サイエンス

生きたイナゴの脳と触角に電極をつないで口腔がんを発見する研究

by Wiktor Kettel

人間の体質の変化は分泌される化学物質にも影響を与えるので、優れた嗅覚を持つ犬にがんの有無を判別させたり、新型コロナウイルス感染者をかぎわけさせたりという研究が行われています。ミシガン州立大学の研究チームが、イナゴの脳と触覚を使って口の中にできる口腔がんを発見する方法を発表しています。

Harnessing insect olfactory neural circuits for noninvasive detection of human cancer | bioRxiv
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.05.24.493311v1

Using a locust's brain and antennae to detect mouth cancer
https://phys.org/news/2022-06-locust-brain-antennae-mouth-cancer.html

体内の血液や気道に存在する揮発性有機化学物質(VOC)を呼気から検出することで疾患を検出する「呼気分析」は、注射したり外科手術を行ったりしない非侵襲的な検査方法です。近年ではすでに肺がんや乳がんなど、いくつかのがんに関連すると考えられるVOCが見つかっており、がんの早期発見につながるとして期待されています。


しかし、呼気に含まれるVOCは100万分の1から1兆分の1という濃度であり、それほどまでにわずかな量しか呼気に含まれないVOCを検出するためのセンサーを開発するのは非常に困難。そこで、人間の何十万倍も嗅覚が鋭い犬の使用が検討されたり、専用の高感度センサーとシステムを組み合わせた「電子鼻」が開発されたりしています。

人の息を分析するだけで「食道がんになりやすい人」を発見できる電子鼻が開発される - GIGAZINE


ミシガン州立大学の研究チームは、大きな触覚を持ち、周囲の空気の化学変化を感知できるイナゴの触覚を利用する方法を研究しました。

研究チームの実験は非常にシンプルで、5齢のイナゴのオスとメスから脳を生きたまま取り出し、電極を埋め込みます。そして、がん細胞から揮発するVOCにさらし、その際の脳波を測定するというものです。


研究チームによれば、がん細胞はエネルギー生産のための代謝が正常な細胞と異なるため、VOCからがん細胞であることが判別できるとのこと。がん細胞は、人間の歯肉から採取されたものと舌から採取されるもの2種の計3タイプが使われてました。

以下の画像のうち、下3段が口腔がん細胞。一番上の「HaCaT」は対照するために用意された正常な表皮角化細胞です。


実験の結果、イナゴの脳はがん細胞と正常な細胞で脳波が異なることが判明し、イナゴの触覚と脳でがん細胞由来のVOCを検出することに成功したとのこと。検出時間は長くても250ミリ秒で、検出作業が一瞬で終わるのが今回の方法の利点であると研究チームは論じています。

研究チームは「生きた昆虫の脳を使ってがんを検出したのは、今回の取り組みが初めて」とコメント。今回の方法では、がんを検知するシステムに必要な信号を得るために6~10匹分のイナゴを使用する必要があるそうですが、研究チームはさらに研究を進め、使用するイナゴの脳を1匹分に抑えられることを計画しています。研究チームは、うまくいけばがん検出システムを持ち運び可能なほどコンパクトにすることができるかもしれないと期待を寄せています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1i_yk

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