サイエンス

地球外文明は宇宙船を使わずに「自由浮遊惑星」に乗って宇宙を旅している可能性


SF作品では高度な文明を持った人間や宇宙人が恒星間を移動する恒星間航行が登場することがありますが、記事作成時点の地球文明の技術力では、太陽系から別の惑星系へ移動するには膨大な時間がかかります。そんな恒星間航行について、ヒューストン・コミュニティ・カレッジの天体学者であるイリーナ・ロマノフスカヤ氏が、「高度な地球外文明は宇宙船ではなく『自由浮遊惑星』を使って恒星間航行している可能性がある」と主張しています。

Migrating extraterrestrial civilizations and interstellar colonization: implications for SETI and SETA | International Journal of Astrobiology | Cambridge Core
https://doi.org/10.1017/S1473550422000143

Civilizations Don't Even Need Space Ships to Migrate From Star System to Star System - Universe Today
https://www.universetoday.com/156081/civilizations-dont-even-need-space-ships-to-migrate-from-star-system-to-star-system/

人間は急速に技術力を発達させてきましたが、それでも記事作成時点の技術力では探査機が木星軌道に到達するまで5年もかかります。太陽系から最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリでさえ、光速で移動したとしても4年かかる距離にあることから、恒星間航行は非常に気の長い話となります。「プロキシマ・ケンタウリ系の惑星に有人宇宙船を送り込むには何人の乗組員が必要なのか?」を考察した研究では、2018年時点の技術力で作った宇宙船は惑星到達まで6300年もの時間がかかり、最低でも98人の乗組員が宇宙船内で世代をつなぐ必要があるとの結果が示されました。

ところがロマノフスカヤ氏は、高度に発達した地球外文明は恒星間航行に宇宙船を使うのではなく、恒星やその他の天体から重力的に解放された「自由浮遊惑星」を使う可能性があると主張しています。ロマノフスカヤ氏は、「地球外文明は惑星系に到達し、探査し、植民地化するために、自由浮遊惑星を恒星間輸送手段として利用する可能性があると提案します」と述べています。

地球にとっての太陽のような恒星から離れた自由浮遊惑星は、恒星の光や熱が届かないために暗くて寒い、居住に適さないものであると考えられがちです。しかし、場合によっては自由浮遊惑星でも放射線同位体の崩壊による地熱が生じ、活発な地質活動があり、惑星表面に液体状の水や大気を維持している可能性もあるとのこと。また、高度な文明は意図的に自由浮遊惑星の環境を変えたり、エネルギー源を開発したりして、生命の維持に適したものにすることもできるとロマノフスカヤ氏は指摘しています。


ロマノフスカヤ氏は、地球外文明が自由浮遊惑星を利用して恒星間航行を行う「4つのシナリオ」を提案しています。

◆1:たまたま付近を通りかかった自由浮遊惑星を利用する
2020年の(PDFファイル)研究では銀河系全体で500億個もの自由浮遊惑星がある可能性が示唆されており、もともとあった惑星が恒星系の重力イベントによって放出されるケースの他に、粒子が重い天体へと集積する降着によって形成されるケースもあるとみられています。また、太陽系におけるオールトの雲のように、惑星系の外側に位置する天体群から惑星が放出される場合も考えられます。

実際に、太陽系から17~23光年離れた場所にあるショルツ星は約7万年前にオールトの雲の外側を通過したと計算されており、惑星系の端を別の天体がかすめることはあり得るとのこと。もし、何らかの実存的脅威にさらされている高度な地球外文明があったとしたら、惑星系の周囲にある自由浮遊惑星の位置を予測し、比較的近くを通りかかった際に乗り込んで恒星間航行に利用することも不可能ではありません。


◆2:自由浮遊惑星を自分たちの惑星の近くまで持ってくる
十分な技術力を持った地球外文明は、オールトの雲のような天体群からめぼしい惑星を選び、推進システムを使って居住する惑星の近くまで誘導することも可能です。十分な時間的余裕があれば、地下シェルターやその他のインフラを建設したり、大気組成を変えたりゼロから作り出したりして、自由浮遊惑星をより住み心地のよい環境にすることもできます。

もちろん、遠くにあった惑星を無理やり惑星系の内部に引っ張ってくると、他の惑星の軌道が混乱するなどの影響が出るかもしれません。しかし、すでに恒星の膨張が始まっており、ハビタブルゾーンの変化と共に文明が惑星系の外側に移動していた場合、その影響は軽減されるかもしれないとのこと。

◆3:非常に長い公転周期を持つ準惑星を利用する
ロマノフスカヤ氏は、近日点でさえ太陽から76天文単位という非常に長い公転周期を持つ太陽系外縁天体セドナを例に挙げ、非常に長い公転周期を持つ天体を利用して惑星系の外に出るシナリオもあると主張。「これが可能なのは、すでに恒星から少なくとも60天文単位の距離まで惑星系を探査している非常に高度な文明でしょう」とロマノフスカヤ氏は述べています。

◆4:惑星系からはじき出される天体を利用する
死に近づいた恒星が膨張すると、どこかのタイミングで惑星系の外縁にある天体が恒星の重力的束縛を逃れ、惑星系の外に放出されることがあります。高度な地球外文明がそのタイミングを正確に予測できれば、事前に準備して自由浮遊惑星となる天体に乗り込み、死にかけている恒星から離れて別の恒星を探すことができます。


以上のシナリオはいずれも自由浮遊惑星を「恒久的な家」として捉えているのではなく、あくまで救命ボートとして考えているものです。ロマノフスカヤ氏は、「上記のすべてのシナリオにおいて、自由浮遊惑星は実存的脅威から逃れる恒久的な手段としては役に立たないかもしれません」「内部での熱生産が衰えていくため、そのような惑星は最終的に液体の水の海を維持できません」と指摘。

自由浮遊惑星は惑星系からはじき出されているため、恒星を中心に周回する惑星よりも利用可能な資源が少なく、季節や昼夜などもありません。「従って、地球外文明は自由浮遊惑星を恒久的な故郷とする代わりに、別の惑星系に到達して植民地化するための星間輸送手段として使用します」とロマノフスカヤ氏は述べています。


また、恒星の死といった実存的脅威から逃れるためだけではなく、自由浮遊惑星による恒星間航行を繰り返して銀河全体を植民地化する地球外文明が存在する可能性もあります。この場合、親となる文明は異なる惑星系にユニークで自律的な子文明を作り出すとのこと。

ロマノフスカヤ氏は、もし地球外文明が自由浮遊惑星を使って恒星間航行をしている場合、太陽帆と星間物質の相互作用によるサイクロトロン放射や不自然な赤外線放射など、何かしらの技術的痕跡がある可能性を指摘。自由浮遊惑星からこれらの痕跡を検出することにより、地球外文明の存在を知ることが可能かもしれないとロマノフスカヤ氏は主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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