サイエンス

土星の衛星・タイタンに「本来なら存在できないはずの砂丘」がある謎に科学者が迫る


土星の第6衛星であるタイタンは、太陽系内で唯一豊富な大気を持つ衛星であり、地球以外で表面に安定的な液体を持つただ一つの天体でもあります。いくつかの点で地球と類似した特徴を持つタイタンにおいて、「本来なら存在できないはずの地球のような砂丘が存在する」という謎について、スタンフォード大学の惑星地質学者であるMathieu Lapôtre氏が率いる研究チームが新たな仮説を提唱しました。

The Role of Seasonal Sediment Transport and Sintering in Shaping Titan's Landscapes: A Hypothesis - Lapôtre - 2022 - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1029/2021GL097605

Scientists model landscape formation on Titan | Stanford News
https://news.stanford.edu/2022/04/25/scientists-model-landscape-formation-titan/

This Giant Moon of Saturn Has Yet Another Strange Similarity to Earth
https://www.sciencealert.com/the-alien-environment-of-titan-reveals-another-strange-similarity-to-earth

タイタンは主に氷と岩石で構成された天体であり、窒素やメタンエタンからなる濃い大気を有しています。また、タイタンには地球の水循環と似たメタン循環が存在し、液体メタンの雨が降り、表面にはメタンやエタンからなるが存在することも確認されているなど、地球に類似した気象現象が存在していることで知られています。

そんなタイタンには地球のような砂丘も存在していますが、この砂丘の存在は科学者にとって大きな謎だったとのこと。タイタンは確かに地球と似た特徴を持っていますが、水循環の代わりにメタン循環が存在するように、その構成要素には違いがあります。同様に、地球における砂丘は主に無機ケイ酸塩が堆積したものですが、タイタンの砂丘を構成するのは無機ケイ酸塩より機械的にもろい有機化合物の粒子だそうです。

Lapôtre氏は、「風が粒子を運ぶ時、粒子は別の粒子やタイタンの表面と衝突し、これにより粒子は時間と共に小さくなる傾向があります」と指摘。タイタンの砂丘を構成する粒子は時間と共に摩耗して小さなチリとなり、ついには大きくて粗い粒子を必要とする砂丘のような凝集構造を維持できなくなってしまうはずです。

しかし、タイタンの赤道付近に存在する砂丘は数万年~数十万年にわたり維持されてきた可能性が高いことから、そこには地質学的スケールにわたり粒子の大きさを維持する、何かしらのメカニズムが存在すると推測できます。「摩耗による粒子サイズの減少に対抗し、時間が経過しても安定した大きさを維持できるようにする成長メカニズムが、私たちにはありませんでした」とLapôtre氏は述べています。

by Kevin Gill

研究チームはこの謎を説明するメカニズムを、バハマ周辺などの浅い熱帯の海底でよく見つかる「ウーイド(魚卵石)」という粒子に触発されて考案したとのこと。ウーイドは丸みを帯びた直径2ミリメートル以下の粒子であり、生物骨格粒子や石英粒子から構成される核が、炭酸カルシウムなどの層に覆われています。

ウーイドの特徴として、核の外側に層をなす物質は海洋環境における化学的沈殿を介して付着したものであり、時間と共に粒子がより大きくなるという点が挙げられます。この粒子の成長スピードと、波などにさらわれることによる粒子の侵食スピードが釣り合うことで、ウーイドは一定期間にわたり安定的な粒子の大きさを維持しているとのこと。


研究チームのモデリングによると、ウーイドと同様のプロセスでタイタンにおける有機粒子の存在を説明できるとのこと。タイタンでは隣り合う有機粒子が焼結して1つの塊となることで成長し、摩耗によるサイズ減少を打ち消すのではないかと研究チームは示唆しています。粒子の大きさを維持するこのメカニズムは赤道付近の砂丘だけでなく、極付近の地形を形成する上でも重要だそうです。

Lapôtre氏は、「材料が非常にもろいにもかかわらず、なぜタイタンにこれほど長い間砂丘があったのかというパラドックスを解決することができました」「これほど距離が遠くて物質も違うのに、こんなにも似ている別世界があることを考えるのは非常に魅力的です」と述べました。

by NASA's Marshall Space Flight Center

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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