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「ニコチンの新時代」の到来で世界のタバコ関連産業は魅力的な投資対象になっているとの主張


近年ではタバコの健康被害が広く周知されるようになり、各国はタバコの規制や課税を強めるといった政策を打ち出していることから、「いずれタバコ業界は消滅するだろう」と考える人もいるかもしれません。ところが、ビジネス関連の分析を発表するブログ・Invariantのライターで投資家のデヴィン・ラサール氏は、世界には「ニコチンの新時代」が到来しており、タバコ関連産業は消滅どころか魅力的な投資対象になっていると主張しています。

The New Era of Nicotine - by Devin LaSarre - Invariant
https://invariant.substack.com/p/the-new-era-of-nicotine

ラサール氏は、20世紀初頭にタバコ会社に投資した1ドル(約130円)は記事作成時点で700万ドル以上の価値があり、1世紀以上にわたり年率14%以上のリターンを複利でもたらしてきた素晴らしい投資だとしています。ところが、近年では環境(environment)・社会(social)・ガバナンス(governance)に基づいて企業を評価するESG投資の影響力が強まり、大手金融機関がタバコ会社の株式を売却したこともあってタバコ会社の株価は下落傾向にあるとのこと。

タバコによる健康被害の周知や政府の規制強化により、消費者だけでなくメディアや評論家も「タバコ産業は消滅を運命づけられている」と主張していますが、ラサール氏はそう思わないと主張。タバコ産業が有望な投資対象になっていることを示すため、いくつかの観点から分析を行っています。


◆タバコは本当に過去のものなのか?
タバコは安価で利益率が高く、製造が比較的容易で、確かな市場と忠実なリピーターを抱えています。これらの点はタバコがほぼ完璧な製品であることを示していますが、「タバコの健康被害によって消費者が比較的短命であるため、顧客が一生のうちに企業へもたらす顧客生涯価値(CLV)が少ない」という欠点もあります。

しかし、規制強化によってタバコの吸える場所が減ったり、健康を気にして禁煙する人が増えたり、販売価格が上昇したりしているにもかかわらず、「タバコは過去のものになるでしょうが、まだそうではありません」とラサール氏は述べています。以下は、2017年~2020年のタバコ販売本数のパーセンテージと実数(100万本単位)を示した表であり、「Retail Volume」が合法的なタバコの販売本数を、「Retail and Illicit Volume」が違法なタバコを含めた本数を示しています。数字を見てみると、29位の日本では12.1%減と急激に販売本数が減少しているものの、一部の国々ではタバコの販売本数が増加しているほか、世界全体で見ても合法なタバコの販売本数は1.4%減と、それほど急激に下がっているわけではないことがわかります。


ラサール氏は、これらの数値はあくまで新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の2017年~2020年のものであり、パンデミックによってタバコの販売本数にも影響が出ていると指摘。それでも、タバコの価格上昇は販売本数の減少をほぼ相殺しており、収益性は継続的に成長しているとのこと。また、あくまでも「タバコ」はタバコ関連産業の一部分でしかないとして、産業全体について考えるには「新世代のニコチン製品」にも目を向ける必要があると主張しています。

◆新世代のニコチン製品
長らく、ニコチンを摂取する方法は紙巻きタバコ・葉巻・かみタバコ・水タバコ(シーシャ)などでしたが、過去10年間でニコチン供給電子タバコ(ENDS)・加熱式タバコ(HTP/HNB)・ニコチンパウチ(TFNP/MONP)など、さまざまな低リスクのニコチン製品が市場に参入しています。

電子タバコはニコチンを含む液体を加熱してエアロゾルを生成し、その蒸気を吸い込む電子駆動装置であり、「VAPE」という名称でも知られています。一方、加熱式タバコは実際にタバコの葉を使っていますが、燃やすのではなく加熱することで蒸気を発生させる仕組みとなっており、日本では「IQOS」などが有名です。ニコチンパウチはニコチン・水・香料などを含んだ植物ベースの繊維で作られた経口パウチであり、口の中に入れると香りを楽しみつつニコチンの効果を得ることが可能です。

