡散しやすい室内にいる人が増えるため、風邪やインフルエンザは寒い季節に流行すると考えられていました」と述べています。


ウイルスや細菌が人体に感染する経路はいくつかありますが、中でも鼻孔は外部環境と体内の主な接触点の1つであり、鼻孔における免疫反応は感染症を防ぐ上で重要です。Bleier氏らによる2018年の研究では、鼻孔の細胞が病原体を検出すると大量のextracellular vesicle(EV:細胞外小胞)が鼻孔内の粘液に放出され、病原体を取り囲んで攻撃することがわかりました。

EVは細胞より最大20倍も多くの受容体を持っており、ウイルスを攻撃するマイクロRNAも正常な細胞より13倍多いとのこと。Bleier氏は、「EVは細胞のように分裂することはできませんが、インフルエンザウイルスなどを殺すために特別に設計された細胞のミニバージョンのようなものです」「EVはおとりとして機能し、吸い込まれたウイルスが細胞ではなくこれらのおとりに付着します」と述べ、EVはウイルスが体に入るのを防いでいると指摘しています。


Bleier氏らの研究チームは、鼻の細胞によるEV放出とウイルスの関係について研究する中で、鼻の内部温度の変化がEV放出にどう影響するのかを調べる実験を行いました。まず研究チームは、健康なボランティアを室内環境からセ氏4.4度の寒い環境に15分間ほどさらすと、鼻孔の温度がセ氏5度も低下することを確認しました。

続いて、この温度低下を鼻組織サンプルに適用して免疫応答を観察すると、細胞から分泌されるEVの量が42%も減少し、EVに含まれる受容体やマイクロRNAの数も半分以下になってしまうことが判明しました。

Bleier氏は、「これは鼻が持っている免疫上の3つの利点をノックアウトするのに十分です」「寒い空気はウイルス感染の増加と関連しています。なぜなら、気温が少し下がるだけで免疫力が半減してしまうからです」と述べています。

研究には関与していないスタンフォード大学医学部の耳鼻科医であるZara Patel教授は、この研究は気温低下による自然免疫反応の制限について、生物学的に説明した初めての例だと評価しています。その一方で、「これらは試験管内の研究であることに留意が必要です」と述べ、必ずしも生体内で同様の反応がみられるとは限らないと指摘しました。


研究チームは一連の研究結果から、将来的に鼻の自然免疫応答を誘発・強化する治療法や、EVやEV内受容体の数を増やす点鼻薬などの開発を期待しています。

また、マスクの着用が鼻を直接冷たい空気にさらすことを防ぎ、免疫力を高く保つために役立っている可能性もあるとのこと。Bleier氏は、「マスクはウイルスを直接吸い込むのを防ぐだけでなく、鼻にセーターを着せたようなものです」と述べたほか、Patel氏も「鼻の中を温かく保つことができれば、自然免疫メカニズムがうまく機能するようになるのです。マスクが必要な理由がまた1つ増えたかもしれません!」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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