メモ

原子力発電所の建設コストはなぜこんなに高いのか


原子力発電は他の発電に比べて発電コストが非常に安いというメリットがあり、脱炭素社会実現に向けて期待が寄せられる存在ですが、建設コストが高いという点が利用拡大を妨げています。アメリカでは1980年代、ワシントン州に複数の原子力発電所を建設する計画がありましたが、建設費が当初見積もりの6倍にまで増加したため建設は見送られています。なぜこれほど建設費が上昇したのか、建築に関するコラムを多数執筆しているブライアン・ポッター氏が情報をまとめています。

Why are nuclear power construction costs so high? Part I
https://constructionphysics.substack.com/p/why-are-nuclear-power-construction


Why are nuclear power construction costs so high? Part II
https://constructionphysics.substack.com/p/why-are-nuclear-power-construction-370

発電所を運営していくにあたっては「燃料費」「運転・保守費」「資本費(建設費の償却)」の3種類のコストがかかります。原子力発電所の場合、建設費が高額なため資本費が60%から80%に上るとのこと。


電力消費は時間とともに変化するため、発電所は需要の変化に合わせて稼働したり停止したりしますが、原子力発電所は発電してもしなくてもお金がかかり、停止・再稼働がそう簡単にできるようには設計されていないことが多いため、連続運転していることがほとんどです。

原子力発電は、熱源を利用して水を蒸気に変え、蒸気でタービンを回して発電するため、燃料以外は火力発電とほとんど同じです。原子炉には、減速材に軽水を用いる軽水炉、重水を用いる重水炉、黒鉛を用いる黒鉛炉などがあり、世界的にオーソドックスなのは軽水炉です。

専門家の中には他の方式の方が発電所には適していると考える人も多かったそうですが、アメリカでも軽水炉が主流になった理由は、アメリカ海軍が採用したことが大きいとみられます。アメリカ海軍では他に、冷却剤として液体ナトリウムを使う方式も検討されたものの、ナトリウムは水と激しく反応するため、海軍として用いる原子炉には適さないと判断されました。その後、民生用の原子力発電技術の早期発展のために、既存の軽水炉技術が使われることになったとのこと。

アメリカでは商業用原子力発電所は1960年代から建設が始まりました。以下のグラフは横軸が建設開始時期、縦軸が利息等を考慮せず建設を一晩でできるかのように想定したオーバーナイトコストでのキロワットあたりの建設費を示したもので、検証用の炉を除くと当初はキロワットあたり1000ドル(当時のレート(1ドル360円)で36万円)でできていたものが、10年で9000ドル(1ドル200円換算で180万円)にまで上がっています。


値上がりの傾向はフランスやドイツ、日本でも同様だとのことですが、アメリカは特に建設費の値上がり幅が大きく、「時間の経過とともに悪化した」ことから、「負の学習を示す」といわれています。

過去の試算によると、1976年から1988年の間の全体インフレ率は5.5%で、材料費は年7.7%上昇、人件費は年18.7%上昇していたとのこと。そもそも、建設にかかる時間が1960年代には5年強だったものが1980年には12年に伸びていて、資金調達や労働のコストが増加しています。このコスト増の要因の1つは、カルバート・クリフス原子力発電所建設にあたって、調整委員会と原子力委員会との訴訟の結果、「原子力委員会は発電所建設に先立ち、環境影響評価を実施しなければならない」と義務づけられたことです。

人件費の増加は、規制強化により発電所建設の負担が大きくなったのが一因です。専門技術者の団体が、どんどん新しい原子力関連の規格を開発し、基本構造部品の製造・試験・性能基準がより厳しくなることで、部品が高くなっていったというわけです。1970年代後半には、原子力発電所1基あたりに必要な設計工学の労力が3倍にまで増えたそうです。

こうした基準変更は、建設中の発電所での設計変更を引き起こし、場合によってはすでに作業した部分の撤去が必要となって、設計エンジニアやマネージャー、現場検査官など、高給取りの人々の介入と監視が求められることになりました。1978年時点で、「安定した許認可要件を達成することは、より短く予測可能なプロジェクト期間を得るための、あらゆる努力の明確な目標である」との意見が挙がっていたとのこと。

1970年代から2020年にかけての、原子力規制委員会規制ガイドと改訂の回数を示したグラフ。1970年代に改訂数がとても多く、その後、1980年代~90年代は改訂数が減って、2000年代からまた改訂数が少し増えていることがわかります。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
原子力発電は気候変動を止めるために不要なものなのか? - GIGAZINE

アメリカで風力による発電量が初めて石炭火力と原子力を同時に上回る - GIGAZINE

フィンランドで約40年ぶりに原子炉が新規建設され試験運用が開始 - GIGAZINE

気候変動に対処するためには原子力発電に投資するべきではないと専門家が指摘 - GIGAZINE

新時代の発電方式として注目される「小型モジュール式原子炉」とは? - GIGAZINE

次世代の原子力発電所がビル・ゲイツとウォーレン・バフェットの協力の下で建設予定 - GIGAZINE

in メモ, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.