もちろんニコチンを使っている以上、これらの低リスクといわれる製品にも健康上のリスクは付きまといますが、科学界や多くの政府は「タバコなどの燃焼式製品よりは安全」という見解で一致しています。タバコやニコチン製品の相対的なリスク評価を示した研究では、以下のように「Cigarettes(紙巻きタバコ)」「Pipe Tobacco(パイプ)」「Shisha(水タバコ)」などと比較して、「HTP(加熱式タバコ)」や「ENDS(電子タバコ)」のリスクが相対的に低いと報告されています。


◆人々はニコチンを好む
ラサール氏は「re-nicotization(再ニコチン化)」という言葉を使い、人間は結局のところ、ニコチンを好むようにできていると主張しています。再ニコチン化の思考プロセスは以下の通り。

1:人間は歴史的に、考えや感覚を変えたり強化したりするために物質を使いたがる。
2:特定の規制と喫煙による悪影響の認識が、人々の喫煙率を低下させる。
3:健康上の懸念や社会的圧力が避けられ、ニコチンへ簡単にアクセスできるのであれば、人々はニコチンを使用する。

以下の表は、タバコや電子タバコなどを含むニコチン関連製品について、小売価格の売上総額や市場に占める割合を示したもの。「Retail Value % Change(売上総額の%の変化)」に着目すると、2019年~2020年と2017年~2020年の両方で、2017年~2020年のニコチンパウチを除くすべての製品カテゴリで売上総額は増加していることがわかります。また、紙巻きタバコやかみタバコなどの割合は減少しているものの、電子タバコや加熱式タバコを含む新しいニコチン製品は急速にシェアを伸ばしています。なお、日本では加熱式タバコのシェアが30%を超えており、世界的にみても加熱式タバコの普及率が高い国だとのこと。


2019年~2020年にかけて、ニコチン製品の売上増加率を示したグラフがこれ。「電子タバコ(Vaping Products)」「Heated Tobac...(加熱式タバコ)」「Tobacco Free...(ニコチンパウチ)」の売上が急激に上昇していることがわかります。ラサール氏は、これらの新世代のニコチン製品は登場したばかりであり、元々の市場規模が小さい点を割り引いても、今後の成長が期待できる製品だと主張。特にヨーロッパや東アジアを除いた地域で、さらなる成長の可能性を秘めていると述べています。


「いくら新しいニコチン製品が有望だとはいえ、政府の規制によって尻すぼみになってしまうのでは?」と思う人もいるかもしれません。これに対しラサール氏はタバコ規制の歴史を振り返り、17世紀のロシアでは喫煙者の鼻の穴や唇を切ったりする刑罰が加えられたほか、オスマン帝国や中国、ペルシャでも厳しい刑罰によってタバコを取り締まる動きがあったと指摘。それにもかかわらず、現代までタバコを好む人々が絶えなかったことから、現代の民主主義的な国家がタバコを根絶するのは不可能ではないかと主張しています。

近年では、政府にとってもタバコの税収は重要な財源となっていることもあり、タバコを全面禁止するのではなく、比較的低リスクのニコチン製品への移行を促す傾向がみられます。また、低リスクのニコチン製品に移行することは、消費者にとっては健康への悪影響を軽減するメリットがあるほか、既存のタバコ関連産業にとってもCLV、つまり1人の顧客から生涯にわたって得られる価値を増加させるというメリットがあります。


喫煙者が低リスク製品へ移行するインセンティブとして、政府は通常のタバコより低い税率を設ける可能性が高いとラサール氏は指摘。安全上の観点からニコチン関連市場への新規参入は難しく、結果として既存のタバコ関連企業がニコチン製品の開発・販売を行うことになり、競争力の低い状態で収益性の高い事業に発展する可能性があるとのこと。

以上の結果から、ラサール氏が今後10年間におけるニコチン製品の売上総額をモデル化したグラフがこれ。青色の紙巻きタバコは非常にゆっくりと成長しますが、電子タバコや加熱式タバコは急速に売上高を伸ばすだろうとラサール氏は予測しています。


もちろん、世の中に存在するすべてのタバコ関連企業が同じ戦略をとるわけではなく、新たな波に乗ってうまくいく企業もあれば失敗する企業もあるだろうとラサール氏は考えています。それでも世界的にみればニコチンは消え去るのではなく進化している最中だとした上で、ラサール氏は「私たちは途方もない変化を目にしており、すべての利害関係者が恩恵を受ける新しいニコチンの時代に入っています」と述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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