サイエンス

脂肪細胞から脳への「直通回線」が肥満を促進している可能性、回線を切ると脂肪が燃焼したとの研究結果


マウスの神経細胞を可視化する研究により、脂肪と脳の間にある神経ネットワークの存在が明らかになりました。研究者がこの接続を切断したところ、マウスの脂肪の燃焼が促進されたことから、この研究結果は将来的に肥満やメタボリックシンドロームといった代謝性疾患の治療に応用できると期待されています。

The role of somatosensory innervation of adipose tissues | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05137-7

Scripps Research scientists eavesdrop on communication between fat and brain | Scripps Research
https://www.scripps.edu/news-and-events/press-room/2022/20220831-ye-fatbrain.html

Mouse study reveals how fat 'talks' directly to the brain, and what that means for weight loss | Live Science
https://www.livescience.com/fat-cells-talk-to-brain

以前から、脳が神経ネットワークを通じて脂肪組織にエネルギーを燃焼させるよう指示していることは知られていましたが、脂肪組織から脳への逆方向のメッセージは血液中に放出したホルモンで伝達されているという考えが主流でした。一方、体に危険が迫っている時の「闘争か逃走か反応」をつかさどる交感神経が脂肪と脳のやりとりを担っているのではないかと提唱する研究者もいましたが、脳や体の表面とは違って脂肪組織に埋もれたニューロンは見えにくく刺激も伝わりにくいため、この説を立証することは困難でした。

そこで、アメリカ・スクリプス研究所のLi Ye教授らの研究チームは、脂肪組織の神経ネットワークを可視化するための手法を2つ開発しました。1つ目はマウスの体組織を透明化し、脂肪組織に入り込んだ神経細胞のネットワークを正確に追跡できるようにした「HYBRiD」という手法です。これにより、脂肪細胞にある神経細胞の半分が交感神経系に、もう半分は体の末端と脊髄をつなぐ後根神経節につながっていることが判明しました。


脂肪組織にある神経細胞の働きをより詳しく調べるため、研究チームはアデノ随伴ウイルスというベクターウイルスを用いて特定の神経を標的にする「Retrograde vector optimized for organ tracing(ROOT:臓器トレーシングに最適化された逆行性ベクター)」という2つ目の技術を開発し、マウスの脂肪組織にある神経細胞を破壊してその反応を観察しました。

この時、研究チームが特に注目したのが鼠径部白色脂肪組織という部分です。脂肪細胞には種類があり、脂肪を燃焼する「褐色脂肪細胞」と脂肪を貯蔵する「白色脂肪細胞」、そして白色脂肪細胞が脂肪を燃焼させるために褐色脂肪細胞のようになる「ベージュ細胞」の3つに分けられます。

研究チームがROOTを使ってベージュ細胞と後根神経節をつなぐ神経細胞を破壊したところ、マウスのベージュ細胞が増大して脂肪がより多く燃焼されるようになりました。また、脂肪が燃焼されたことでマウスの体温が上昇し、太りにくくなったことも確かめられました。


Ye教授は、脂肪を自動車のガソリンにたとえて、交感神経には脂肪を燃焼させるアクセルペダルの役目があると説明しています。これに対し、今回見つかった脂肪と脳のネットワークはブレーキペダルに相当するとのこと。つまり、脂肪と脳のネットワークを破壊されたマウスの体温が上昇したのは、脂肪の燃焼を抑えるブレーキがなくなったからでした。

こうした点からYe教授は、「ブレーキ単体を操作したり、アクセルとブレーキの効き具合を調整したりできれば、より多くの脂肪を燃焼させることができる可能性があります」とコメント。脂肪と脳のコミュニケーションの秘密が明らかにした今回の研究が、肥満の人のダイエットに役立つのではないかとの見方を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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